この映像は1965年のアイルランドツアーのドキュメンタリー・フィルムだが、移動中の機内、車内からホテル内、レストランでの食事などからコンサートまでとまさに演出のないビートルズの『A Hard Day's Night』。「The Last Time」「Satisfaction」とオリジナル曲で立て続けに世界的な大ヒットを放ち、自信と成功の喜びが溢れている、若々しいストーンズのステージだけでなくオフの自然な姿が見られるのは本当に凄い。60年代にこれだけありのままを収めた映像は他にないのではないか。プロペラ機での移動、空港で待ち構えるファン、メンバーは気さくにサインに応じているが、ファンの女の子達は髪の毛を後ろから引っ張ったり、無理やりキスしたりとずいぶん失礼だ。まずダブリンの公演から3曲。「The Last Time」から始まるが、幕が開かないうちにイントロが始まり、幕が左右に開いていくという今では信じられないオープニングだ。ミックの歌うハーモニーもレコードと同じメロディとキーで歌い、とてもいい。その後は「Time Is On My Side」「I'm Alright」が披露されるが、最後の曲では興奮した男の観客がステージに何人も上がり込み、メンバーに抱き着いたり引き倒したりもうメチャクチャ。そのあとはホテルでキースがアコギで「Sittin' On A Fence」を歌い、ミックが韻を踏んだ方がいいんじゃないかとアドバイスするが、キースの詞の方でいいやなんて貴重なやり取りが見られる。そして「Tell Me」を二人で歌い、あとはアドリブでビートルズの「I've Just Seen A Face」と「Eight Days A Week」をミックとキースが歌う(一部だが)という夢のような瞬間が見られる。(最後の方でミックは「I Feel Fine」もハミングしていた)レストランでの食事では、ドア越しに妙齢のご婦人方がストーンズに熱い視線を送り、ミックは窓越しに挨拶に行ってサービスしていたのも面白い。移動中の電車の中ではみんなでロンドン子なら知っている歌なのだろう、みんなで楽しく歌っている。キースはいつもアコギを持っていて「Salty Dog」をキースとブライアンで歌うという珍しいシーンがある。ブライアンはこの頃からクールで、何か馴染めない雰囲気を出していた。もう1回のライブは服を変えて「Everybody Needs Somebody To Love」「Around And Around」そして「Satisfaction」をライブで披露するが、前回の反省もあって警官が大量にステージに着かづけないようにしていたので、観客は熱狂していたがステージは無事に終わった。
エンディングではキースのアコギに合わせたミックとキースのデュオで「I'd Much Rather Be With The Boys」で終わる。ストーンズはもう1枚『Crossfire Hurricane』(Walrd/VQBD10117)DVDが歌の完奏がない。ボーナスで1965年のドイツ公演の「Around And Around」「Satisfaction」「I'm Alright」の3曲は見られるが固定の1カメが中心でもう1カメもヨコナメで芸がなく音もよくない。また武道館のビートルズの日本公演のように観客は席を立つことを許されていないようで盛り上がりに欠けていた。国民性が似ているのかな。このDVDもいいがヒストリーものなら以前LDで出ていた『25×25』の出来が良かったので、なぜDVD化しないのか不思議だ。(佐野)