では先に世界初登場のステレオ・ミックスの方から紹介しよう。まず『Today!』の初ステレオは「Do You Wanna Dance」「Don't Hurt My Little Sister」「Help Me Ronda」「In The Back Of My Mind」。ブライアンがモノラルでミックスに埋めこんでしまった楽器やハーモニーが聴こえるようになり思わず息を飲む。これだけ丁寧に作ったサウンドを惜しげもなくモノラルに埋めこんでしまってしまったから、モノラルでこれだけ長い間、感動を与えられたのだろう。しかしステレオ好きの筆者としては、これらの曲をステレオで聴けるのは極上の喜び。そして「Do You Wanna Dance」のステレオは19秒も長くなり、最後の目いっぱいのファルセットのリフレインを、もう一回味わえた。「In The Back Of My Mind」のステレオも5秒長く、エンディングのストリングスがフェイドアウトしないで完奏する。また既にステレオ化がバラバラに進んでいた「Please Let Me Wonder」から「She Knows Me Too Well」までの黄金のバラード4曲も、こうやってステレオで順に聴くのは最高である。そして『Summer Days』だ。ここでは「The Girl From New York City」「Amusement Parks USA」「Summer Means New Love」「I'm Bugged At My Ol' Man」は初ステレオで、「Help Me Rhonda」(=シングル・ヴァージョン)と「Girl Don't Tell Me」はマーク・リネットの監修のもとでDerry FitzgeraldによってStereo Extraction Mixが作られた。まずはなんといっても「Amusement Parks USA」が素晴らしい。封印されていたミックスが一気に飛び出し、エコーで多少モコモコしているが、新曲を聴いたような新鮮さがある。Stereo Extraction Mixは、今回では他にやはりモノラルしか存在していない「I Get Around」と「Good Vibrations」がこの手法。トゥルー・ステレオほどの解像度はないが、例えば「Help Me Rhonda」では、シングル・ヴァージョンのキモである"Help Me Rhonda"のリフレインからの歯切れのいいギターの飛び出しが鮮明に聴こえてより魅力的になった。「Girl Don't Tell Me」もギターのアコースティック感が増している気がする。『Beach Boys' Party』は全てが初ステレオ化。こういうスタジオ・ライブなので顕著な違いは現れにくいが、「Mountain Of Love」のアコースティック・ギターが鮮明に聴こえてくるところなど魅力だ。『Smiley Smile』は「Heroes And Villains」と「Vegetables」以外が初ステレオ。このアルバムは何度聴いても好きになれないが、ステレオの「With Me Tonight」はあの乾いたサウンドではなく、しっとりとした肌触りで魅力が増していた。「Good Vibrations」のStereo Extraction Mixもきれいに振り分けられ健闘している。
さて続いて初CD化のモノラル盤を順に、明らかな違いがあるもののみ、紹介しよう。ステレオに比べて短いものはメリットがないのでパスさせていただく。『Surfin' USA』では「Lana」が6秒長い。ステレオは"Lana"とキーを高くして歌うパートでファイドアウトしてしまうが、モノはもう一度リフレインになり、そこは別に崩したメロディで歌う。「Finders Keepers」は4秒長いが、最後のマイクがゴチャゴチャ言うところが長い程度。『Surfer Girl』は、まず「Catch A Wave」が11秒長く、最後のリフレインがステレオは2回だがモノラルは4回である。「The Surfer Moon」は4秒長くリフレインが2回から3回に。「South Bay Surfer」は5秒長く、ステレオではマイクの低音ですぐにフェイドアウトしてしまうが歌が続く。「Hawaii」は3秒長く、ステレオではウーウーのファルセットが高くなってすぐに終わるが、モノラルはホノルル、ワイキキ...とリフレインが続く。「Your Summer Dream」は6秒長く、ステレオでは"summer dream"のキーを高く歌うとすぐにフェイドアウトするが、モノラルはもう一度リフレインを聴くことができる。『Surfer Girl』は総じてモノラルが長くお得。「Little Duece Coupe」も9秒長いシングル・ヴァージョンである。ところがこの曲を冠にいただいたアルバム『Little Duece Coupe』のモノラルはステレオと同じ長さでしかなく、最後のブライアンのファルセットのアドリブ・ヴォーカルを聴くことができない。加えて「Spirit Of America」と「Our Car Club」は最後のリフレインが1回ずつ少ないなど、お得な部分がない。『Shut Down Volume 2』の「Louie Louie」が5秒長いが、ステレオの"me gotta go now"の"now"がモノラルでははっきり聴こえず、その代わりリフレインが1回長い。このアルバムのステレオはフェイドアウト部分で演奏を絞りアカペラに近い編集をしているが、モノラルでは演奏を絞っていない。なお「Fun Fun Fun」のモノラルはもちろん14秒も長いシングル・ヴァージョンである。
『All Summer Long』の「Don't Back Down」は8秒長く、最後の"ウーウーdon't back down"のコーラス部分が続いていく。「Wendy」は3秒長く、エンディングの"hurt so bad"が3回目まで聴こえる。「Girls On The Beach」も2秒長く最後のリフレインが1回多い。
そして「Do You Remember」のモノラルは最後のフェイドアウトしていく部分にブライアンのウーウーというファルセットが多く入っている。
『Sunflower』『Surf's Up』も含め、デジパックで、折になっているので本来のバックジャケットは内側の表2部分になり、表から見える表4のバックジャケットは別の写真を使っている。表3の部分の写真のセンスもよく、アート・ディレクションも素晴らしい。
なおオファーのあった『Surfin' Safari』『Wild Honey』のステレオは制作を続けているそうで、モノラルが未CD化の「Beach Boys Concert」「Christmas Album」と合わせて後にリリースされる可能性があるようなので楽しみに待とう。またオリジナル・アルバムから漏れる「The Little Girl I Once Knew」や「Be True To Your School」のシングル・ヴァージョンのステレオも忘れずに。(佐野)
『Surfin' USA』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71371)
『Surfin' USA』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71371)
『Surfer Girl』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71372)
『LittleDeuce Coupe』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71373)
『Shut Down Volume 2』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71374)
『All Summer Long』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71375)
『The Beach Boys Today!』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71376)
『Summer Days(And Summer Nights)』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71377)
『The Beach Boys' Party』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71378)
『Pet Sounds』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71379)
『Smiley Smile』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71380)
以下はステレオ・リマスター盤
『Sunflower』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71381)
『Surf's Up』(EMIミュージック・ジャパン/TOCP71382)
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