2008年の傑作『microstar album』から3年、microstar(マイクロスター)が9月7日に新作シングル『夕暮れガール』を7インチ・アナログでリリースする。
一足先にサンプル音源を聴かせてもらった結論からいうと、良識あるポップス・ファンなら直ぐに予約することを強くお勧めする。
前アルバム『microstar album』を21世紀型のソフトロック、ガールポップと絶賛した筆者であるが、80年代にリアルタイムで大滝詠一の「君は天然色」をサマー・アンセムとした世代にとって、そのサウンドからほとばしるエッセンスに一種のカタルシスを感じずにはいられなかった。
元ナイスミュージックのメンバーで、ソングライティングとアレンジ、主要楽器のプレイとプログラミングを担当する佐藤清喜と、ナイスミュージックやスクーデリア・エレクトロのサポート・メンバーとして活躍していた作詞とヴォーカル兼ベーシストの飯泉裕子による二人組のユニットは、ミニマムなメンバーで拘りのポップスを追求する現代のスチュワート&ガスキンと言っても過言ではない。
そしてこの度リリースされる『夕暮れガール』だが、近年では流線形の「ムーンライト・イヴニング」(『ナチュラル・ウーマン』(09年)収録)にも通じる、Dr. Buzzard's Original Savannah Band(以下サバンナ・バンド)系列の40年代ジャンプ・ブルースとサルサのエッセンスを70年代のダンス・ミュージックで消化させた多幸感溢れるサウンドで、正に嬉しい裏切りとして再び筆者の心を掴んでしまった。
四つ打ちのキックとロータムのバックビート・アクセント、サルサ特有のカリビアン・リズムでスイングするハイハットとシェイカーのドラム&パーカッションに、ラテン・グルーヴの弧を描くベース・ラインが加われば心躍らずにいられない。またハイハットとリンクするギターの刻み、フェイザーを深めに掛けたギターのリフやヴィブラフォンのオブリガードなど、サウンドのデティールに配慮した拘りは見逃せない。
ホーン・アレンジにも少し触れておこう、ジャンプ・ブルースの祖となるビッグ・バンドのスイング・ジャズに影響されたホーン・アレンジは元来ダンス・ミュージックのためのものであるが、これにサルサのリズムや70年代ディスコ・サウンドとの融合を最初に試みたサバンナ・バンドのストーニー・ブラウダーJrとオーガスト・ダーネル(後のキッド・クレオール)は画期的な音楽発明をしたといえる。
とにかくマイクロスターの新曲『夕暮れガール』は、深い音楽性を大衆音楽の発祥というべきダンス・ミュージックで発展させた希有な曲である。
またカップリングの「daisy daisy」は、97年にリリースされたミニアルバム『microfreaks』収録曲を99年にリメイクした英語歌詞ヴァージョンで、ノーザン・ダンサーのガールポップスだ。サウンド的には80年代初頭の英コンパクト・オーガニゼーションのトット・テイラーが手掛けたマリ・ウィルソンにも通じる。
7インチ・アナログということで、MP3やCD以上の周波数帯で音楽を堪能したい音質重視派からターンテーブルを武器にしているDJにはうってつけのフォーマットである。またアナログ盤のリスニングが出来ない方用にCDRが付いているのもありがたい心遣いだ。
何度言うが間違いないガールポップなので良識あるポップス・ファンは即予約しよう!
(ウチタカヒデ)