1966年くらいからモノラルが貴重になり、CDになってもステレオばかりなので、この手のリイシューは本当に待っていた。さて、キンクスの中でも最もサイケデリックなムードもあって人気の『Something Else』だが、モノサイドの目玉は「David Watts」と「Harry Rag」の初期のデモだ。どちらもバンドの演奏だがまだアコースティックギターが中心であっさりと歌っているので新鮮だ。「Suuny Afternoon」「Autumn Almanac」「Mr.Pleasant」「Susannah's Still Alive」「David Watts」は未CD化の1967年のBBCのスタジオ・ライブだ。どれも息遣いが感じられるような生々しいテイクで、こういう荒々しさが残るテイクは聴き込んでしまう。ステレオサイドではまず「Tin Soldier Man」の原型であり歌詞が全く違う「Sand On My Shoes」が面白い。アレンジもまだデモ状態。「Afternoon Tea」「Mr.Pleasant」のデモも同じく初期の録音で、どちらもホンキートンク風のピアノが目立ち、レイ先生の歌い方はあっさりで、こちらも新鮮な感覚がある。そして何と言っても「Lazy Old Sun」。このピンク・フロイドもビックリのサイケデリックなナンバーの別ヴォーカル・ヴァージョンは、歌がシングルトラックとダブルトラックと交互に歌われ、実に面白い。でもこの曲はオフィシャルのダルなシングルトラックがベストなので、試行錯誤の過程が分かる。「Funny Face」の初期デモはこれらのデモの中ではかなり完成されていた。さらに「Tin Soldier Man」はカラオケ(「Sand On My Shoes」ヴァージョン)も入っていた。
続いて名盤の誉れ高いキンクスの代表作『Arthur』である。あの長いタイトルを今回はあっさりと縮めている。こちらは未発表トラックはステレオ・サイドにまとめて入った。まずは「Drivin'」の別テイクだ。アコースティックなタッチなので初期テイクなのは間違いないだろう。他はデイブの「Lincoln Country」と「Mr.Shoemaker's Daughter」のステレオと、デイブが歌う「Mr.Reporter」、さらに「Shangri La」のカラオケが収められた。
しかしこの2枚のアルバムのモノラルは新鮮で、「Victoria」「David Watts」「Waterloo Sunset」などをカセットテープを真ん中に置いて、ギター2本で自宅で友人と録音したことを思い出していた。アコギとエレキだったが、その音の手触りが似ていた。今から30数年前の録音だったが、そのカセットを探し出して聴いてみたら確かに似ている。もちろん歌声はハモっている程度だが。この時には合わせてフーの『Sell Out』の曲をアルバム大半ほぼ完コピしていた。このカセットを録音した1970年代後半には日本ではキンクスなんて話題にもならず、またフーでも『Sell Out』なんて誰も注目していなかったので、いい選曲してたじゃん、なんて思った次第。ギターの上手かったO君、元気にしてるかな。(佐野)
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