2011年6月25日土曜日

☆Kinks:『Face To Face(Deluxe Edition)』(Universal/277262-0)でキンクスのMono & Stereoシリーズ本格化。既に3枚リリース済だが、2nd,3rdはMonoのみなのでRarities仕様だった。

/我が愛するキンクスのアルバムの中でも3本の指に入るお気に入りのアルバムがこの『Face To Face』だ。この1966年リリースのアルバムは、数あるキンクスのアルバムの中でも最もポップなアルバムだろう。


前作までの黄金の3コードのリフを捨て去り、ポップかつストレート、レイ先生の作曲の才能が一気に花開いた。サウンド的にはニッキー・ホプキンスのハープシコードにより全体的に華やかになり、またアコースティックギターを多くフィーチャーしているので、サウンドに広がりが生まれ、ビートバンドからあっという間に上のステージへ脱却している。しかしその中でも憧れの楽園のハワイを揶揄した「Holiday In Waikiki」や、厭世的な「Sunny Afternoon」などレイ・デービスらしさは全開だ。さて、このDeluxe Editionの価値はステレオとモノ+数多くの未発表トラックにあるのだが、2004年に3枚組で登場した『The Village Green Preservation Society(Special Deluxe Edition)』が、内容といい装丁といい、お手本のようだ。この盤はSanctuaryレーベルでリリースされたが、Universalのリリース順はこのアルバムを飛ばしているので、一貫したシリーズと考えて間違いないだろう。
 『Face To Face』での初登場はモノラル・サイドで「Little Miss Queen Of Darkness(Alternate Take)」、ステレオ・サイドで「You're Looking Fine」「Sunny Afternoon」「Fancy」「Dandy」「Little Miss Queen Of Darkness」のAlternate Stereo Mixと、「This Is Where I Belong」と「Big Black Smoke」のステレオになる。ステレオ・サイドのものはイントロにカウントやエンディングの終止などで、オフィシャル・ヴァージョンと大きな違いはないように思える。モノの「Little Miss Queen Of Darkness」は間奏の後のメロディが明らかに違っていた。
 このDeluxe Editionのシリーズはすでに3枚リリースされていたので、それも簡単に紹介しておこう。過去形なのは、お恥ずかしいことに気づいていなかったから。音楽誌とか読まないので、チェックが甘いな。では未発表トラックのみ紹介しよう。
『The Kinks』(Universal/275627-4)は、モノでテンポが少し遅くハンドクラップが入らないブルースっぽい「Everybody's Gonna Be Happy」、ステレオでは超高速の「Too Much Monkey Business」と、「Got Love If  You Want It」のAlternate Takeと、1964年9月7日収録の「You Really Got Me」「Little Queenie」と1964年12月9日収録の「I'm A Lover Not A Fighter」「All Day And All Of The Night」「I've Got That Feeling」のBBCでのスタジオ・ライブ。BBCは当然、演奏・歌がまったく違うので注目だが、その中でも「Little Queenie」が目を引く。軽いアレンジで粘っこいストーンズとは違う。もっともストーンズが収録した年代も違うのだが。
『Kinda Kinks』(Universal/275632-4)は、ステレオ盤がないので、2枚目のディスクのシングル集に5曲の未発表トラックが入る。レイ自作の「Tell Me Now So I'll Know」は、もうお馴染みの曲だが、哀調が魅力の素敵な曲だ。しかしこの曲、どこかのCDに入っていたのでは...。他は「See My Friends(Alternate Take)」「Come On Now(Alternare Vocal)」。「Come On Now」の方は歌いながら途中で笑ってしまっている。加えて1965年8月6日に収録されたBBCのスタジオ・ライブで「You Shouldn't Be Sad」とカバーの「Hide And Seek」が入る。後者はチャック・ベリースタイルのロックンロールで、なかなか軽快だ。もう1枚は『The Kink Kontroversy』(Universal/275628-5)で、ステレオ盤が存在しないので、2枚目のディスクのシングル集にやる気のなさそうな歌い方の「I'm Not Like Everybody Else」(Alternate Take)と、BBCのスタジオ・ライブで1965年8月10日収録の「Never Met A Girl Like You Before」と1965年12月13日収録の「A Well Respected Man」が収録されていた。(佐野
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2011年6月19日日曜日

PIZZICATO ONE:『11のとても悲しい歌』(UNIVERSAL MUSIC/UCCT1221)



 ピチカート・ファイヴ解散から10年、その活動において常にイニシアティヴを握っていた小西康陽がPIZZICATO ONE名義でキャリア初のソロ・アルバムをリリースした。
 ピチカート在籍中から課外活動でも、プロデューサーやDJとして多くのワークスを残してきた彼が、そのソロ・アルバムではどの様な世界観を繰り広げたのか興味は尽きない。

 コロムビア*レディメイド時代のオムニバス・アルバム、『うたとギター。ピアノ。ことば。』(08年)の世界をソロ・プロジェクトで展開したと思しきこのアルバム、マリーナ・ションからウーター・ヘメルをはじめ、VANDA読者には2007年の『Full Circle』での復活が記憶に新しい、ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ(以下SCOF)など、11組のヴォーカリスト(グループ)が迎えられ、全編が英語詞の洋楽カバーとなっている。
 各曲へのヴォーカリストの配置は非常に絶妙で、昨年『Who Is This Bitch, Anyway?』(74年)のオリジナル・メンバーで来日公演(筆者も鑑賞した)をおこなったマリーナ・ショーによる、ジョン・レノンの希代の名曲「IMAGINE」など思いもつかいない組み合わせはさすがであり、ブルーノート・スケール或いはマイナー・キーへとアダプトされたメロディは、完全にマリーナのスタイルになっている。
 ストリングス・アレンジにはチャールズ・ステップニーの影響も感じ、リズム・セクションの核となっているウッド・ベースの重厚な響きには、そのサウンドを支えたクリーヴランド・イートンを彷彿させる。



 気になるロジャニコ&SCOFによる「SUICIDE IS PAINLESS」だが、映画『M*A*S*H』(70年)のテーマ曲として知られ、昨年小西氏が入院中のベッドで突然頭の中で聴こえてきたという。木管アンサンブルとヴィブラフォンを配したサウンドとSCOFのコーラスが溶け合って、レイジーな雰囲気は『Full Circle』を聴き込んだファンにもお勧めできる。
 筆者的には、英ジャズ系シンガーソングライターのグウィネス・ハーバートによる「A DAY IN THE LIFE OF A FOOL」(フランク・シナトラの歌唱でスタンダード化した、ルイス・ボンファの「カーニバルの朝」の英語歌詞版)から、昨年来日公演(筆者はこれも鑑賞していた)をしたマルコス・ヴァーリの自演カバーとなる「IF YOU WENT AWAY」(『サンバ'68』収録)への流れがたまらく好きだ。
 ラストはマリア・マルダーの名演で知られる「A LONG HARD CLIMB」を、ロイ・フィリップス(60年代末英マンチェスターのモッズ・トリオThe Peddlersのメンバー)が燻し銀の声で歌っており、何も言うことはない。

 アルバム全体的なサウンドはジャズ・コンボのリズム・セクションをフォーマットとしており、木管リードやヴィブラフォン、ハープのプレイヤーをフューチャー、または小編成のストリングスを配したトラックなど、楽器編成やアレンジにもそのセンスが貫かれている。
 渋谷系という陳腐なレッテルは捨て、良質なヴォーカル・アルバムとして風化することなく長く聴けるものであり、CD棚のジョニー・マチスの『Open Fire Two Guitars』やニルソンの『A little touch of SCHMILSSON in the night』の横に置いておきたい。
(テキスト:ウチタカヒデ




2011年6月18日土曜日

☆Rolling Stones:『The Singles 1971-2006』(ユニバーサル/UICY5011/55)



発売時に買ったので、すぐに紹介すればいいのにずるずる遅れてしまったのがこのストーンズのシングル集だ。ポールのボックスCDと合わせて紹介しておこう。
デッカ時代のシングル集は現行のCDと内容が変わらず、マテリアル的な価値しかない(だからいらない)のだが、このローリングストーズ・レーベル時代のシングル集は違う。1971年から2006年までの36年間、45枚のシングルCD173トラックのうちオリジナル・アルバム未収録ヴァージョンが90曲、そして最も肝心な初CD化の音源が11曲集められた。これだけでもう買うしかないね。その中でも特に貴重な初CD化の別テイクは「All Down The Line」(「Happy」のB面)と「I Think I'm Going Mad」(「She Was Hot」のB面)かな。その中でも「All Down The Line」が女性コーラスを大きくフィーチャーし、ファンキーないい仕上がりだ。アルバム未収録曲は他に「Cook Cook Blues」「The Storm」「So Young」「Jump On Top Of Me」「I'm Gonna Drive」「2000 Light Years From Home(Live)」「Play With Fire(Live)」「Undercover Of The Night(Live)」「I Go Wild(Live)」「All Down The Line(Live)」「Gimme Shelter(Live)」「Dance Pt 1(Live)」「Before They Make Me Run(Live)」「Hand Of Fate(Live)。ただし大きな失敗は「Sway」(「Wild Horses」のB面)がアルバム・ヴァージョンのままだったこと。これは最悪。あと「Brown Sugar」もモノシングルで最後が「オーライッ」のテイクを入れて欲しかった。(佐野)
 





☆Paul McCartney:『McCartney(Deluxe Edition)』(MLP/HRM32799-001)『McCartneyⅡ(Deluxe Edition)』(MLP/HRM32800-001)

ポール・マッカートニーの①オリジナル・アルバム+②未発表トラック入ボーナスCD+③DVDという構成のデラックスエディションが『Band On The Run』に続き2作まとめてリリースされた。
名作『Band On The Run』は当然、『McCartney』もファンが多いし(私も大好き)これも当然、でも『McCartneyⅡ』?これがこの仕様?ポールのアルバムの中でも人気のないこのアルバムを出すってことは、全部出すぞっていう意思表示だな。日本盤だと定価が1万円してしまうモノをこれから20枚以上...と考えると頭がクラクラしてしまった。Hear Musicの商売、エゲツないなあ。値段もそうだが、この馬鹿でかいブックレット付きのアルバム、狭い自分の部屋のどこに置けばいいんだ?その事もまったく考えてくれていないな。買わなきゃいいんだけど、未発表入りだと買ってしまうのがファンというもの、素直に喜べないリリースでした。まずは『McCartney』。「Every Night」「Junk」「Man We Was Lonely」は私の3強。プラス「Maybe I'm Amazed」で、もうこのアルバムはポールの全アルバムの中で個人的に10本の指に入るお気に入りになった。ただこのアルバムは発売当時、リアルタイムで買ったのだが(中1の時だ)、ビートルズのアルバムとの差があまりに激しくてガッカリしたのも思い出す。世間の評も酷評だったと思う。ジョンは我が道を行っていたがジョンはジョンなのでOK。ジョージが名作『All Things Must Pass』を出してしまったから、ポールは何で?っていう感じになってしまった。ポールにはビートルズのような緻密なサウンドプロダクションを期待していたので、肩すかしを食ってしまったのだ。でも時代が変われば評価も変わる。いつしかこのアルバムは自分も含め多くのポールファンの愛聴盤になっていた。で、肝心なボーナスディスクについて。まずは「Glasses」の後に一瞬だけ出てきて亡霊のようだった「Suicide」は、ポールのピアノの弾き語りで全貌が聴ける。オールドタイミーなジャズナンバーで、ポールはデビュー当時からこういうジャズコードを知っていてロックンロールとは対局にあるようなこういう曲を書くし、歌えたから、ビートルズがすぐに幅広い音楽性を持ったグループに進化できたんだなと思う次第。DVDには『One Hand Clapping』での弾き語りが入っているが、このシーンは『Band On The Run』収録のオリジナル版には無かったように思う。DVDヴァージョンの方が整理されていて出来がいい。そして『One Hand Clapping』で披露されていた「Maybe I'm Amazed」がCDに収録される。ポールの曲作りのセンスの良さと歌の上手さが際立つ名作だ。そしてCDには1979年グラスゴーでの「Every Night」「Hot As Sun」「Maybe I'm Amazed」が、DVDには同年のカンボジア難民救済コンサート(そういえば未だCDにならないな。なぜ?)の「Every Night」「Hot As Sun」が収録されている。面白いのはアップテンポにアレンジされた「Hot As Sun」で、リードギターもポールが弾いいていた。「Don't Cry Baby」と題された未発表トラックは「Oo You」のインストヴァージョン。これはこれで悪くないな。「Women Kind」という完全な未発表のピアノ弾き語り曲は、この当時のデモカセットに入っていて紛失していたものだとか。ポールの記憶でこの当時の曲と認定された。ジャズタッチではないがオールドタイミーな曲だ。DVDには1991年のMTV Unpluggedでの「Junk」「That Would Be Something」が収録された。「Junk」はインストでアンプラグドだと一段と哀愁があり味わい深い。「That Would Be Something」はボトルネックを使って一気にブルース・ナンバーに変貌した。これはなかなか面白い。DVDでは他に『McCartney』当時のリンダとのプライベートフィルムが見られるがこれは貴重。では次に『McCartneyⅡ』。テクノ風のチープなサウンドが嫌で、今聴いてもやっぱり好きなアルバムではない。ただし以前のような拒否反応はなくなったが。ポールのポップな音楽性が混じり込んでいたから、まあまあ聴けるってとこ。ボーナスCDはピックアップしたもののみ紹介しよう。まず「Blue Sway」は『Cold Cuts』での未発表曲で、地味な曲だがリチャード・ナイルのオーケストラをバックでまあ聴ける。「Bogey Woddle」はチープなテクノ風のキーボードがあんまりで、情け無さを誘う。「Mr H Atom/You Know I'll Get You Baby」も同様だ。語りの「All You Horse Riders/Blue Sway」といい、メロディメーカーとしてのポールはこれらの未発表曲にはどこにもいない。このアルバムにはもうⅠ枚ボーナスCDがありそこには「Comimg Up」「Front Parlor」「Frozen Jap」(タイトルといい中華風のメロディといい、不愉快な曲)「Dark Room」「Check My Machine」等はFull Length Versionと題された完奏したテイクを集められた。1分半~3分程度長く楽しめるが、元の出来がたいしたことがないので、こんな風に終わっているんだと確認する程度。他では「Summer's Day Song」の歌なしヴァージョンが入っていた。DVDは、いい曲しかプロモを作っていないので、こちらは楽しめる。ポールが12人編成のコンボの中で11人を変装(残る一人はリンダ)している「Coming Up」、しっとりと歌いあげる「Waterfalls」では自宅で曲を書きとめているポールが外へ出て背景が次々変わっていく。そしてパーティー風の楽しげな「Wonderful Christmastime」の3曲がプロモ。他では「Coming Up」のカンボジア難民救済コンサートでのライブと、Lawer Gate Farmでのデモが収められている。(佐野)