幻の名盤として99年に一度CDリイシューされた、シンガーソングライターBRIAN ELLIOT(ブライアン・エリオット)の唯一のアルバム(78年)が、SHM(スーパー・ハイ・マテリアル)-CDにて再びリイシューされたので紹介したい。
99年のリイシュー以後廃盤状態が続き入手困難であった本作、幻の名盤という名にふさわしいAORアルバムである。
一般的にはマドンナの86年のヒット曲「Papa Don't Preach」(当時特有のアレンジやサウンドでポップス・クラシックとはいえなくなったが名曲である)の作者として後年名をあげるが、シンガーソングライターとしての魅力はこのアルバムに集約されている。筆者もアナログ盤時代から聴き込んでいたアルバムだけに、再びのリイシューは極めて嬉しい。
エリオットのプロフィールについては、今回のリイシュー盤解説に詳しいのでそちらを読んで頂きたいが、ワシントン州出身で十代の頃よりミュージシャンとしてボビー・ヴィーのツアー・メンバーなどとして活動していたらしい。その後プロデューサーのエリック・ジェイコブセンと出会い本作が製作された。
VANDA読者ならご存知だと思うが、ジェイコブセンはラヴィン・スプーンフルの『Do You Believe in Magic』(65年)や『Daydream』(66年)を手掛けたことで知られる、東海岸グッドタイム・ミュージックの名プロデューサーである。ジェイコブセンが手掛けたソッピーズ・キャメルのメンバーを通じて、エリオットは彼と知り合ったようだ。
本作はリリース元のワーナー・ブラザーズの本拠地に近いロス録音で、70年代米音楽産業を支えていた西海岸の名立たるミュージシャン達が多く参加しているのも特徴である。クルセイダーズのウィルトン・フェルダー(ベーシスト、元々はテナー・サックス奏者)と74年から正式メンバーとなっていたギタリストのラリー・カールトン、本作レコーディング直後にTOTOを結成するリズム隊のデヴィッド・ハンゲイトとジェフ・ポーカロをはじめ、リー・リトナーやジェイ・グレイドンなど百戦錬磨のギタリストから、70年代モータウン・ビートを担っていたジェームス・ギャドスン等々。因みに曲毎のクレジットはないので、聴きながら名手達のプレイを探っていくのも一つの楽しみ方だろう。
冒頭の「Let's Just Live Together」は、ボズの「Whatcha Gonna Tell Your Man」(『Down Two Then Left』(77年)収録)にも通じる、しなやかなポーカロらしき16ビートのドラミングにストリングスとフィメール・コーラスが絡む軽快なチューン。
続く「Summer Nights in Hollywood」は強力なベース・ライン(フェルダーか?)にエリオットによるホンキートンク風ピアノが絡む。シンコペーションが効いたホーン・アレンジやムーディなフィメール・コーラスなどアレンジ的にも完成度が高く、クレジットではアルバム全体のアレンジは名匠ジミー・ハスケル(S&G「Bridge Over Troubled Water」等々)とエリオット自身が担当しており、仄かなニューオリンズ・テイストを持つ他、チャーリー・カレロのそれを彷彿させる東海岸の小粋なジャイヴ感覚もあって聴き飽きない。
ソリッドなファンクをベースとしたミッドテンポの「Room to Grow」は、ハンゲイト特有のスラップとダブル・ストップのアクセントが聴けるベースからTOTO組のリズム・セクションだろう。グレイドンらしきハーモニックなギターのサスティーンもやたらと聴けるのだが、この2人の最良のプレイは同時期のキャロル・ベイヤーセイガーの「It's the Falling in Love」(『Too』(78年)収録)でも耳にすることができる。
終盤に収められた東海岸風サウンドの「Las Vegas Wedding」はポップスとしての完成度が非常に高く、60年代にも活躍したジェイコブセンの影響力をひしひしと感じさせる。ハスケルによるオーケストレーションも金管と木管のポジションがきちんと計算されて素晴らしい。
最後になったがヴォーカリストとしてのエリオットは、テクニカル的に語れるレベルではないが、ニック・デカロやマイケル・フランクスにも通じる所謂"ソングライターズ・ヴォーカル"と呼べばいいだろうか、とぼけた声質が味となっていて悪くない。
マストといえる名盤なので、興味を持ったAOR、シティポップのファンは直ぐに入手すべきだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿