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2010年11月4日木曜日

Lisa Miller:『Within Myself』(SUNDAZED/ SC 6263)



 ソフトロック・ファンにはゲイリー・ゼクリーの『The Yellow Balloon』や「シェルブールの雨傘」のカバーを収録した男性デュオ『The New Wave』で知られるCanterbury(カンタベリー)レーベルの三作目で最終リリースとなった、Lisa Miller(リサ・ミラー)の『Within Myself』(68年)が米SUNDAZEDから世界初CDリイシューされたので紹介したい。

 リサ・ミラーはミシガン出身のジャズ系白人姉妹デュオ、ルイス・シスターズのケイの娘で、67年のシングル・レコーディング当時は11歳の少女であった。
 共に音楽学位を取得していたルイス・シスターズは60年代にモータウンでスタッフ・ライターもしており、グラディス・ナイト&ザ・ピップスの「Just Walk in My Shoes」(『Everybody Needs Love』収録 67年)などを手掛けていた。またスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズやザ・スプリームスに取り上げられた、ソフトロック・グループのシュガーショップの「Baby Baby」(『The Sugar Shoppe』収録 68年)も彼女達の作品である。そんな母親達のパイプとバックアップもあり、リサは65年にモータウン傘下のV.I.P.レーベルからリトル・リサ名義でシングル「Hang On Bill」をリリースする。未リリースだがザ・スプリームスの「Honey boy」なども録音している。

 モータウン社長のベリー・ゴーディJrはリサをモータウン版シャーリー・テンプル(戦前の世界的子役スター。『サージェント・ペパーズ・・・』のジャケットにも登場している)として売り出すが、大きな成功を得ることは出来なかった。その後マテル社(バービー人形で知られる)創始者の息子で、カンタベリーを設立したケン・ハンドラーよりA&R担当として雇われたルイス・シスターズは"リサ・ミラー"としてリサを再デビューさせる。
 彼女達のプロデュースとソングライティング、ジャック・エスキューのアレンジにより67年にシングル「Love Is / The Loneliest Christmas Tree」をリリース、クリスマス・チャートで18位のヒットとなる。翌68年の春から本作『Within Myself』はレコーディングが開始され、引き続きルイス・シスターズのプロデュースの元、新たにアレンジャーとしてジーン・ペイジが参加した。
 ペイジについては一般的にモータウンや70年代のバリー・ホワイトなどソウル・ミュージック系のアレンジャーとして認識されていると思うが、フィレスからリリースされたライチャス・ブラザーズの「You've Lost That Lovin' Feelin'(ふられた気持ち)」(64年)のアレンジで一躍知られるようになり、カンタベリーでは『The New Wave』も手掛けている。
 バッキング・ミュージシャンについては今回のリイシュー・ライナーノートに詳しく記載されていないのだが、主なリズム・セクションにはレッキング・クルーが参加しているらしく、確かにハル・ブレインらしきシグネチャー・プレイを聴くことができる。またブレインの『Psychedelic Percussion』(67年)に参加している、ビーヴァー&クラウスのポール・ビーヴァーがモーグ・シンセサイザーで参加しているのが興味深い。
 
 収録曲について少し触れておこう。アルバムのトップは67年のシドニー・ポワチエ主演の名作映画『いつも心に太陽を』の主題歌として、英国人女性シンガーのルル(自身も映画に出演している)がヒットさせた「To Sir With Love」のモータウン・スタイルでのカバー・ナンバー。オリジナルの歌い上げる感動的なヴァージョンは普遍的な名曲だったが、こちらのリズミックなヴァージョンも負けていない。リサのヴォーカルは11歳という年齢的には安定した歌唱法をしており、特段巧い訳ではないが耳の残る声質を持っている。

 カバー曲は他にビートルズの「Fool on the Hill」(『Magical Mystery Tour』収録 67年)とジェファーソン・エアプレインの「White Rabbit」(67年)を収録しており、前者はビーヴァーによるモーグをフューチャーしたトルコ行進曲的なマジカルなアレンジ、後者はグレイス・スリックのファンだというリサの意向で取り上げられたらしい。アレンジ的にはハープシコードや木管を配置して、緊張感あるストリングスで煽るなど当時のサイケデリック・シーン影響下にあるスタイルだ。
 ルイス・シスターズによるオリジナルは7曲で、マリンバのフレーズがオリエンタルなアレンジの「Be Like a Child」、シタール(マイク・ディージーのプレイか?)のイントロからソナタ風に展開する「Utopia」などアレンジ的に凝った曲が多い。後者のセカンド・ヴァースではブレインらしき多彩なドラム・フィルが乱舞し、ペイジによるオーケストレーションもアーニー・フリーマンやジミー・ウエッブを彷彿させる素晴らしさだ。

   

 オリジナルではタイトル曲の「Within Myself」も挙げるべきだろう。ドラマティックなストリングスに木管とグロッケンのアクセント、木管と一緒に展開する女性コーラスなど、アレンジの完成度ではアルバム随一だ。
 ボーナス・トラックとしてシングル曲の「Love Is」と「The Loneliest Christmas Tree」がモノ・ヴァージョンで収録されているが、筆者的にはノーザンソウル・マナーの「The Loneliest Christmas Tree」を本作のベスト・トラックとして推したい。後のフリーダ・ペインなどにも通じる愛らしいガール・ポップソウルである。
 今回のリイシュー・リマスター音質については、オリジナルがマルチ4チャネルと考慮しても問題なく聴けた。なお全8ページにおよびライナーノートには本人の回想録と貴重なショットが掲載されている。

(テキスト:ウチタカヒデ


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