2010年10月19日火曜日

ジャンクフジヤマ:『ジャンクスパイス』(Mil Music/MICL-70002)

 

 今年4月に初のフルアルバムで実況録音盤の『JUNKTIME』をリリースしたジャンクフジヤマが、早くも次作の『ジャンクスパイス』をリリースする。 巨匠ドラマーの村上"ポンタ"秀一氏のバックアップなどもあり、国内AOR、シティポップ・シーンでは既に大注目のアーティストである彼のスペシャル・アルバムを早速紹介しよう。 
  前作『JUNKTIME』での熱気溢れるライヴ・パフォーマンスで、彼の虜になった音楽ファンも多いと思う。本作はその余韻となるライヴ音源3曲とスタジオ録音の新曲5曲、またボーナス・トラックとして先行配信でリリースされた2曲のインスト・ヴァージョンを収録している。 

 まず7月に発表された「Morning Kiss」はライヴ・レパートリーとしても人気が高く、全盛期のアース・ウインド&ファイアーなどに通じるイントロのコード進行から、左右2トラックのリズムギターのグルーヴが鮮烈に迫る(ナイトフライトの「If You Want It」~山下達郎の「SPARKLE」的)、本アルバムのリード・トラック的ナンバーだ。キャッチーなフックへと展開していく曲構成とコンテンポラリーにまとめられたアレンジングも素晴らしい。



 8月に発表された「SUMMER BREEZE」はジャンク自身によるコーラス・ワークが印象的なライトメロウなラヴ・ソングで、収録曲の過半数のアレンジを手掛けている知野芳彦によるクリエイティヴなギターソロや、キーボード類の配置などポップスとしても完成度が高い。 
 ライヴ音源で特筆すべきは、アラン・オデイの全米でダブルミリオンのNo.1ヒットとなった「Undercover Angel」(77年)のカバーだろう。 耳の肥えたVANDA読者にはソングライターとして、ドーン(トニー・オーランドの女性コーラス隊)やキャプテン&テニールなどで知られる「Easy Evil」、シェールの「Train of Thought」(74年)やライチャス・ブラザーズ(再結成後)の「Rock And Roll Heaven」(74年)の作者として認知されていると思う。日本でも山下達郎の「Your Eyes」(『FOR YOU』収録 82年)から英語詞を手掛け、『BIG WAVE』(84年)のA面や「Love Can Go The Distance」(『ON THE STREET CORNER 3』収録 99年)などの傑作を残している。
 シンガーソングライターとしてのオデイは熱心なブルーアイドソウル~AORファンやジャーナリストの尽力により、近年の再評価でリイシュー化が進んでいるようだ。そちらの作品群も入手して聴いて欲しい。 
 話を戻そう、ここでのライヴ・カバー・ヴァージョンではジャンクのヴォーカリストとしての力量を存分に発揮したパフォーマンスと、村上"ポンタ"秀一や天野清継など一流プレイヤーの一期一会的なプレイにより絶品というべき仕上がりになっている。



 書き下ろしの「雨上がりの向こうに」はアコースティックギターを中心にした小編成の演奏で、ライト&ムーディな曲調は、どことなくビージーズの「How Deep Is Your Love(愛はきらめきの中に)」(77年)に通じる青春の煌めきを感じてしまう。ライヴでも定評のあるバラードの「曖昧な二人」はフェンダー・ローズとアコースティックギターの最小限のバッキングに、ジャンクの振り絞るようなヴォーカルが実に感動的だ。
 残るライヴ音源では新曲の「Night Walker」と「Morning Kiss」が収録されており、前者はダニー・ハサウェイなどニューソウルやシカゴソウルに通じるテイストが新境地で、ここでもやはり村上"ポンタ"秀一以下名手達の極上プレイに耳がいくが、丁々発止の駆け引きを展開するジャンクのヴォーカル・パフォーマンスも負けてはいない。 

 「ノスタルジア」はギタリスト天野清継の演奏のみをバックに、静かに熱く歌い上げる良質なバラードでこのスペシャル・アルバムの本編ラストにふさわしい一曲だ。 アルバム全体的にはスタジオ・レコーディング音源とライヴ音源と異なった質感のサウンドが混在している訳だが、最終的にはジャンクのヴォーカルの素晴らしさにより、その違和感を与えないトータリティーを放っている。成る程それこそが彼の最大の魅力なのかも知れない。
 なお本作は今月20日にタワーレコードから先行発売され、その他のネット・ショップでは11月24日からの扱いとなるので、興味を持った音楽ファンは是非チェックして欲しい。
(ウチタカヒデ)





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