特に旅先で、おじいが三線を引いているのを聴くと、思わず足が止まってしまう。島へ行っている時は、いつも聴いている海外のロックやポップスはまったく聴く気がなく、レンタカーでは地元のラジオから流れる島唄だけを聴いている。まさに沖縄の空気と島唄は一体であり、その場所で聴くのが好きなので、東京へ戻ると聴く気がなくなってしまう。しかしビギンは島唄ブームの元祖と言われていながら、8年も島唄のアルバムを出さなかった。いつも自然体の彼らは自分のやりたい曲をやりたいので、島唄はビギンの一面であり、いくらヒットしても、いくら評価が高くても、ビギン=島唄と思われるのが嫌で、こうやって8年も空けたのである。だからコテコテの島唄にはしない。三線を使い、沖縄の音階を使い、ウチナーグチ(沖縄の言葉。沖縄では子音がaiuiuなので「オ」(0)は「ウ」(U)になり、キ(ki)はしばしば変化するようにチ(chi)に、さらに同じ子音が続く時はつなげて伸ばすのでナワ(nawa)はナー(na-)
になるので「オキナワ」な「ウチナー」となる)を使っても、ロックやポップスの要素は残っている。そこがいい。だからいつでも聴きたくなる。今度のアルバムには1枚目の「涙そうそう」や2枚目の「島人ぬ宝」(「ぬ」とは助詞でこの場合は「の」。だから「島人の宝」の意味)のようなキラーソングはない。キラーソングが置かれていた1曲目は沖縄の伝統である「祝い古酒(クース)」の歌だ。子供が生まれた時にその年の泡盛を床下などに貯蔵し、成人した時に一緒に飲むという、なんとも素晴らしい習慣の歌だが、ヒットするにはローカル色が強すぎる。次の「でーじたらん」はカメラ撮影、ビデオ撮影に振り回され、家族の会話もおろそかにデジタルの編集に没頭する現在の父親達を通して、どこでもなんでもいつでも手に入れられる現代社会に欠けている人と人のつながりを「でーじ足らん」(「デージ」とはウチナーグチで「とても」という意味)と皮肉る快作だ。2曲ともアップテンポのナンバーで、3曲目になってようやくしっとりとした泣かせるナンバーが登場する。「パーマ屋ゆんた」(「ゆんた」とは八重山で労働の唄のこと)は、内地に進学していく娘さんに、その子の髪を赤ちゃんの頃から切っていたパーマ屋(美容院)のおばさんが送るメッセージの歌だ。「色を抜いても重ねても髪の根っこは染まらんさ」「髪は切っても揃えても同じようには伸びないさ」−「だからパーマ屋があるわけさ」という言葉は深い。メロディも詞も美しい、このアルバムの文句なしのハイライトである。その他では「オジー自慢のオリオンビール」のアンサーソング(?)ともいえる「アンマー我慢のオリオンビール」が面白い。沖縄では年中行事があり、その都度、男は飲んでばかり。女達はその裏で料理を出し、片づけをし...と実に大変なのだが、そんな女性(「アンマー」とはお母さんのこと)の苦労を感じさせてくれる面白い歌である。このアルバムで最も収穫だったのは「爬竜舟」だ。沖縄の伝統である海の安全や豊漁を祈願する舟の競争「ハーリー」を描いた歌だが、全編、ウチナーグチなので、我々ヤマトの人間には歌詞の意味は歌詞カードを見ないと分からない。しかしこの曲は三線などの楽器を使いながら堂々たるロックナンバーに仕上がっており、バンドの「The Weight」を思わせるコーラスといい、ウチナーグチ(八重山方言だからヤイマグチかな)がこんなに見事にロックになるとは思わなかった。さすが!(佐野)
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