7月に来日公演をおこなったハース・マルティネスがデビューアルバム『Hirth from Earth』(75年)以前、サミー・フィリップ名義で60年代半ばに自主制作したレアなシングル音源をコンパイルしたミニアルバムをリリースしたので紹介したい。
ザ・バンドのロビー・ロバートソンがプロデュースした『Hirth from Earth』でアルバム・デビューしたシンガーソングライターのハース・マルティネス。 近年このアルバムに収録された「Altogether Alone」が拘り派のアーティスト達にリスペクトされ多くのカバー・ヴァージョン(ライヴを含め)を生んでいるが、リリース当時もティン・パン・アレーやハックルバックに参加したキーボーディストの佐藤博がソロ作の「最後の手品」(『Time』(77年)収録,作詞:松本隆)でオマージュしていた。つまりはこの無重力なボッサのリズムは、時空を超えて多くのアーティスト達を虜にしているのである。
さて今回の『TEENAGE HIRTH』だが、前置きの通りハースが60年代半ばにサミー・フィリップ名義でリリースした3枚のシングルの6曲と、ボーナス・トラックとして彼がソングライティングとプロデュースを担当したジョー&ジムのシングル2曲から構成されている。
サミー・フィリップ時代の資料が極めて少ないのか、解説はブックレットではなく一枚物で、ハース本人の英文ライナーがジャケット裏面に記載されている。
その解説によるとレコーディングは64年前後にロスでおこなわれ、自身が興したレーベルInfiniteからリリースされている。
『Bringing It All Back Home』(65年)以降のボブ・ディラン・スタイルに近い「When I Say I Love You I Mean It And I Don't Change My Mind」や「I Wonder Freely」。ゴスペル・フィールな女性コーラスを配した「What Is This Feeling ?」やブルース色が濃い「It's Show Time」にも同時期のディランに通じるセンスがあり、「Magic Fly (To Jordan)」には同じくディランでも初期フォーク・サウンド時代を彷彿させる。
そんな中VANDA読者やポップス・ファンには「Baby, I Love You Today」のサウンドが魅力的に聴こえるかも知れない。リヴァーブが効いたギターを中心としたヴィンテージ・コンボ演奏に荒削りながら味のあるハースの歌声が聴ける。
ジョー&ジムはサックス/フルート奏者のジム・リチャードソンとイギリス出身のシンガー、ジョー・リチャードソンによる夫婦デュオで、ボーナス・トラックとして収録された2曲の内「The Day We Both Knew」は早くもボッサのリズムがハースのギターで演奏されており、彼のルーツを知る上でも貴重な曲といえる。
なおマスターはハース本人が保管していたシールドのシングル盤から起こしたらしいが、サミー・フィリップ名義の6曲は丁寧なノイズ除去作業により音質的には悪くない。ただしジョー&ジムのシングル音源は聴き苦しい箇所があるので注意のこと。
(ウチタカヒデ)
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