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2010年7月27日火曜日

Lamp:『八月の詩情』(MOTEL BLEU/MBRD023)


 2008年の傑作アルバム『ランプ幻想』に続く5作目をレコーディング中のLampが、8月4日に初回限定生産の5曲入りEPをリリースする。
 マスタリングされたばかりの音源を幾度も聴き込んだが、極めて完璧に近いソングライティングとアレンジング、そしてそのサウンドにただ陶酔するばかり。
 良識あるポップス・ファンなら迷うことなく予約して入手することを強くお勧めする。
前アルバム『ランプ幻想』でトータル性と深みのある日本語によるポップスを追求して、「雨降る夜の向こう」のような後世に残るシティポップを産み落とした彼らだが、次のマイルストーンがどこにあるのか非常に興味を持っていた。
 年内冬にリリースを予定しているという5枚目のオリジナル・アルバムの布石となるだろうこのEPが、そのヒントとなるだけにいち早く耳にできるのは嬉しいばかりである。



 熱心なLampファンならご存知のように、彼らは染谷大陽と永井祐介という個性の異なる二人のソングライターと、近年Minuanoのヴォーカルとして活躍している榊原香保里が作詞で手掛けた曲を、メンバー全員でアレンジを練っていくという体制がとられており、永井と榊原の男女ヴォーカリストが各々リードをとって曲を表現している。
 ヴォーカルをとらないリーダーの染谷はそのポジションからプロデューサー的視点で作家的に様々なタイプの曲を書き分けており、グループ初期においては染谷作品では榊原がリード・ヴォーカルという図式があった。
 一方永井はグループ内シンガーソングライターというべきか、彼が趣くままに世界を描き歌っているというスタイルで、同じ一人称の歌詞でも彼自身が書く曲と染谷作品ではやや感触が異なる。例えば染谷作で永井が歌った最初期の「今夜も君にテレフォンコール」(『木洩陽通りにて』収録)は非の打ち所がない洗練されたシティポップだが、ここでの永井のヴォーカルはどこかよそ行きな雰囲気だ。それもグループのカラーの一つなのだが、この永井の立ち位置を理解すると今作をより楽しめるかも知れない。

 冒頭の染谷作の「青い海岸線から」はクラヴィネットのリフがグルーヴの核になっているファンク寄りのハードなシティポップで、ヴァース部を永井、榊原の順で歌い、ブリッジからフックへと劇的に展開するパートを二人のダブル・ヴォーカルで解決させている。彼らの真骨頂的曲構成だが、70年代ファンク・ミュージックを強く意識したストリングスやホーンのアレンジはLampサウンドの新たな扉を開いたといえよう。
 続く「夢をみたくて」は永井作の美しいバラードで、詞曲共に彼のソングライティング・センスの魅力に溢れている。簡素ながら純文学的な歌詞により、青春の微睡みや儚さが夏の蜃気楼のように駆け抜けていく。アレンジ的にも非常に完成度が高く、波のSEからピアノの導入部、厚いコーラスと共に始まるヴォーカル、フェンダー・ローズを中心とするしなやかなリズム・セクションに、ハモンドが空間の奥行きを作りアープ系シンセがリフを奏で、静かにホーンが加わり更に美しいヴォイシングのコーラスが現れる。間奏ではこの五線譜の楽園にウェイン・ショーター風のソプラノサックス・ソロが響き、もう何もいうことはない。筆者的には今作のベスト・トラックはこの曲と決めている。
 EPのちょうど中間に位置する染谷作の「回想」は、60年代サイケデリック・ロックやヨーロッパ映画サウンドトラックと、幅広い彼の音楽的指向を組曲として融合させた意欲作だ。レズリーとフランジャーを深くかましたハモンドやメロトロンの強烈なサウンドを持つ永井メインで歌うパートと、迷宮に迷い込んだようなホルンとマリンバが響く榊原が歌うワルツのパートのコントラストがユニークで、今作のスパイス的曲となっているだろう。



 その榊原が作詞に加わった「昼下りの情事」は、『ランプ幻想』収録の「ゆめうつつ」に通じる彼女の無垢なヴォーカルが気だるいヴァースに、永井がリードを取るブリッジからフックでテンポアップしていくポップスで、染谷作品らしい複雑な転調が聴いていて飽きさせない。深いリヴァーブのコーラス・パートも印象的だ。
 永井によるラストの「八月の詩情」は、今作の緊急リリースのきっかけになったとされるタイトル曲で、「夢をみたくて」の世界観に比べるとモラトリアム度は低いが、彼ならではのメロディセンスが発揮された静かなサマー・アンセムである。予想を裏切るワンコードのイントロからミッドテンポのヴァース、榊原とのダブル・ヴォーカルによるブリッジへと進み、厚いコーラスのフックのリフレインが美しく耳から離れない。パート毎のコーラスのヴォイシングや木管の音域など音像の配置も練られていて彼らの拘りを強く感じた。

 最後に余談になるが今作の素晴らしい音像を正確にリスニングするために、2年程休ませていたYAMAHAのスタジオ用パワード・モニターに電源を入れてしまったほどだ。
 初回限定生産とのことで数に限りがあるので、興味を持ったポップス・ファンは是非予約入手して聴いて欲しい。なぜならこの夏のメモリアルEPとなることは間違いないのだから。

(テキスト:ウチタカヒデ



2010年7月17日土曜日

Radio VANDA 第122回放送リスト(2010/8/05)






Radio VANDA は、VANDA で紹介している素敵なポップ・ミュージックを実際にオンエアーするラジオ番組です。

Radio VANDA は、Sky PerfecTV! (スカパー) STAR digio の総合放送400ch.でオンエアーしています。

日時ですが 木曜夜 22:00-23:00 1時間が本放送。
再放送は その後の日曜朝 10:00-11:00 (変更・特番で休止の可能性あり) です。

佐野が DJ をしながら、毎回他では聴けない貴重なレア音源を交えてお届けします。

特集:Little Anthony & The Imperials

 
1.Goin' Out Of My Head

2.Never Again

3.Hurt So Bad

4.Take Me Back(Single Version)

5.Better Use Your Head

6.Hungry Heart

7.Gonna Fix You Good

8.My Love Is A Rainbow

9.Yesterday Has Gone

10.Trick Or Treat

11.Lost In Love

12.A Man And A Woman

13.Down On Love

14.What Greater Love

15.I'm Hypnotized

16. I Look At You

17.Better Off Without You




2010年7月13日火曜日

☆Al Jardine:『A Postcard From California』&「Christmas Day」(itunes)

ずっと前からアル・ジャーディンのサイトで予告されていたこのアルバムが、突如、i-tunesで発売された。日本のi-tunes1500円、これが初のitunesでのダウンロードとなった。通常、データのみ買うことってないからね。アルバムは全12曲、まずはグレン・キャンベルもバック・コーラスで参加したタイトル曲からスタートする。アル自作の穏やかなアコースティックな佳曲である。アルは歌がうまい。カールがいない中、マイク&ブルースのビーチ・ボーイズはヘタ過ぎるので、アルがいなければとても足を運ぶ気にはなれないとこの1曲だけで改めて思った。次はブライアンが書いた「California Feelin'」。ブライアンが歌うビーチ・ボーイズ・ヴァージョンに比べ、軽快な仕上がりでこれはこれで魅力がある。アル作の「Looking Down The Coast」はブートではお馴染みだったビーチ・ボーイズの未発表曲。重い雰囲気のビーチ・ボーイズのデモに比べこれも軽快だが、あまり曲が良くない。そしてテリー・ジャックスとアルの曲作の「Don't Fight The Sea」だ。マイナー調のハーモニーが美しい佳曲だが、リード・ヴォーカルがアルとカールであり、バック・コーラスにはブライアン、マイク、ブルースが参加し、まさにビーチ・ボーイズ。メンバーを眺めているだけで楽しい。語りの「Interlude」をはさんで「California Saga」のコーラス部分のみの短い「Campfire Scene」が現れる。クレジットを見ると歌っているのはニール・ヤングとデビッド・クロスビーで驚きだ。そして本体の「A California Saga」が登場する。やはり名曲だ。リード・ヴォーカルは後半、ニール・ヤングなので必聴。さらにバック・コーラスにはデビッド・クロスビーにステファン・スティルスまで加わり、アル+CSYという夢の組み合わせにこれもクレジットを見て嬉しくなってしまった。「Help Me Rhonda」は、イントロに「Short Shorts」みたいな変なギターが入り、ハーモニカを大きくフィーチャーしたアレンジを施していたが成功していたとは言えない。「San Simeon」は「Don't Worry Baby」のようなハーモニーから始まるアル作の爽やかな佳曲。盛り上がりには少し欠ける。「Drivin'」はアル作のロック・ナンバーで、ブライアンも後半リード・ヴォーカルを取っていた。続いてビーチ・ボーイズの「Honkin'  Down The Highway」のカバーだが、この曲でもブライアンがリード・ヴォーカルの一部で参加していて注目だ。ロックンロール・ナンバーだが、ビーチ・ボーイズ・ヴァージョンより軽快で、なかなか魅力的。クロージングはアル作の「And I Always Will」。ピアノを中心に据えた美しいバラードで、感動的にフィナーレを迎える。アルの自然を愛する気持ちがひしひしと伝わってくるなかなかの力作である。なお、itunesでは150円で「Christmas DaySingle)」もあったのでダウンロードしたが、どこかのライブでリラックスと言えば聞こえはいいが、コーラスは適当だし、売り物か?という印象だ。もちろんビーチ・ボーイズのナンバー。(佐野)





☆Beach Boys members:『The Boys Of Summer』(Endless Summer Quarterly/ESQBBCD2010)

ビーチ・ボーイズの最強のファン・サイト、Endless Summer QuarterlyCD付ヴァージョン会誌はいつも大注目だが、今回の2010年夏号(issue88)はいつもにも増して豪華な内容になった。
まずはCDにはなっていない前述のアルのニューアルバム『A Postcard From California』から「Drivin'」と「Honkin'  Down The Highway」が収録されている。CD化というわけだ。そしてHallmarkでしか売っていなかったので日本に輸出してくれなかったビーチ・ボーイズのライブ・アルバム『Songs From Here And Back』の中だけに収録されていたブライアンの名作「The Spirit Of Rock & Roll」と、マイクの新作「Cool Head,Warm Heart」が、しっかりと本コンピに収録されていたのも注目だ。他はブライアン1曲、カールはBeckley-Lamm-Wilsonのアルバムから2曲、デニス1曲は既発のアルバムより。このあたりは当然、持っているものと判断して省略させていただく。その中でマイクは未発表の「Love Like In Fairytales」を提供。純粋な意味でこの曲が唯一の本コンピでしか聴けない曲だ。マイク作とは思えないヴォーカルの、穏やかでアコースティックな佳曲。先のマイクの曲と合わせ、予定されている『Mike Love.Not War』(冗談ではない。これがタイトル)用の曲と紹介されていたが、本当に出るのだろうか...Itunesという手もあるので、それなら出るかも。あとはデビッド・マークスの曲が3曲、ジャン&ディーンの曲が1曲、収められた。それにしても、レコード会社から許諾をもらい、メンバーからは新作を提供してもらうこのEndless Summer Quarterly、本当に凄いサイトだ。下記のサイトで入会してもらおう。会誌(会誌の内容も凄い!)3回分で$38PayPalで払えるから、あっという間に手続きは終わる。(佐野








2010年7月12日月曜日

DANIEL KWON:『DANIEL KWON』(MOTEL BLEU/MBRD022)

 

  DANIEL KWON(ダニエル・クオン)はコリアン・アメリカンのシンガーソングライターで、本作は今月14日にリリースされるファースト・ソロアルバムである。
  プロデュースをLampの染谷大陽がプロデュースしたということで早速紹介したい。

  本作は昨年韓国BEATBALL RECORDSからリリースされた『LAYIN IN THE CUT』を国内正規流通仕様として、タイトルを『DANIEL KWON』に変えジャケット・デザインも一新したものである。 ダニエルは以前より交流のあったLampのメンバーの誘いで来日し、現在も日本をベースに活動している新鋭アーティストで、レコーディングは2007年の夏に行われている。 同時期Lampは『ランプ幻想』の制作中で、そちらにダニエルはバッキング・ヴォーカリストとして2曲に参加している。 彼がクリエイトする音楽の特徴は、ポップ・ミュージックの中に独特なコード及びスケール感覚を奇妙に同居させていることだろう。
  フェイヴァリット・アーティストにエミット・ローズと同列にジョン・フェイヒィを挙げているのも頷ける。なにより超拘り派のLampがメンバー全員で彼をバックアップしていることで、その才能と可能性は計り知れるだろう。 またダニエルとLampはChildrenというユニットも組んでおり、双方単独のサウンドとは異なる煌めきを放っており、そちらの作品の正規リリースも待ち望んでいるのだ。


  冒頭の「A Tiger's Meal」はフェイヒィ風のフィンガーピッキングのアコースティックギターの弾き語りを中心に、60年代中期(ビートルズ、トラフィック、ドノヴァンetc)のサイケデリックなコーラス・ギミックをちりばめて一種のトリップ感を高めている。成る程彼の歌声はフェイヴァリットに挙げるエミット・ローズに似ている瞬間があり、ソフトロック・ファンにもアピールしそうだ。
  続く「Against the Grain」は『Runt』、「Hope is for hell to Decide」は『A Wizard, a True Star』の頃のトッド・ラングレンをそれぞれ彷彿させるソングライティング・センスだが、ギミックのうっちゃりも一筋縄ではいかない。
  ラストの「Quietly」がアルバム中最もアレンジ的に完成度が高そうだが、後半ジョン・レノンの「I Want You (She's So Heavy)」のように混沌とした演奏とホワイトノイズから一転、カットアップされたピアノ主体の別パートが挿入され、狐につままれた様なエンディングを向かえる。
  アルバム全体的に未整理な部分(意図的だろう)があるので、本作をプロデュースした染谷率いるLampの諸作の完璧さとは別次元の作品であることは十分考慮すべきだろう。
  ただアーティスティックなダニエルの個性を理解した上で聴くと、非常に面白いアルバムであることは間違いない。こういうアーティストこそ、定石の上で成り立つ洗練さだけを追求した昨今のシーンへ一石を投じる存在として必要なのである。VANDA読者では特に60年代ソフト・サイケ系アーティストが好きなファンに大いにお勧めできるので是非チェックして欲しい。
(ウチタカヒデ)


2010年7月7日水曜日

JIMMY WEBB:『JUST ACROSS THE RIVER』(E1 Music/E1ECD2068)

 

バカラックやブライアンと並び称されるソングライター兼アレンジャー、そしてシンガーのジミー・ウェッブのニューアルバムがリリースされた。
96年の『Ten Easy Pieces』同様に主はセルフ・リメイク集(+新曲1曲)であるが、今回は豪華アーティストのフューチャリング・ヴォーカルでの参加と、『Angel Heart』(82年)以降ウェッブ作品に貢献してきたフレッド・モーリンのプロデュースによるナッシュビル・レコーディングが功を奏し味わい深い名作となった。

スタジオ・アルバムとしては『Twilight of the Renegades』(2006年)から4年振りとなるが、前作は新録4曲(国内盤は5曲)と80、90年代からの未発表曲8曲を編集した変則的体裁だったため、トータル的なニューアルバムとしては『Ten Easy Pieces』以来実に14年振りとなる。
今作でまず目を惹くのはフューチャリングされたゲスト・アーティストの豪華さだろう。
以前からウェッブが楽曲提供している盟友のグレン・キャンベルをはじめ、ウィリー・ネルソンやリンダ・ロンシュタント、ポピュラー界ではビリー・ジョエルやマイケル・マクドナルド、ジャクソン・ブラウンといったビッグネームの名前も見られる。また70年代ウエストコースト・ロックを支えたJ.D.サウザーや元ダイアー・ストレイツのマーク・ノップラーなど通好みのアーティストから、カントリー系シンガーソングライターのヴィンス・ギル、現代フォーク界の女王と称されるルシンダ・ウィリアムズが一挙に参加しているので、アルバム1枚を通してウェッブ・ソングの新たな魅力を発見出来る。これも偏にレジェンド・オブ・ミュージシャンズ・ミュージシャンたる、ウェッブの才能と人望の賜だろう。



リズムセクションのレコーディングとオーバーダビングはナッシュビルの複数のスタジオでおこなわれ、マスタリングはニューヨークのSterling Soundで名匠グレッグ・カルビが手掛けている。
2001年にナッシュビル移住後ロブ・ガルブレイスの『Too Long At The Fair』など名作を手掛けているフレッド・モーリンの元、現地ミュージシャンによるバンド・アンサンブルはナッシュビルの土地の音というべき芳潤な響きを持って、このアルバムのサウンドの要となっている。
ビリー・ジョエルとヴォーカルの掛け合いをする「Wichita Lineman」は、マンドリンの刻みにスティールギターやドブロ、フィドルが有機的に絡み合うサウンドが絶品で、特に思い入れのあるウェッブ・ソングで新たな感動を得ることが出来た。
キャンベルとの再演が嬉しい「By The Time I Get To Phoenix」は、漂うウーリッツァーとアコギの刻みにハモンドオルガンとアコーディオンが空間の奥行きを演出し、スティールギターがアクセントを加える。やや長いフェイドアウトで燻し銀のギターソロを弾くのがマーク・ノップラーというのも憎い演出で、最良のロード・ソングとして蘇った。そのノップラーは「The Highwayman」でヴォーカルを掛け合っており、ギタープレイ同様に円熟の歌声を聴かせる。アレンジ的にはティン・ホイッスルによるアイリッシュ・サウンド風のコーダが非常に美しい。
最新のウェッブ・ソング「Where Words End」は、歌詞の一節「JUST ACROSS THE RIVER」がアルバムタイトルにもなっているキー・ソングで、曲調は今回リメイクされたクラシック群に比べ洗練されているが、じわじわとフックへ登りつめていくコード転回など随所にウェッブらしさを感じさせる。ここではマイケル・マクドナルドの深みのあるハスキーヴォイスのコーラスも聴きどころだ。
ニューレコーディングされたウェッブの名曲群は、どれも聴く人を選ばないエヴァーグリーンという言葉が似合う曲ばかりなので、是非とも多くの音楽ファンに聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)