2008年の傑作アルバム『ランプ幻想』に続く5作目をレコーディング中のLampが、8月4日に初回限定生産の5曲入りEPをリリースする。
マスタリングされたばかりの音源を幾度も聴き込んだが、極めて完璧に近いソングライティングとアレンジング、そしてそのサウンドにただ陶酔するばかり。
良識あるポップス・ファンなら迷うことなく予約して入手することを強くお勧めする。
前アルバム『ランプ幻想』でトータル性と深みのある日本語によるポップスを追求して、「雨降る夜の向こう」のような後世に残るシティポップを産み落とした彼らだが、次のマイルストーンがどこにあるのか非常に興味を持っていた。
年内冬にリリースを予定しているという5枚目のオリジナル・アルバムの布石となるだろうこのEPが、そのヒントとなるだけにいち早く耳にできるのは嬉しいばかりである。
熱心なLampファンならご存知のように、彼らは染谷大陽と永井祐介という個性の異なる二人のソングライターと、近年Minuanoのヴォーカルとして活躍している榊原香保里が作詞で手掛けた曲を、メンバー全員でアレンジを練っていくという体制がとられており、永井と榊原の男女ヴォーカリストが各々リードをとって曲を表現している。
ヴォーカルをとらないリーダーの染谷はそのポジションからプロデューサー的視点で作家的に様々なタイプの曲を書き分けており、グループ初期においては染谷作品では榊原がリード・ヴォーカルという図式があった。
一方永井はグループ内シンガーソングライターというべきか、彼が趣くままに世界を描き歌っているというスタイルで、同じ一人称の歌詞でも彼自身が書く曲と染谷作品ではやや感触が異なる。例えば染谷作で永井が歌った最初期の「今夜も君にテレフォンコール」(『木洩陽通りにて』収録)は非の打ち所がない洗練されたシティポップだが、ここでの永井のヴォーカルはどこかよそ行きな雰囲気だ。それもグループのカラーの一つなのだが、この永井の立ち位置を理解すると今作をより楽しめるかも知れない。
冒頭の染谷作の「青い海岸線から」はクラヴィネットのリフがグルーヴの核になっているファンク寄りのハードなシティポップで、ヴァース部を永井、榊原の順で歌い、ブリッジからフックへと劇的に展開するパートを二人のダブル・ヴォーカルで解決させている。彼らの真骨頂的曲構成だが、70年代ファンク・ミュージックを強く意識したストリングスやホーンのアレンジはLampサウンドの新たな扉を開いたといえよう。
続く「夢をみたくて」は永井作の美しいバラードで、詞曲共に彼のソングライティング・センスの魅力に溢れている。簡素ながら純文学的な歌詞により、青春の微睡みや儚さが夏の蜃気楼のように駆け抜けていく。アレンジ的にも非常に完成度が高く、波のSEからピアノの導入部、厚いコーラスと共に始まるヴォーカル、フェンダー・ローズを中心とするしなやかなリズム・セクションに、ハモンドが空間の奥行きを作りアープ系シンセがリフを奏で、静かにホーンが加わり更に美しいヴォイシングのコーラスが現れる。間奏ではこの五線譜の楽園にウェイン・ショーター風のソプラノサックス・ソロが響き、もう何もいうことはない。筆者的には今作のベスト・トラックはこの曲と決めている。
EPのちょうど中間に位置する染谷作の「回想」は、60年代サイケデリック・ロックやヨーロッパ映画サウンドトラックと、幅広い彼の音楽的指向を組曲として融合させた意欲作だ。レズリーとフランジャーを深くかましたハモンドやメロトロンの強烈なサウンドを持つ永井メインで歌うパートと、迷宮に迷い込んだようなホルンとマリンバが響く榊原が歌うワルツのパートのコントラストがユニークで、今作のスパイス的曲となっているだろう。
その榊原が作詞に加わった「昼下りの情事」は、『ランプ幻想』収録の「ゆめうつつ」に通じる彼女の無垢なヴォーカルが気だるいヴァースに、永井がリードを取るブリッジからフックでテンポアップしていくポップスで、染谷作品らしい複雑な転調が聴いていて飽きさせない。深いリヴァーブのコーラス・パートも印象的だ。
永井によるラストの「八月の詩情」は、今作の緊急リリースのきっかけになったとされるタイトル曲で、「夢をみたくて」の世界観に比べるとモラトリアム度は低いが、彼ならではのメロディセンスが発揮された静かなサマー・アンセムである。予想を裏切るワンコードのイントロからミッドテンポのヴァース、榊原とのダブル・ヴォーカルによるブリッジへと進み、厚いコーラスのフックのリフレインが美しく耳から離れない。パート毎のコーラスのヴォイシングや木管の音域など音像の配置も練られていて彼らの拘りを強く感じた。
最後に余談になるが今作の素晴らしい音像を正確にリスニングするために、2年程休ませていたYAMAHAのスタジオ用パワード・モニターに電源を入れてしまったほどだ。
初回限定生産とのことで数に限りがあるので、興味を持ったポップス・ファンは是非予約入手して聴いて欲しい。なぜならこの夏のメモリアルEPとなることは間違いないのだから。
初回限定生産とのことで数に限りがあるので、興味を持ったポップス・ファンは是非予約入手して聴いて欲しい。なぜならこの夏のメモリアルEPとなることは間違いないのだから。
(テキスト:ウチタカヒデ)