フォーク系シンガーソングライターとしてサイケポップ・ファンに人気が高いKATHY MCCORD(キャシー・マッコード)の唯一のアルバム『RAINBOW RIDE』(70年)が、デビュー・シングルと70年代に録音された未発表音源をコンピレーションした2枚組で、英ACE系のBIG BEAT RECORDSから3月に新装CDリイシューされたので遅まきながら紹介したい。
そもそも本編の『RAINBOW RIDE』は、68年にA&Mレコード内に後のクロスオーバー/フュージョンの先駆けとしてクリード・テイラーが設立したCTIレコーズが、70年にA&Mから独立した際1000番台の第一作目としてリリースした記念碑的アルバムである。
最終的にこの1000番台からは5作品しか発表されなかったが、このレーベルの主力である3000~8000番台の所謂ジャズ系ミュージシャンの作品群とは異なり、ジャンルレスな実験的作品のシリーズを目指していたようだ。17歳の新鋭シンガーソングライター(以下SSW)のデビュー作としてはうってつけのシチュエーションといえるが、テイラーもそのあたりのインパクトを狙っていたに違いない。
キャシー・マッコードは52年にニューヨークで生まれ、幼い頃より兄と共に音楽に接していたようだ。因みに兄ウィリアムはビリー・ヴェラという芸名で俳優、ソングライターとして活動しており、本作でもキャシーと1曲共作している。
また本作に参加したミュージシャンの中核で、ディランやアル・クーパーのセッションで知られたベーシストのハーヴェイ・ブルックスは、このレコーディングの直前にはマイルス・デイヴィスの問題作『Bitches Brew』(69年)に参加している。他には後にオーリアンズを結成するギタリストのジョン・ホールとドラマーのウェルズ・ケリー、当時彼らやハーヴェイとサンダーフロッグを組んでいたキーボードのポール・ハリス、ジャズ系人脈からはCTIからソロアルバムをリリースするフルート奏者のヒューバート・ロウズ、アレンジにドン・セベスキー(ウェス・モンゴメリーの『A DAY IN THE LIFE』などCTIでの名仕事多し)、エンジニアには名匠ルディ・ヴァン・ゲルダーと、音楽界の変革期を背景に幅広い人材の参加が非常に興味深い。
ディスク1の『RAINBOW RIDE』は既に幾度かリイシューされているので詳しいレビューは割愛するが、タイトル曲におけるホールのラーガ風のギターソロと、チェイス辺りにも通じるジャズ・ロック調のセベスキーのホーン・アレンジのコントラストが特に素晴らしい。
アルバム全体的には参加ミュージシャンのカラーからウッドストック派のサウンドに通底しており、SSWとしてのキャシーは初期のジョニ・ミッチェルに非常に近い。
参加ミュージシャンはハーヴェイが中心となったファビュラス・ラインストーンズの3名と、ザ・バンドのリヴォン・ヘルムとリック・ダンコが基本メンバーで、唯一無二の名ギタリストであるエイモス・ギャレット、ホーン・セクションにはブレッカー兄弟やデイヴィッド・サンボーンなど、またバックコーラスにはヴォイス・オブ・イースト・ハーレムと極めて豪華な面々がクレジットされている。曲によってはザ・バンドのガース・ハドソン風のクラヴィネットを耳にすることが出来るので、他にも参加している可能性が高い。
なお今回は英ACE系のリイシューCDということでリマスタリングは申し分ない。欲を言えばディスク2のマスター音源の音質がもう少しよければというところ。11ページに及ぶブックレットには、キャシー本人と兄であるビリー・ヴェラによる最新の解説文が掲載されている。
(テキスト:ウチタカヒデ)
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