ここでは、相対性理論の集大成的サウンドを持った楽曲群と、新たなエクスペリメントを施した新曲を収めた本作について一足先に紹介したい。
メンバー4人によるセルフ・プロデュースとアレンジは前2作と同様だが、ソングライティングにおいてギタリストの永井聖一の単独及びティカ・αとの共作による提供曲が、スタジオ録音で初出となるのが注目されるポイントだろう。前作で様々なスタイルのギタープレイでサウンドを構築していた「四角革命」や、ハイライフ的センス(ジョニー・マー経由)を持ち込んだ「さわやか会社員」など、アレンジングでは彼の貢献度が高かっただけに、そのソングライティングには興味を惹いた。
そして彼らの最大の魅力は本作でも貫かれており、永井にベーシストの真部脩一とドラマーの西浦謙助のプレイヤー3人によるヘッドアレンジでの化学変化のスパークと、極めて個性的なやくしまるえつこのヴォーカルで独特の歌詞が乗ることで、相対性理論らしさが創造されている。
なお前回『アワーミュージック』の対談レビューで協力してくれた、アーティストのフレネシさんからのコメントもポイントで掲載しておくので合わせて読んで頂きたい。
では本作の主な収録曲を紹介していこう。『ハイファイ新書』収録の「テレ東」や『アワーミュージック』の「スカイライダーズ」と同様に、西浦のドラミングによる四つ打ちキックにバックビートにアクセントを持つハイハットのコンビーネーションが冴え渡る、真部作の「シンデレラ」。こういったダンス・ナンバーでも歌ものポップスとして機能しているのは、やくしまるのヴォーカルによってビートの熱にサーモ機能が掛けられているからだろう。
ライヴでは常に人気が高く、サビのリフレインが耳から離れない「ミス・パラレルワールド」は、「Loveずっきゅん」にも通じるオリエンタルなギターリフが印象的だ。学園SFテイストな歌詞は真部とティカ・αの創作による、このバンド特有の世界観であり大きな魅力の一つである。
フレネシ:「言葉遊びのセンスには毎度のことながら唸らされっぱなしですが、呪文のような繰り返しの詞が出現した瞬間、魔法が掛かりますよね。「ミス・パラレルワールド」のサビで出現する繰り返しフレーズの強烈なインパクトは、四度のコーラスによってさらに引力を増しています。また「チャイナアドバイス」の駄洒落詞も、いい加減なことしか言っていないようで実は的確に駄目出しして諭す、『AERA』(朝日新聞出版)の中吊り的社会風刺アドバイスだったりするんでしょうか。何故だかそんな気がしてなりません。ちなみに、譜割含めて一番ぐっときた詞は、永井さん作詞作曲の「(恋は)百年戦争」です。歴史を変えたとかいちいち大げさに言いたい、女子の煩わしさや傲慢さをよくもこんなに可愛く描くなあと」
永井とティカ・αによる共作の「人工衛星」は、彼らにしては珍しくストレートな曲調であるが、初期のバンド・サウンドが楽しめる。ここでは真部の饒舌なベースプレイがかなり素晴らしい。同じく「三千万年」では、マイナーのコード進行にモータウン・スタイルの3連のベースフレーズをぶつけた理論版「マンイーター」(Hall & Oates,82年)と呼ぶべきか。
真部とやくしまるによる「ペペロンチーノ・キャンディ」も紹介すべきだろう。ライヴで一際異彩を放つこの曲のカオス的魅力はスタジオ録音でも健在だ。西浦のドラミングが忙しなく展開を演出し、永井のギターソロがブルース・フィールを醸し出しているギャップがまたいい。
オルタナ度フルアクセルの「気になるあの娘」は、初期の名曲「スマトラ警備隊」や「夏の黄金比」にも通じる、"スリー・ミニッツ・オブ・パッション"と呼ぶべき傑作で、荒削りながらファルセットまで駆使した表現力など、やくしまるのベスト歌唱が聴けるのはこの曲ではないだろうか。
フレネシ:「キッチュであったり、アンニュイであったりとさまざまな声の表情を持つやくしまるさんですが、本作では場面が変わる毎に一人、また一人と新たな人格が生み出されていくようで、彼女のシンガーとしてのさらなる進化を感じました。例えば「人工衛星」のサビではエクトプラズムのように重なるREBECCA時代のNOKKOの幻影が、少なくとも3回、私には見えた気がします」
新曲となるラストの「ムーンライト銀河」は6分を超える永井とティカ・αによる大作で、これまでの彼らのサウンドからはイメージ出来なかったスタイルだ。西浦のステディなプレイとループとをシームレスに繋いだスロージャム風のドラム・トラックに、アコースティックギターのミニマルなアルペジオが響き、音程感のないシンベのシンプルなラインがグルーヴを作り出す。時折入るエレキのリフやパッド系シンセも空間を効果的に演出する。曲の世界観を見事にクリエイトした無駄のないアレンジで、筆者個人的にも本作のベスト・トラックとして推す名曲である。
では最後に本作『シンクロニシティーン』のトータル的印象を、同じ個性派アーティストとしてフレネシさんが的確にコメントしてくれたので紹介しておこう。
フレネシ:「漫画に例えるならば、戦闘シーンに重きを置いた乙女ラブコメディとでもいうのでしょうか。本来少年誌に連載されている少年漫画だけれど女子読者も多い、あるいはその逆、といった・・・。
ともあれ、相対性理論というバンドの魅力を再確認した本作、素晴らしい内容でした。ギター、ベース、ドラム、ヴォーカルというごくありふれた編成にも関わらず、微塵もありふれた音に感じないのは、彼等が誕生したその歴史の前に、具体的な肖像が見えないからかも知れません」
(ウチタカヒデ)
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