ここではメンバーでアルバム全曲の作編曲を手掛けた、洞澤氏に話を聞いてみた。
ウチタカヒデ(以下U):先ず初のフルアルバムを制作するに当たって、全体的なテーマにしたのはなんでしょうか?
洞澤徹(以下H):特にはっきりとしたテーマはありません。あえて言えば「はじめまして、manamanaです」といった挨拶的な感じでしょうか。前作は完全自主制作で流通もごく一部のみでしたので、今回が全国的には名刺代わりになるのかなと。
昔からお世話になっているハピネスレコードからmanamanaで一枚出さないかとのお話をいただいたので、今までの自信曲をさらにブラッシュアップしたものと、できるだけ多くの人に受け入れられつつ、今やりたいと思う曲を数曲作り、manamanaらしさを全面に出すために仕上げようと思いました。
U:なるほど、では率直に言って、manamanaらしさとはどういったことだと思いますか?
結成時からヴォーカルのふうかさんとのコラボレーションで得られた世界観とは?
H:manamanaらしさとは、僕にとって伊藤ふうかの歌の魅力が一番伝わる形のポップスだと思っています。僕はコラボレーションするヴォーカリストにより曲やアレンジをかなり変えていくのですが、彼女の場合、言い方は悪いかも知れませんが、どこか枯れた感じというか、暖かさの中にある寂寥感を感じるので、それをうまく楽曲で活かすのが「らしさ」かなと思っています。
得られた世界観は"暖かさと寂寥感の狭間に揺れるノスタルジー"
ん~難しくなっちゃった。言葉が下手なものですみません(笑)
U:前作からサウンド的にもカラフルになっておりますが、曲作りやアレンジをする上でのヒントになったポイントや苦労話などをお聞かせ下さい。
H:いろんな曲を聴いて、アレンジや曲作りの参考にしましたが、フレーズや音色そのものを引用するというよりは、その曲を聴いて頭に残った残像の雰囲気を大事にインプットしました。アルゼンチン音響派のアーティストとかよく聴いていたような気がします。
参考にしたのはやはりアレンジそのものより、ちょっとした肌触りみたいなもの。
難しくならないように、聴き易さというポイントを重点に置いて。
本来アレンジに必要以上に凝るのはあまり好きじゃないです。歌がよく聴こえるアレンジは好きだけど。それと違う例としてはハピネスの平野さんと飲んでいるとき、「すごくいいチェリストがいるよ」って言われて、僕もチェロの音色が好きだから「じゃ、チェロが入るアレンジをやろうかな」というノリもなかにはありました。
U:アルゼンチン音響派というとファナ・モリーナやフローレンシア・ルイスですか。音像の感触には独特なものがありますね。
また外部スタジオのエンジニアである、平野さんからのヒントも興味深い話です。
今回ベーシスト(ウッドベース)とドラマーが参加した経緯も同じ様なエピソードですか?
H:ファナ・モリーナやリサンドロ・アリスティムーニョという人の「39°」というアルバムをよく聴きました。
ベーシストとドラマーも平野さんに紹介していただきました。ハピネスでは他のアルバムでもバリバリ録音されている方たちですので、腕も達者ですがこういった曲の雰囲気を理解してもらうのが早かったです。
U:作詞を担当している、ふうかさんとは分業作業だと思いますが、洞澤君から特にサゼッションしたことはありましたか?
H:基本的にデモを聴いてもらって、湧いたイメージで自由に詞を書いてもらいます。
言い方は悪いですが「丸投げ」です。特にできあがったものを「ここ変えたら?」ということもないですね。でも彼女は自分なりにとっても考え抜いて詞を書いてくる。
作詞の経験はmanamanaで初めてらしいですが、アーティストが考え抜いて出してきた詞はそれがすべてだと思います。一度くらいデモテープ渡すときに「この曲はこんな世界観でいったらどうだろう?」くらい言ったことはありますが。
U:レコーディング中のエピソードなどは?
それがアルバム作りに影響を与えたことなどはありましたか?
H:今回も前作に続き大枠は自宅録音なので、自分のパートにおいては気に入らなかったら延々録り直し、録音しながらミックスもまとめて、ミックスも延々直すといった宅録にありがちな延々地獄に一度ははまりました(笑)。
ミックスまでやるというのは大変ですけど(苦手意識もあり)、最初から自分でミックスダウンまで想定した段取りで進められるし、違ったらいつでも戻ってやり直しもできるのがよいところですね。おかげでイメージ通りにはなったと思います。
少し機材の話をしますと、アルバム制作のためにマイクを新調しました。楽器屋で5、6個マイクを並べて同行したふうかさんにサビのフレーズを歌ってもらい、一番しっくりきたAKGのC411Bというマイクを選びました。ちょっと高かったけど、このマイクのおかげでクオリティは確実に上がったと思います。ひとつでも新しい機材を用いることによってモチベーションも上がるし、新鮮さもできていますからやっぱり作り手にとって大事だと思います。商業スタジオのように一通りのマイクが揃うような環境ではないので、一つの買い物に気合いが入りますが、そこで愛せるものに出会うと作品も変わると思います。
U:アーカーゲー(AKG)のコンデンサーマイクですね。ヴォーカリストの声の特性に合わせて選ぶのは重要ですよね。その出費も報われると思います。
収録曲について少しお聞きします。「あの場所へ」で、メロディが下降して2トラックのコーラスが入るところが凄く素晴らしいんですけど、この曲のヴォーカルトラックはいくつ使っていますか? 曲毎で異なると思いますが、コーラスアレンジやヴォーカルトラックの構成などはどのように進めていますか?
H:「あの場所へ」のコーラスは同じハモリを2本重ねてプラグインで広げてあります。
なので、意外に少なく3トラックです。ヴォーカルトラックの構成とコーラスアレンジはすべて僕が考えてふうかさんに伝えます。
ヴォーカルテイクのディレクティングは、基本的にふうかさんを中心にやってもらって、気になるところは僕が意見を言う感じですね。
U:「雨音」の途中デュエットしている男性ヴォーカルはどなたでしょうか?
またこの曲の間奏や「微睡日和」の弦楽器はウクレレですか?非常に効果的だと思いますが、やはり洞澤君がプレイされているんでしょうか?
H:「雨音」のデュエットは恥ずかしながら僕です。歌は得意ではないのですが、サビの高揚感が欲しくて、ふうかさんの声に重ねてみたら結構悪くないなと思ったので録音してみました。「もしも」の2サビでも同じようにユニゾンで歌を重ねています。
レコーディングでは声の混ぜ具合で多少苦労しましたが、いまの録音ソフト(Protools)はいろいろ便利な機能があるので助かりました。とくにピッチ系(笑)。
ウクレレも僕が弾いているんですが、指摘していただいて素直に嬉しいです。自分でも気に入っているんです。思い出しました、「雨音」の間奏は某テレビ局のウェザーニュースのBGMを聴いてインスピレーションが湧いたんです。
そういえばウクレレは「微睡日和」用に購入し、一生懸命コードを覚えました(笑)
U:タイトル曲の「空のとびかた」は、ふうかさんのヴォーカルをよく活かした音域幅ではないかと思いますが、職業作曲家でもあるということで、ヴォーカリストの個性を活かす作曲方法で心掛けていることはなんでしょうか?
H:ヴォーカリストの個性を活かすという意味では、ユニットで作曲する者にとってもとても勉強になります。最もヴォーカルのおいしいところはどこかを探って、ここ一番で使うのが楽しい。しかしながらmanamanaの場合、ある程度こういうふうに歌うだろうと想定して作曲はしますが、ふうかさんがおもいっきり自分の解釈(僕の想定外)でデモを歌ってきたりすることがあるので面白い。それが素晴らしいときがあります。
ですから最近心掛けているのは「決めてかからない」ということでしょうか。もちろん仕事で違う女性ヴォーカルの方と仮歌録音するときは、イメージがかっちり決まっているので細かく指示しますが。
U:最後にリリース後のライヴスケジュールなどをお願いします。
H:直近のライブ予定は、1月28日に渋谷の「青い部屋」、2月11日にやはり渋谷のdressで演奏します。それ以降は詳細決まり次第ブログにアップしますので、チェックしていただけたら嬉しいです。
今後は地方でのライブも考えていこうと思っておりますので、是非イベンターさんはお声を掛けて下さい!