流線形と比屋定篤子:『ナチュラル・ウーマン』
(HAPPINESS RECORDS/HRAD-00041)
流線形 クニモンド瀧口 インタビューVol.1からの続き
ウチタカヒデ(以下U):大貫妙子さんの「何もいらない」(『Sunshower』(77年)収録)のカバーは、オリジナルのクロスオーバー~AOR系サウンドを大切にしたアレンジですね。 因みに、シングル『君の住む街にとんで行きたい』(97年)のカップリングで大貫さんの「街」(『Grey skies』(76年)収録)をカバーされていたことで、瀧口さんは比屋定さんを知るきっかけにもなったということですが、この選曲には彼女の意向もあるのでしょうか?
クニモンド瀧口(以下T):比屋定さんは大貫さんのものまねが得意なんですよ(笑)。普通に歌うとそっくりになってしまうので、この曲は大変でしたね。まぁ、やっぱり似てしまうんですが。 この曲は僕のリクエストでした。『Sunshower』の中で一番好きなんですよ。 言葉が少なかったり、スリリングなアレンジだったり、グルーヴ感があったり、飽きない曲なんですよね。それを自分でやったらどうかな?ということでやってみました。
U:声質の系統が大貫さんと近いんでしょうね。天性の才能だと思います。 今回のカバー・ナンバーの中で異色なのが、八神純子さんの「サマーインサマー ~想い出は、素肌に焼いて~」(82年)だと思うんですが、瀧口さんご自身、思い入れがあるのでしょうか? またオリジナルでは80年代初期のロック・テイスト(ギターは松原正樹、ベースは後藤次利だったかな?)を持ちつつ洗練されたサウンドでしたが、ここではアニー・アイズレー風のリードギターを配しつつ、よりシティポップ的なサウンドにアダプトしていますね?
T:JAL82年沖縄キャンペーンソングということで(笑)。この曲、当時大好きだったんですよ。 曲もいいんですが、山川啓介さんの歌詞が素晴らしいな〜と。 オリジナルは歌謡曲なんですが(でも、ベースのグルーヴとか凄いですけど)、それをもう少しバンドサウンドにした感じですかね。八神純子さんは素晴らしいシンガーだと思うんですが、比屋定さんがこの曲を歌ったらどんな感じになるんだろう?という実験もありましたね。
U:瀧口さん十代の思い出の曲なんですね。八神さんはメディアへの露出のせいなのか歌謡曲という文脈で語られがちですが、「ポーラースター」や「Mr.ブルー ~私の地球~」など、歌唱力を武器にして後世に残る名曲が多かったですね。 次にオリジナル曲について。アルバムのトップを飾る「ムーンライト・イヴニング」ですが、私個人的にはアルバム中最も好きな曲です(笑)。Dr. Buzzard's Original Savannah Band~サディスティックス(今井裕)的なサウンドが溜まりせんね。この素晴らしいチャーリー・カレロ風のホーン・スコアは瀧口さんが一人で書いたのですか?
T:ウチさんのために作りました(笑)。今井裕さん解釈のDr. Buzzard's Original Savannah Bandの部分と、Elbow Bones & The Racketeersの「Night In New York」(『New York At Down』(83年)収録)のモチーフから作りました。もともとは違うアレンジで存在していた曲なんですが、その時のアレンジがMizel Brothersみたいな感じだったので、大きく変えましたね。 ホーンアレンジは、イメージを伝えてヤマカミさんと島(裕介)君にお願いしました。いい感じになったと思います。今井裕さんの「Cool Evening」(同名アルバム(77年)収録)が目標だったので(笑)、スチールパンも最初から入れる予定でした。 歌詞は安井かずみさん目指したんですけど(笑)。
T:ある企業からBGMをお願いされた時にオケを作ったのがこの曲なんです。 ラテンのリズムで作っていたので、比屋定さんの歌を何となく意識して作っていました。今回の制作が始まってから、NOVOと、ユーミンのイメージで仕上げた感じです。ソフトロック好きなところが少し出せたんじゃないかと(笑)。アウトロのフルートはBobbi Humphreyを意識してもらいました。
U:そうか、NOVOだと「白い森」(シングル・ヴァージョン(73年))かな。「やさしさに包まれたなら」(『MISSLIM』(74年)収録)は直ぐに分かったけど、ボッサのリズムを基調にして、グロッケンがトップで鳴っていたりと完璧な和製ソフトロックですよ。アウトロのBobbi Humphrey風のフルート・ソロは、「Blacks and Blues」(同名アルバム(73年)収録)などを彷彿させますね。 しかし、ヒットミー(ヤマカミ)は本当に器用です(笑)。 さて、タイトル曲でラストを飾る「ナチュラル・ウーマン」ですが、アルバム中最もメロウで耳に残ります。黒さが漂うミッドテンポで、サウンド的に『TOKYO SNIPER』に収録されていても違和感がないけど、比屋定さんのヴォーカルによって更に世界観が広がりますね。
T:この位のBPMの曲は、演奏する側は大変なんですよね。ノリによってカッコ良くもなるし、ダサくもなる。Deodatoの『Love Island』(78年)や、Kalimbaプロダクションみたいな感じでやってみた曲です。曲を作った時は、佐藤博さんの声を意識して作りました。
U:ヒントとなったのは、タイトル曲の「Love Island」や、モーリス・ホワイトとの共作でDeodato 以外のリズム隊をKalimba人脈で固めた「Tahiti Hut」あたりですね。恐らくDeodatoは「That's The Way Of The World」(同名アルバム(75年)収録)みたいな独特のタイム感を目指していたんでしょう。佐藤博さんといえば、「I Can't Wait」(『Awakening』(82年)収録)もこのタイム感を持っていましたね。最近ではLampの「雨降る夜の向こう」(『ランプ幻想』(08年)収録)とか。染谷君も『Love Island』や『Awakening』が好きなんじゃないかな。 今回、アルバム・トータル的に瀧口さんが意図されたサウンド・プロダクションとして、最も心血注いだポイントはなんでしょうか?
T:制作を始めてから1年半も経ってしまったので、すっかり忘れてしまいました(笑)。 いしだあゆみとティン・パン・アレイ・ファミリー的なコンセプトで始めたので、比屋定さんのバックバンドということは意識していましたね。
U:『アワー・コネクション』(77年)ですね。実績のあるソロ・アーティスト(シンガー)を、精鋭のロックコンボがプロデュース&バッキングするという、そのコンセプトは成功しているのではないでしょうか。流線形のサードアルバム(1stミニアルバム含む)として、また和製MBPアーティストである比屋定さんのポップス期(?)をフラッシュバックさせる、希有なコラボレーション作品としての二面性をもっていると思います。 素材的には比屋定さんの嘗ての曲のセルフカバーと、瀧口さんのリクエストによる2曲のカバー、そしてオリジナルの3曲とバランス的にもいいです。 レコーディング中のエピソードとして、前作から引き続き参加されたバッキング・ミュージシャンの方々についてのプレイについてはどうでしょうか?
T:ドラムの(北山)ゆう子ちゃんは、女性ならではの繊細さや、歌いながら演奏している感じがいいですね。叩き方はBuddy Richみたいですが(笑)。ベースの小山(晃一)君は、程よい感じで。最後までレコーディングに付き合ってくれた山之内(俊夫)君は、天才なのですがなかなかいいプレイが出ず(笑)。鍵盤の後藤(雅宏)君は、デビュー前の比屋定さんのライヴを観ていたので感無量だったみたいです。というか、リズム隊は1年以上前に録り終わっているので、まだやっていたのかと驚いていると思いますが。
U:皆さん、手練なミュージシャン達で、さすがは瀧口さんの目に適った強者という感じがします。結果的にベーシック・トラック録音完了から1年以上という熟成期間も、俯瞰的にプロデュースする上でプラスに働いたかも知れませんね。
では最後にリリース絡みのライヴ予定についてご紹介をお願いします。
T:11/14にワンマンライヴがあります。レコ発ではなく、今まで出した3枚からの中からヴォーカリストを変えて、ある意味ベスト的なライヴになるかと思います。 メンバーも元オリラブの宮田(繁男)さんや、キリンジ・バンドの千ヶ崎(学)さん、相対性理論のやくしまる(えつこ)さん、美大を卒業した江口ニカさんなどなど豪華なので、お時間あれば是非!
(インタビュー設問作成/編集:ウチタカヒデ)
T:11/14にワンマンライヴがあります。レコ発ではなく、今まで出した3枚からの中からヴォーカリストを変えて、ある意味ベスト的なライヴになるかと思います。 メンバーも元オリラブの宮田(繁男)さんや、キリンジ・バンドの千ヶ崎(学)さん、相対性理論のやくしまる(えつこ)さん、美大を卒業した江口ニカさんなどなど豪華なので、お時間あれば是非!
(インタビュー設問作成/編集:ウチタカヒデ)