さて、率直に行ってこれだけのお金を払った価値があったかと問われると、ファンとしてはなんとか納得できるが、期待以下だったというところ。特にCD、DVD共に最近のリリースであるライブ盤の『Live At The Fillmore East 1970』と『Live At Massey Hall 1971』を入れたのはいわば「水増し」で、とても承服できない。そしてDVD(&ブルーレイ。以下DVDと記すものはブルーレイフォーマットも含む)は映画と『Massey Hall』以外動く映像はなく、収録が音だけではこういうメディアを使った価値が乏しい。ただしDVDの各ディスクには当時の貴重な写真や記事が収録されているし、DVDのみにHidden Tracksやシークレット・トラックが散りばめられていて、そのいくつかは当時のライブ映像なので価値はあるのだが、それならボーナス映像は1枚のボーナスディスクにまとめればよかったし、わざわざDVD10枚組なんていう規模にする必要はまったくなかった。ではまずCDフォーマットをベースにして基本の共通の曲目について紹介しよう。もちろんレア音源のみだ。作曲はニールのオリジナルが基本なので違っているときのみ記載するものとする。まず『Early Years 1963-1969』である。冒頭の6曲はニールのデビュー時のバンドであるSquiresの音源だ。冒頭の「Aurora/The
Sultan」は1963年にリリースされた「デビュー作品」なのだが、下手くそなエレキ・インストで、ニール・ヤングを感じさせるものはまったくない。残る1964年から65年に録音された未発表の「I Wonder」「Mustang」「I'll Love You Forever」「(I'm A Man And)I Can't Cry」の4曲はシンプルなロックナンバーばかりで、デビューシングルよりは進歩しているがニールらしさはほとんど感じられない。1965年にニールとCornie Smithで録音したデモの「Hello Lonely Woman」「Casting Me Away From You」「There
Goes My Baby」はそれぞれブルース、カントリー、フォークで、ニールのルーツミュージックへのアプローチがここで始まっている。そして同年の12月にはお馴染みの「Sugar Mountain」「Nowadays Clancy Can't Even Sing」のデモが録音され、ニールらしい音楽スタイルはここで固まったようだ。ただ同時に録音されたオリジナルの「Runaround Babe」「The Ballad Of Peggy Grover」「Extra
Extra」「The Rent Is Always Due」(「I Am A Child」のもとのメロディ一部あり)は、レベルが低いと見なされ、オフィシャル録音はされないまま。賢明だ。ここからはバッファロー・スプリングフィールド時代の音源となるが、1966年9月に録音された「Down Down Down」は後の「Broken Arrow」の原曲。ニールとスティルスの2人で書いたエキゾキックなインスト「Kahuna
Sunset」なる珍品もあった。1967年2月に録音された「Sell Out」はニール、そしてバッファローにしては珍しいタイプのイージーなビート・ナンバーで、当然ながらボツになった。その他では意図不明のきれいなインスト「Slowly Burning」があり、もう1曲の「One More Sign」のみ、ニールらしい哀調があり、なかなかのナンバーだった。『Topanga1(1968-1969)』と題されたディスクは「Everybody
Knows This In Nowhere」の超貴重なDJコピー盤からスタートする。アコースティックでリコーダーも入るまったく別のアレンジで驚かされる。68年8月に録音された「Birds」は、我々が知っているピアノによるアルバム・ヴァージョン、ギター中心のシングル・ヴァージョンとはまったく違う、バンド・サウンドながらピアノも入る初めて聴くアレンジで驚かされた。「What Did You Do To My Life」はアルバム・ヴァージョンより歯切れがよく、なかなかの聴きものだ。ファースト・アルバムのハイライトの1曲「I've Been Waiting For You」の初登場ミックスはギター、ベースがオン、キーボードが奥に引っ込み迫力がある。その他では「Sugar Mountain」の初登場ステレオ・ミックス、68年の「Nowadays
Clancy Can't Even Sing」の初登場ライブが収録されていた。初登場の弾き語りライブ『Live At
The Riverboat(Toronto 1969)』は、価値ある1枚だ。11曲を歌うがバッファロー時代の曲の「Expecting To Fly」「Broken
Arrow」をはじめ「Flying On The Ground Is Wrong」「On The Way Home」「I Am A Child」と5曲を占め、ファースト・アルバムからは「The Old Laughing Lady」「I 've
Loved Her So Long」「The Last Trip To Tulsa」「Whisky Boot Hill」の4曲と、この時代ならではの選曲が楽しめた。『Topanga
2(1969-1970)』ではまず「Oh Lonesome Me」の初登場ステレオ・ミックス、前日のギター中心のアレンジの「Birds」シングル・ヴァージョンが登場する。そしてクレイジー・ホースとのコラボでセカンド・アルバム以降に録音されたのが、69年8月録音の「Everybody's Alone」と10月録音の「Dance Dance Dance」。どちらも劇的に作曲能力が進化しているニールにとってはキャッチーなフレーズがなく、そのためボツにした曲だろう。クレイジー・ホースとの70年2月のライブ「It Might Have Been」は珍しいカバー曲で、カントリー。『Topanga 3(1970)』はまずカントリー・タッチの特徴のない未発表「Wonderin'」からスタートする。CSN&Yとして録音された70年6月のライブの「Only Love Can Break Your Heart」、7月録音のライブ「Tell Me Why」はCSN&Yの完璧なハーモニーが曲を覆う。おそらくCNYでのハーモニーと思われるがCNのコーラスは完璧すぎ、逆に違和感がある。ニール自身のヴァージョンの方が聴きやすい。後はその4年後に発表することになる「See The Sky About To Rain」のライブ。それはピアノの弾き語りなので、イメージはあまり違わない。ラストは『North Country(1971-1972)』はまず71年1月の「Heart Of Gold」の実発表ライブからスタート、お得意の弾き語りだ。2月のライブの「Bad Fog Of Loneliness」はハーモニーもいいし、内容充実の仕上がりだ。同月録音のライブ「Dance
Dance Dance」もバンジョーなどを入れカントリータッチにして大正解、出来のいいライブになった。ロンドン・フィルがバックを担当した「A Man Needs A Maid」、カントリータッチの「Journey Through The Past」、ピアノの弾き語りの「Solidier」はそれぞれ初登場ミックス、そして締めはニールとグラハム・ナッシュとのコラボ作品で、ギターの重厚なリフとハーモニーが最強にマッチしたシングル「War Song」だ。いい曲だったのにずっとリイシューされず切歯扼腕していたので嬉しい収録だ。 次にDVDへ移ろう。映画『Journey Through The Past』にはCSN&Yでの「Ohio」の一部やバッファロー・スプリングフィールドの「Rock
And Roll Woman」の一部という本ディスクでしか見られない貴重映像はあるものの、製作意図が分からない謎の映画なので心にはまったく残らない。これだけでCDに比べ2.5倍もするDVDを買う価値はないが、ところがDVDには多くの隠しトラック(Hidden Tracks)が収められていて、それで見つけてなんとか満足を得ることができた。ただ非常にHidden Tracksを探すのは難しく、まだ探せない曲がいくつもあるのだが、とりあえず先にレポートをと思って中途半端な形で書いているので、お許し願いたい。隠しトラックは曲目がメニューから出ることはまったくなく、基本的には「Song Selection」で曲を選んだ時に十字キーで画面の関係ない部分へ適当に動かすと羽ペンが出てくる時があり、それをクリックすると隠しトラックが出てくるといういやらしい作りになっている。もうひとつの入り口は「More」を選んでさらに「Timeline」を選んだ時に、画面にピンが打ってあるところがあり、それが隠しトラックと、シークレットトラックの入り口になっている。このシークレットトラックはクレジットすらないので要注意。例えば『Early Years(1966-1968)』の「Mr.Soul」ではそのまま再生ボタンを押すのではなく、下に隠れて半分見えているシートまでカーソルを当てると1967年4月8日ABC放送のハリウッド・パレスでのバッファロー・スプリングフィールドの「Mr.Soul」のライブの完全版が見られる。映画『Journey Through The Past』のものは不完全版。ここでの「More」→「Timeline」では3本のピンが出るがそれが隠しトラックで、一番右の「This Is It」では68年5月5月、ロングビーチでのバッファローのラスト・ライブを聴くことが出来、後半はニールとスティルスのギター・バトルが延々楽しめる。14分30秒もの長尺だ。『Topanga 2(1969-1970)』の「Timeline」のピンは、これはシークレットトラックでまず一番左が1969年8月18日、ウッドストックでのスティルスのオープンチュ-ニング・ギターをバックにした「Mr.Soul」、これははっきり言って成功していない。逆に内容が最もいいのが真ん中のピン、1969年9月、ABCにCSN&Yとして出演した時の「Down By The River」で、緊張感溢れる素晴らしいライブが堪能できる。なお、この映像はかつて『Music
Scene』というDVDにも収録されていた。また「Song Selection」の「Sea Of Madness」で下に半分見えているシートを選んでそこをクリックすると69年9月にCSN&YとしてBig Sur
Folk Festivalに出演した時のライブをシークレットで見ることができる。ニールは座ってキーボードを弾きながら歌っているので、カメラは前半ナッシュがリード・ヴォーカルと勘違いしてニールになかなかカメラが当たらない。『Topanga 3(1970)』の「Timeline」のピンでのシークレットトラックは、まずは70年6月のCSN&Yでの「On The Way Home」のアコースティック・ライブ。歌もカメラ・アングルも最高でまさに『4Way
Street』。スティルスを指差し、クロスビーと笑い転げるニールの姿を見ると思わず嬉しくなってしまう。もうひとつは70年6月のニューヨークのカフェでの弾き語りの「The Loner」とフィルモア・イーストでの「Cinnamon Girl」の弾き語りだった。「Song Selection」で「Ohio」を選び下に半分見えているシートを選ぶと71年10月のボストンでのCSN&Yの熱い熱いアコースティックでの「Ohio」を聴くことができる。「When
You Dance I Can Really Love」や「Don't Let It Bring You Down」では左右にカーソルを動かし羽ペンを見つけて隠しトラックを聴くことができるが、聴けるのはそれぞれの曲のVersion2、特に「When You Dance...」はラフで印象が違っていた。そして『North Country(1971-1972)』の「Timeline」のシークレットはロンドン・シンフォニー・オーケストラをバックに歌う「There's A World」で、これには驚かされた。映像まであったとは。そしてもうひとつはブルースで、1971年9月、Stray Gatorsとのコラボの「Gator Stomp」だった。まだ隠しトラックが見つかっていないが、情報を寄せてください。(佐野)
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