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2009年6月22日月曜日

John Bromley:『Songs』(Rev-Ola/CRREV 281)


 John Bromley(ジョン・ブロムリー)は、60年代にThe KodellsやThe Three People(ピーター・ポール&マリー・スタイルの男女3人のヴォーカル・グループ)のメンバーとして活動後ソロに転向し、ソングライターとしても知られたマンチェスター出身のアーティストだ。 本作は69年にリリースされた、ブロムリーの唯一のソロアルバム『Sing』全曲と、ボーナストラック16曲を追加した初のCD音源である。

 ジャッキー・デシャノンの「Come On Down (From The Top Of That Hill)」(67年)の作者として、またはシャーリー・ベッシーのアルバム『I Capricorn』(72年)などのプロデューサーとして、熱心なポップス通に知られるブロムリーだが、アーティストとしての活動はアルバム『Sing』1枚とシングル5枚をリリースしたのみでその後は裏方に回った様だ。
 本作の元となったオリジナル・アルバム『Sing』のプロデューサーはSharon Tandyなどを手掛けたGraham Dee。オーケストレーションなどアレンジを主導したのはDeeとの仕事も多いGerry Shuryで、キーボーディストとしても貢献している。因みにShuryはトニー・マコウレイとThe Fantasticsを手掛けた他、ビージーズや「Kung Fu Fighting」で知られるカール・ダグラス(元ゴンザレス)などを手掛けるなど70年代も大いに活躍していた。
 アルバム全般でバッキングを担っているのは、第二期キング・クリムゾンに参加するゴードン・ハスケルや後にブリティッシュ・スワンプの名作ソロを発表するブリン・ハワースを配したFLEUR DE LYS(フラ・デ・リーズ)で、随所で彼らの名演が聴けるのもポイントの一つだ。 シンガーとしてのブロムリーはテクニックや表現力こそ一級とはいえないが、トニー・バロウズあたりを彷彿させる瞬間があって曲の世界を見事に描いている。
 アルバムのサウンド的特徴は、60年代中後期のサイケデリック・ムーブメントを通過したブリティッシュ・ロックを軸にバブルガム・ポップやソフトロックなどバラエティに富み、プロデューサーとしての視点が早くから開眼していたといえる。
 なお今回の目玉であるボーナストラックであるが、ファーストシングル「What A Woman Does」(68年)のB面「My My」と5枚目のシングル「Kick A Tin Can/Wonderland Avenue」(69年)のAB面のリリース音源3曲をはじめ、4枚目のシングル「Hold Me Woman」と『Sing』収録の4曲の他未発表曲を加えた計13曲のデモ・ヴァージョンが収録されている。


Melody Fayre / John Bromley

 それでは本作の聴きどころを少々説明しょう。3枚目のシングルにカットされたバブルガム・ポップ風味の「Melody Fayre」、ハワースのヘヴィなギター・リフの導入部からストリングスを配したパートへと展開するアレンジの完成度が高い「So Many Things」。 トラフィック時代のデイヴ・メイソンを思わせるアーシーなヴァースの流れからポップなリフレインが耳に残る「Sugar Love」、ポール・マッカートニー直系で木管を配したシャッフルの「Old Time Mover」や、オールドタイミーの麗しい「Weather Man」。
 ボーナストラックでは未発表曲が断然素晴らしく、ビートルズ初期のジョン・レノンのソングライティングを彷彿させるバラードの「For Once in My Life」や「All the People in the World」は、独特な喪失感を漂わせて好きにならずにいられない。 ロストサマー感覚でメランコリックな「Comic Conversation」は、ウエッブの「Wichita Lineman」やブライアンの「Surf's Up」にも引けを取らない隠れた名曲で、この1曲だけで本作を買う意味があるかも知れない。
 なおアマゾンで流通している2種の米盤だがどちらも内容は同じなので、5月末に取り扱いが始まった方が、安価で流通も安定しているのでそちらをお勧めする。

 (テキスト:ウチタカヒデ

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