そんな彼が手掛けた作品の中で、長年未CDのままであった『祭ばやしが聞こえる』(主演:萩原健一/日本テレビ系 77~78年)が約30年の時を超え、デジタルマスタリング及び紙ジャケットでリイシューされたので紹介したい。
大野克夫はゲイリー石黒&サンズ・オブ・ザ・ウエストのスティールギター奏者としてそのキャリアをスタートさせ、62年に加入したスパイダースのキーボーディストとして一躍知られる存在となった。
71年のスパイダース解散後は盟友の井上堯之と共に、沢田研二、萩原健一のダブル・ヴォーカリストを看板としたロックバンド"PYG"を結成し、グループ・サウンド以降のシーンに布石を投じた。
PYG末期に俳優として活動をはじめた萩原の推薦で、大野が最初に手掛けた劇伴は『太陽にほえろ』である。因みに当初の演奏はPYG名義で、ファンキーなベース・プレイは後に俳優となる岸部修三(=岸部一徳,EXタイガース)によるものだ。
PYG解散後の大野は井上堯之と共に、ソロ・シンガーに転じた沢田研二の楽曲作曲とバック演奏を担う傍ら、TVドラマを中心に劇伴を手掛けていく。『太陽・・』以降は『傷だらけの天使』『寺内貫太郎一家』『悪魔のようなあいつ』と井上堯之バンド名義だが、編曲は主に大野によるものだ。
今回取り上げる『祭ばやしが聞こえる』では大野が単独で作編曲を手掛け、井上堯之バンドから発展したNadjaバンドと共に演奏を担当している。このNadjaバンドは当時、萩原がシンガーとしてのレコーディング時にもバッキングを務めていたと思われる。
本作で最も知られる曲は、タイトル・ソングとして劇中とエンディングで使用された「祭ばやしが聞こえる」だろう。元々はインストのテーマ曲「ドリームレーサー」から発展させたものだが、萩原の強い要請により東海林良作の歌詞を加え、ソロデビュー直後の柳ジョージ(後期ゴールデンカップスのメンバーだった)がヴォーカルを担当している。
そしてこの曲こそ、日本におけるブルーアイドソウルの一つの完成形と思わせる素晴らしさなのだ。かのバーナード・パーディのハイハット・ワークを彷彿させるドラミング(田中清司だろう)とレイドバックしたボリューム奏法のギタープレイ(恐らく速水清司)が印象的で、大野自身による隙間を活かしたフェンダーローズのフレージングとフェイザーをかましたソリーナのサウンドに、柳の一級のヴォーカルが乗れば何も言うことはない。
本曲は後に柳ジョージ&レイニーウッドの『TIME IN CHANGES』に再演版が収録されたが、こちらのサウンドトラック・オリジナルヴァージョンの方が完成度が高い。
劇伴タイプのインスト曲は、メインテーマの「ドリームレーサー」とメロウ・ソウル系の「ストレンジャー」を各シーンに合わせたアレンジの異なるヴァージョンを計11曲収録している。
「祭ばやしが聞こえる」とほぼ同じオケの「ドリームレーサー III」、カウベルとドラム・トラックのブレークビーツ風「ドリームレーサー IV」、アナログシンセサイザーの名器アープ2600を多用した「ストレンジャー III」、トランペットをフィーチャーしてバラードに仕上げた「ストレンジャー IV」等々。こちらのサウンドはジャズ系フュージョンというより、むしろザ・セクション(ジェームス・テイラーのバック・バンド)あたりに近い。生粋のバンドマンである大野ならではのサウンドといえるだろう。
ドラマとしては『傷だらけの天使』や『前略おふくろ様』など一連の萩原主演作品より印象が薄い感があるが、オールロケの35mmフィルム撮影による富士吉田の町を背景に、競輪選手の挫折と人間模様を描いた内容は格別の物であった。
筆者は再放送にてその素晴らしさを知ったのだが、今でも思い出したように昔録画した20話分程を観返すことがあることがある。
こちらも早期のDVD化を強く希望している。
(テキスト:ウチタカヒデ)
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