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2009年2月8日日曜日
クノシンジ:『光のアルバム』 (Dreamusic/MUCT-1021)
日本の若きポップ・プリンスのクノシンジが、待望の1stアルバム『光のアルバム』(メジャーファースト・フルアルバム)を2月25日にリリースする。2007年のメジャーデビュー以来、ミニアルバム1作とシングル4作をリリースし、その動向に注目が集まっていた。
1月18日にリリースされた最新シングル『光と影』(TVアニメ『キャシャーンSins』エンディング・テーマ)を含む全13曲は、これまでのクノ・サウンドの集大成といえるものだ。
自らもコアな洋楽ポップス・ファンを自認する彼のアルバムだけに、多くのWEBVANDA読者も手にして聴いて欲しい。
音源を入手して早2ヶ月になるが、聴く毎にシンガーソングライターとして大きく成長した現在進行形の彼のサウンドに魅了されてしまった。
今回そのサウンドをバックアップした共同プロデューサー&アレンジャーは、元カーネーションの棚谷祐一氏や鳥羽修氏を筆頭に、椎名林檎の成功から現在最も注目されているプロデューサーの一人として知られ、東京事変のベーシストでもある亀田誠治氏、最近はギタリストとして小泉今日子の最新作へ参加している石崎光氏、キーボーディストとして堂島孝平やCHEMISTRYの作品へ参加している渡辺シュンスケ氏といった、実に豪華な布陣が曲毎に参加しており、このアルバムのクオリティーを更なる高みへと導いているのだ。
因みに棚谷氏と亀田氏は、クノがファンと公言している、スピッツの諸作品のサウンド・プロデューサーとしても手腕を発揮していたことで知られる。
アルバムのオープニング「タイムカプセル」は、ギターの弾き語りにオールドタイミーなストリングスをあしらった美しいバラード。印象的なストリングス・アレンジのモチーフは、ポピュラーなバロック・クラシックとして知られるヨハン・パッヘルベルの「カノン」あたりか。
続く「ヒカルミライ」は一転してアッパーで近年的(ウィーザー以降)なパワー・ポップ風で、アクセントになっているシンセのリフにはブリットポップの影響を感じさせる。
アルバム中最も70年代の王道的ポップス(MOR的)の色が濃い「BFO(ビューティフルフェイドアウト)」は極めて完成度が高く、アレンジ細部に渡って素晴らしいセンスを感じさせる。ギターソロがブライアン・メイ(クイーン)しているのはクノ・サウンドらしくて微笑ましい。
一方「君は君」は最もビートルズの影響が強く、ポルタメントを利かせたチェロの進行などは、「I Am The Walrus」~その後の初期ELOにも通じる。この曲でのギターソロはサウンドにマッチした、ジョージ・ハリスンの「Isn't It A Pity」に通じる泣きのフレーズが聴ける。
80年代初期ネオ・アコースティック・サウンドがモチーフになった「FRIEND-SHIP」も特筆すべきサウンドといえるだろう。最近では相対性理論からacariまでと幅広く、この手のサウンドを引用しているが、リバイバルさせた渋谷系から周期がまた一回りしたということなのだろうか。非常に興味深い傾向である。
最新シングルで、インディーズ時代のアルバム『FULL COURSE OF POP SONGS』に収録されていた「Happy?」のリメイクである「光と影」は、ピアノの弾き語りにストリングスが寄り添う感動的なバラードで、リメイク前から既に光を放っていたが、今回更にその輝きを増したといえる。揺れ迷う心情をそのままストレートに吐露した歌詞は、誤解を恐れずに書くと、ジョン・レノンの「マザー」にも通じる崇高な思いを感じさせる。正に名曲とは、こういう曲のことをいうのだ。
そしてアルバム・タイトルの「光」とは、彼が作り出した、金色に縁取られた作品のことを表しているのである。
(ウチタカヒデ)
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