このアルバムを強くプッシュしたのは1996年、12年前に音楽之友社から出した『ソフトロックA to Z』の単行本だったけど、遂に夢のひとつがまた実現した。当時、MCAビクターってところがこのアルバムの権利を持っていて、勧めたけど、ソロシンガーは売れないからとか何とかいって出してくれなかったっけ。こうやってRev-Olaなど、海外のリイシューレーベルはいいものは時間が経ってもリリースしてくれる。それに比べ日本のレコード会社の洋楽部門はつぶれかかっているので、有名アーティストのアルバムを紙ジャケばかりで出しなおし、ロクでもないCDばかり出して、目も当てられない惨状だ。何度も何度もリリースされたスモール・サークル・オブ・フレンズの1stアルバムを、ボーナストラックも付けず、たった20分程度しか曲が入っていないままで紙ジャケでリリースされていたが、あんなものに何の価値があるのか、呆れて物も言えない。
さて、本題に戻って、この2枚のアルバムは、前者はヴォーカル・アレンジがカート・ベッチャー、後者がボールルームのジム・ベルで、バック・コーラスはその二人に加えサンディ・サルスベリー、リー・マロリー、ミシェル・オマリー、ドッチ・ホームバーグらと、ミレニウム、サジタリアス、ボールルームのメンバーで固めているので、文句なしの仕上がりになっている。特に『It's Now Winter's Day』は、カート・ベッチャーが、トミー・ロウが自分の声が聴こえない!と怒らせたほど斬新なハーモニーを付けまくり、ポップ・サイケの傑作としても評価されるアルバムにしてしまった。特に「Moon Talk」は、高度なコーラスワーク、サウンドに逆回転も使いながら、サイケデリックでありながら少しも難解でないというカート・ベッチャーの才能が全開した快作。冒頭の「Leave Her」から「Moon Talk」を挟んで「Aggravation」までの3曲は、ビートが効いたナンバーでありながら、カート・ベッチャーのコーラス・マジックで全編が覆われ、ポップ・サイケの最高の形を見せてくれた。アルバムのB面に当たる部分の「Long Live Love」「Night Time」「Sweet Sounds」「It's Now Winter's Day」は牧歌的な美しいメロディとサウンドに、虚空からふっと現れるようなミレニウム、サジタリアス・スタイルの極上のハーモニーが付けられ、こちらはソフト・ロックの傑作となった。これだけのクオリティの曲が詰まったアルバムは、めったにない。カートの才能はもちろんだが、全ての曲を書いたトミー・ロウの才能もまさに頂点にあった訳で、両者の才能が頂点でシンクロしたからこそ、この名盤が生まれたといえよう。なお、このアルバムはステレオで、モノアルバムで聴いていた私は、「Moon Talk」のイントロに笑い声や話し声が入っていたのに驚かされた。この時代が一番、ステレオとモノで違いがある。そして『Phantasy』は、トミー・ロウがカートのやり過ぎのハーモニーを嫌ったため、カートのボールルームの仲間であるジム・ベルにアレンジャーを代えてリリースしたアルバムだ。そのため、マッドな感覚は影を潜め、トミー・ロウの牧歌的なメロディが前面に出て、ある意味では聴きやすいアルバムになった。ファンタジックな「Plastic World」「Melancholy Mood」は、実に美しいソフトロックの傑作で、トミー・ロウの作曲の才能と、持ち前の甘いヴォーカルの魅力を体感させてくれた。B面にはサンディ・サルスベリーが書いた2曲が入るなど、こちらも聴きどころは多い。ファンタジックなアルバムにするためにハーモニーは控えめに付けられているがやはり高度なものだし、サウンドはストリングスを生かし練られている。
両者とも聴きどころ満載で、最高のアルバムと太鼓判を押すが、Rev-Olaには苦言をひとつ。
これだけの名盤なのに、肝心なバッキングのスタッフへの言及が無いに等しく、そのクレジットが裏ジャケの写真だけで、それもピンボケでよく読めないのはあまりに手抜きだ。取材がない解説は無くてもいい程度。この前のペパーミント・レインボウのアルバムが全シングルをボーナストラックで追加と内容面でがんばっただけに、ちょっと残念だ。
なお、このCDは12月19日現在、日本でも海外のamazonでも未入荷で、年明けの入荷とされているが、Rev-Olaを出している元のCherryredレーベルで普通に買える。送料込みで10.95£と安かった(円高は助かるね)ので注文してみたが、1週間で届いたので、amazonに回すだけのプレスが出来なかったのだろう。(佐野)
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