ポール・ヴァンス=リー・ポックリスといえばブライアン・ハイランドの「イエロービキニのお嬢さん」で知られるソングランティグ・チーム。プロデュースも手がけており、この二人は1969年にアメリカでブームになっていたバブルガム・ミュージックの波に乗って自分たちも一発当てようとこのカフ・リンクスというプロジェクトを考えた。リード・ヴォーカルには、アニメの架空グループ、アーチーズで大ヒットしたロン・ダンテに白羽の矢を当てる。ダンテの歌声は若々しく爽やかで、もってこいだった。ダンテはレコーディングに呼ばれ「Tracy」をたった2時間余りで録音、シンプルながら巧みな転調で引き込まれてしまうこの快作は69年に全米9位という大ヒットを記録した。このヒットを受け、アルバムを作ることになり、ダンテは再びリード・ヴォーカルに呼ばれる。ヴァンス=ポックリスは全てのトラックを完璧に準備していたため、アルバム『Tracy』の録音はたった2日で終わった。しかし内容は「やっつけ仕事」ではなく、メロディアスな佳曲が並ぶ、バブルガム・ミュージックの中では最上位にランクされるアルバムになった。次のシングルで全米41位(イギリスでは10位)となったキャッチーな「When Julie Comes Around」もいいし、シングルB面に配置された「I Remember」、「Where Do You Go」、「Sally Ann」が素晴らしい。マイナー調のメロディがサビでメジャーに展開、ハーモニーと共に解放されていく「I Remember」、アコースティックなサウンドと美しいメロディがピタリとはまったワルツの「Where Do You Go」、アップテンポの楽しいバブルガム・ソング「Sally Ann」はどれもB面にはもったいなさすぎる傑作ばかりだった。このアルバム以降はダンテとの契約がなくなってしまい、ジョー・コードなる人物がリード・ヴォーカルを担当するが、ダンテのような初々しさはなく、最初にヴォーカルを取った70年の「Run Sally Run」は76位となるもののこれがカフ・リンクス最後のヒット曲になった。本盤には以降の3枚のシングルがボーナス・トラックで追加されたが、その中でも2枚目のアルバム『The Cuff Links』の冒頭を飾った「Robin's World」がピアノのイントロの美しい響きから引きこまれてしまう佳曲で二重丸。続く「Thank You Pretty Baby」もダンテが歌っているのでは?と思わせるキャッチーなバブルガム・ソングでこれもとてもいい。そしてデッカでの71年のシングル『All Because Of You』は、転調の妙だけで聴かせてしまう楽しいナンバー。B面用の「Wake Up Judy」も悪くない。B面で力を抜かないのがヴァンス=ポックリスの凄いところで、シングル用にいくつか録音してその中からAB面を選んでいたのに違いない。ここでCDは終わりだが、私の手元には本CDのオリジナル・レーベルDeccaから離れたAtcoから72年にリリースした「Sandi」、さらに75年にRouletteからリリースされた「Some Girls Do」の2枚のシングルがありどちらもみなヴァンス=ポックリス作・プロデュースなので、2人はずっとこの「カフ・リンクス・プロジェクト」を続けていたことが分かる。そしてこの2人は73年にClint Holmesの「Playground In My Mind」で全米2位、74年にDavid Geddesの「Run Joey Run」で全米4位と大ヒットを生んでおり、創作面では絶好調だったようだ。一方のロン・ダンテはソロで素晴らしいレコードを多くリリースしたもののどれもヒットしないままに終わってしまう。次に期待したいのはロン・ダンテのワークス、これしかない。(佐野)
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