往復も船が出ているので、こうやって時間の隙間にも行けるのが便利。水牛車は満席状態でゆっくりゆっくり進む。確かに竹富の町なみは美しく、赤瓦の屋根、珊瑚で作られた黒い石垣、白砂がしきつめられた道路、家を囲む防風用のフクギの緑が絶妙にマッチしている。
これは自転車を借りて歩いた方が気持ち良かったかも...と思ったが、こういう有名なイベントに参加したのも一興か。2日目も予定をこなしただけで終わった。本番は明日からだ。
2006年7月28日
朝起きるとすぐにカーテンを開ける。青空だ。予想通りだが嬉しいもの。今日は、西表の「いるもて丸」に乗って、「とくとくツアー」に参加する。
この「とくとくツアー」はまずは珊瑚だけで出来たバラス島へ行ってシュノーケリング、その後、鳩間島へ渡って昼食、午後は西表へ戻ってカヌーで川を下りその後はピナイサーラの滝までトレッキングするというものだ。まだ行ったことがない鳩間島に行けること、そして西表でカヌーができること、という一石二鳥のプランで、昼食・1ドリンク付きで一人8500円は安い。
昨日と同じ上原行きの船はやはり満席だった。上原では「いるもて丸」のスタッフが待っていて、まずはいるもて荘へ行ってシュノーケリングの道具を合わせる。ここは高台で海が見下ろせ、気持ちのいい宿だ。
その後、上原港へ戻り、「いるもて丸」へ乗り込む。同乗者は、カップル以外はお母さんと子供達、お父さんと子供達というなぜか片親がいない家族連れ2組だった。
バラスにはすぐに到着した。既に他の船がいくつも先に到着していて、けっこう人が多い。死んだ白いサンゴが山になっているこの島、どうしてこんなに大量のサンゴが海の真中に集まったのか、不思議な光景だ。ライフジャケット着用が義務ということで、はじめてフィンも着けてシュノーケリングをする。魚はあまり多くない。昨日の星砂の浜よりはいるが、これでは宮古島の吉野海岸の方がはるかに上だ。でもこうやって海を浮遊しているのは心地良い。海面でゴーグルを取ると、見渡すかぎりのエメラルド・グリーンの海。青い空には、東京にはない、羊の群れのような白い雲が並び、ああ、やっとここに帰ってきたなと、やっと八重山を実感できた。
しかし、長く楽しめる場所ではなく、迎えより先に陸に上がり、船がここへ戻るのを待っていた。そしていよいよ昼食を取りながら鳩間島へ向う。鳩間の港に近づくと、海の色が一気に変わる。群青が翡翠色になるのだ。
海の色に見とれていると、もう港に到着していた。1時間ほど時間があるので、まずは鳩間の灯台へ向う。ゆるやかな傾斜の坂道を上がっていくと、「鳩間中森」と書かれた階段があり、そこを上がると灯台だった。丘の頂上にはさらに石を積んだような高い場所があり、おそらく展望台がわりに作ったのだろうが、その上の狭いスペースから鳩間島を見下ろすことが出来る。ただ目の前には大きな灯台、その周りの木も生い茂り、海が見えるのは一部だけだ。絶景とはとても言えない。
港へ戻ると、鳩間の港の美しさに目が奪われる。浅い部分は淡い翡翠色、沖へ行くに連れ藍が入り、そしてその先には大きな西表の山々の緑が並ぶ。鳩間港は白砂の浜なので、色がより映えるのだ。
港の周りはよく整備されており、樹木の下は芝生のようになっていて、木陰で観光客がみな横たわって海を眺めている。海を渡る風が心地良く頬をなでてくれるので、日陰に入ればクーラーなどまったく入らない心地よさ。八重山の海から常に吹きつけてくる風は、翡翠の海からの贈り物だ。
ここにもっと長居したかったが、出航の時間となり、後ろ髪を引かれる思いで西表へ戻っていった。西表で降りたのは、我々ともう1組で、さらにシュノーケリングを続けるグループは船に乗ったまま鳩間の沖へ向っていった。
陸で待っていたのは若い男性のガイド。ワゴン車に乗り込み、ヒナイ川へと向う。車から降りると各自オールを持ち、まず簡単な漕ぎ方の練習。そして川のほとりからカヌーを引き出し、一人用のカヌーに乗って川へと入っていく。
ところがだ。まっすぐ進まない。まず漕ぎ出したところで1回転。なんとか元へ戻して川を進むが、少しずつ左右にぶれる。その都度方向を修正して進むのでどうしても遅くなる。ガイドと家族の姿は少しずつ遠くなり、それにもかかわらず持ち込んだビニール袋からカメラやビデオを出して撮影していたら、いつしかみんなの姿は視界から消えていた。あせって追いつこうとするが、あせるとまたぶれる。カーブをショートカットしようとインで曲がったら浅瀬に乗り上げたりと、ヘタなことこの上ない。
まあいいやとマイペースで漕ぎ出すと、まったく流れのないぬるい川をゆっくりと音もなく自分のカヌーが進んでいくのが分かる。左右から茂るマングローブの木々の間に遠く見える山の上から、一筋の滝が糸のように落ちているのが見える。以前、山道を歩いてマリウドの滝へ行ったことがあったが、秘境・西表を実感できるのは、こうやって体を使わないとだめだ。遊覧船からマングローブを眺めるミニ・ツアーだけでは、西表の魅力はわからない。
ようやく目指す川岸に着き、カヌーを縛ると、今度はその遠く見えた滝を目指してトレッキングの開始となる。熱帯雨林のような薄暗いジャングルのような道を登っていくのだが、実はそれほどきつい道ではない。しかし日頃、運動をしない私にとってはけっこうこたえる。いつしか無口になってなんとか滝まで到達できた。
ピナイサーラの滝は落差が55mもあり、豪快に水しぶきを上げている。ガイドから渡された缶ジュースを一気に飲み干して、一息つく。このドリンク・サービスは本当にありがたかった。子供達はまだ飲まずに滝つぼに入れて冷やしている。やはり体力差は歴然だ。この滝つぼは流れがなく、また大きな岩が下にあるので、みんなサブザブ水浴びをしていた。私はみんなの興じる姿を見ながら、滝の上から落ちていく水の流れをしばらくぼうっと眺めていた。
2006年7月29日
カーテンの外は青空、よし、これで完璧だ。今日は上地観光のツアーのため、上地観光の車が迎えに来てくれる。フロントに荷物を預け、ホテルを後にするが、ここの従業員の女性はみな若くてきれいなのにおよそ愛想がない。ミヤヒラのホスピタリティに比べその差は歴然、「スマイル0円」と書いてある某店もあるが、笑顔は料金の内なのだろうか。
上地観光は7年前にはじめて八重山にきた最終日に「体験フィッシング」をやったところだ。案内されると、見覚えのある船体、これはきっと同じ船だろう。今日のプランは「パナリ島(新城島)シュノーケリング」という一人昼食・1ドリンク付11000円のツアーで、この新城(アラグスクと読む)へ到達すれば、今回の目的である「八重山全島制覇」が完成する。ただ、こんなことにこだわっているのは私ひとりで、家族にそのことを話しても反応がない。4年越しの計画なのに、まあ、みんな形ではなく内容ということかな。船に乗ると船長が上へどうぞと船室の脇のはしごを指差す。はしごの上、つまり船室の上の屋根にベンチが作られていて、5人座ることが出来る。我々家族以外に、10年前より数え切れないほど八重山・宮古に来ているというひとり旅行の男性がその屋根の客になる。
ベンチの横には低い手すりがあり、船長は目の前の第2操舵室と言えばいいのだろうか、普通の操舵室よりはるかに高い位置に作られた舵を握る。船が進み始めると他の船の波を受けてけっこう揺れる。思わず手摺りにつかまるが、はじめちょっと怖かったその高さが、逆に船自身の波を視界にほとんど入れない眺望を確保しているのだと言うことが分かる。そして高速船が脇を通る時と、時折、石西礁湖(石垣島から西表島へ続く世界有数の珊瑚礁)から群青色の外洋に変わった時に現れる小さなうねりが横から船体に当たった時だけ揺れると分かったため、すぐに美しい八重山の海を満喫するようになった。
様々に海は色を変えていくが、翡翠色に輝く海が現れるとあまりの美しさにため息しか出なくなる。高速船ではないので、うるさいエンジン音もないし、この航海だけで十分に満足してしまった。
船は50分ほどで、西表島の下、地図で言うと鳩間島と西表島を挟んで反対側に位置する新城島へ到達した。新城島がなぜパナリ(離れ)と呼ばれたかというと、実はこの島は上地島と下地島のふたつに分かれているからだ。それぞれ人口は6人、2人と現在はほとんど無人島のようになっていて、島の内部の草原で牧畜を営んでいるという。この2つの島は、干潮時はリーフの上を歩いて渡ることができるそうで、二つで一つという存在なのだろう。
そして船は下地島の海岸へ到着した。船長は「ここでシュノーケリングをします。あまり沖に行くと、(リーフの外からくる)潮に流され、あちらの西表まで流されてしまいます。もっとも途中でサメに食われますが」と笑いを誘いながら、注意事項を知らせてくれる。
そして「この島は下地島といって人口は1人だったか、2人だったか、とにかく順繰りに住んで牧場をやっています...あっ今その一人が来ました」というと桟橋へつなぎの服を着たおじさんがスタスタとやってきて、何やら船長から物を受け取っている。定期便のないこの島では、こうした観光客を連れて毎日のように現れるミニ・ツアーの船が、生活物資を運んでくれる足になっているのかもしれない。
真っ白な浜辺では、上地観光のスタッフが人数分の椅子を並べ、パラソルを立ててくれている。目の前には西表島の山々が大陸のように横たわる。海は手前の淡い翡翠色から瑠璃、藍、群青へ色が変わっていく。南の島特有の下が平らで上が盛り上がった白い雲が,真っ青な空のカンバスに広がっている。ああ、なんて素晴らしい景色なのだろう。他に人がいないので、余分な音がない。いや、遠く潮騒が聞こえる。見ると上地島との間をつなぐ遠いアウトリーフに、白い波が砕けている。その音だ。この音には聞き覚えがある。そうだ、20
年前に新婚旅行で行ったタヒチのボラボラ島でずっと聞いていた音だ。アウトリーフに囲まれたあの楽園としかいいようがないボラボラは、未だに私の憧れの地だが、このパナリも同じように美しい。八重山最後の島は、最も美しい海を持っていた。
上地観光のスタッフに呼ばれ、浅瀬でシュノーケリングの講習が始まる。一人一人練習させられ、正しいシュノーケルとフィンの使い方を教えてもらったのは大きな収穫だ。泳ぎの下手な私も長く潜っていることが出来るようになった。
そして上地島と下地島の間のシュノーケリング・ポイントへ船で進む。インストラクターの後について泳いでいくと、珊瑚が盛り上がった見事なポイントが目の前に広がった。魚もきれいだが、美しい青珊瑚が生い茂った場所が最も気に入った。高校の水泳部員である長男は、ライフジャケットを付けていないので、魚のようにもぐっていく。ふと下を見ると自分の下で仰向けで泳いでいたり、自由自在だ。まったくこのくらい泳げればどれだけ楽しいだろう。二男や妻も泳ぎはかなり達者だし、ここでも私一人がドンくさい。でも、シュノーケルだけでずっと呼吸が出来るようになったし、自分としても収穫の多い楽しいひとときだった。
その後はしばらく陸に戻るが、ひとりでちょっと島の中へ続く道へと入ってみる。緑が濃く、密度が高い森だ。アダンがパイナップルのように樹上に並んでいる。しばらくすると草原になり、やはり牧場だったと確認して、すぐに戻っていった。
帰りの船も実に心地よい。翡翠色の海の先に西表島、黒島、小浜島、竹富島が順に現れて消えていく。潮風が心地よく、いつまでもこの船に乗っていたいと思っていたら、目の前に石垣島が近づいてきた。離島桟橋の周りにはホテルが立ち並び、まるでハワイを見ているかのよう。
こうして充実した4回目の八重山ツアーは終了した。それまで宮古島の吉野海岸などに魅せられ、すっかり宮古派だった二男も八重山はいいな、また行きたいという。宮古のビーチでぼうっとしているのがつまらない、大学生になったらもう行かないよと言っていた長男は、カヌーと深い海でのシュノーケリングが面白かったと大満足。来年は宮古島へ行って、シュノーケリングのツアーに入って八重干瀬でシュノーケリングをやろう、その次は西表でシーカヤックをやるか、というとみんなうなずいている。これは来年も楽しみだ。19時30分石垣空港発の継由便
で羽田着は23時20分、家に着いたのは次の日になっていた。家では母に面倒を見てもらっていたが4日ぶりの帰宅に愛猫のベルとノエルは警戒気味。しかしいつしか寄り添ってきた。やはり自宅もいいね。