ムーディーブルースの1枚目から5枚目のアルバムが、ボーナストラック満載でリイシューされた。デニー・レーン時代のムーディーブルースは別バンドとしてカウントする気がないので、ジャスティン・ヘイワードがデニーと入れ代わってから作られた『Days Of Future
Passed』こそがムーディーブルースのスタートなのである。ムーディーブルースは中学時代から私のフェイバリット・グループだった。だから思い入れは深い。そう、1970年、中1の時に初めて買った「ミュージックライフ」に、タイトルは忘れたが「プログレッシヴ・ロックの2大グループ ムーディーブルースとピンクフロイド」という特集があり、学校で洋楽の最先端にいると自負していた私は、これは誰よりも早く聴かなければならないと、記事を読み終えるとすぐにレコード店へ向かっていた。当時LPは容易に買えなかったので、シングルがないかと探したら「Candle Of
Life/Question」というあまりに素晴らしいカップリングのシングルがあり早速購入、その美しいメロディとメロトロンが奏でる幽玄のサウンドにすっかり魅入られたのである。ちなみにピンクフロイドはシングルがなかったので翌月に清水の舞台を飛び降りる覚悟でジャケットのインパクトに惹かれた『原子心母』を購入、これも大当たり。その後は未聴であっても「ミュージックライフ」に好感触の記事が載っていてさらにレコード店でジャケットに惹かれるとLPをいきなり買ってしまう「賭け」を続けることになってしまった。EL&Pの『タルカス』とかイエスの『こわれもの』など当たりが続き、「このグループを発見したのは俺だ!」なんていうチューボーの幼い優越感を満たしてくれていた。本題に戻ろう。どうも昔の話をつい書いてしまうのは年のせいかもしれない。このムーディーブルースは何度かリイシューされているが、紙ジャケになったくらいで(個人的に紙ジャケは興味なし)、ボーナストラックが入ったことはなかった。しかし今回は5枚のうち3枚はボーナストラックのみのディスクがプラスされ2枚組になり、残る2枚も数曲のボーナストラックが入り、デジパックのジャケットの中には貴重な写真と詳細な解説、歌詞まで入ったブックレットが付き、完璧な仕上がりだ。では順に、未発表の音源のみ簡単に紹介しよう。まず『Days Of Future
Passed』から。「Tuesday Afternoon」,「Dawn Is A Feeling」,「The Sun Set」,「Twilight Time」はそれぞれ別ミックスなどとあるがほとんど違ってはいない。ただしオーケストラが被ってこないので貴重だ。後はBBCラジオのセッションの7曲で、シングル曲や「The Nights In
White Satin」、「Peak Hour」などのスタジオ録音の別ヴァージョンが聴ける。驚いたのはアニマルズが歌ってヒットしたバリー・マン作の「Don't Let Me Be
Misunderstood」をカバーしていたこと。そしてなんとリードヴォーカルはジャスティンだった。『In Search Of The
Lost Chord』はまず冒頭の「Departure」のエンディングが次の曲のイントロと被らないため、ひたすら上昇していく部分まで聴けて思い白い。ヴォーカルがダブルトラックになっている「The Best Way To
Travel」、フルートのソロが加えられている「Legend Of A Mind」、「Visions Of
Paradise」のカラオケ、バックにメロトロンが入っている「The Word」、最後のアカペラのコーラスが長く入っている「Om」がアルバムと違うテイク。さらにシングルB面曲の「A Simple Game」は、本来マイク・ピンダーがリードヴォーカルを取っていたが、ジャスティン・ヘイワードがヴォーカルを取ったヴァージョンが入っていたのには驚かされた。さらにBBCのライブは「Top Gear」に出演した時の4曲が入ったが、その中の「Ride My See-Saw」は、エレキギターとベースが小さいためか、リズムパターンがまったく違って聴こえ、印象がまったく違っていた。もう一つ、BBCの「The Afternoon
Pop Show」用に「Tuesday Afternoon」が録音されていて、こちらも一聴して違いが分かるスタジオ録音別ヴァージョンだった。そして『On The Threshold
Of A Dream』。冒頭の「In The Beginning」はSE音が1分20秒も長いフルヴァージョン。イントロのベースのリフの分だけロングヴァージョンになった「So Deep Within
You」、ヴォーカルが違うと書かれているものの同じくレズリー・スピーカーでヴォーカルが電気的に変えられているため違いが分かりにくい「Dear Diary」、分割されないオリジナルの姿の「Have You Heard」、前と後ろが被っていない「The Voyage」のオリジナルが、アルバムとの別ヴァージョン。次いでBBCでは「Top Gear」出演時の「Lovely To See You」と「Send Me No Wine」はオーバーダブ前といった雰囲気の違いが感じにくい完成されたテイク。「The Tony Brandon
Show」の「So Deep Within
You」は逆にヴォーカルがシングルトラックで冒頭から違いが分かった。ただし同じショーの「Are You Sitting
Comfortably」はシンプルなため違いが分かりにくい。いよいよ私が最も好きなアルバム『To Our
Children's Children's Children』へ行こう。まずは「Gypsy」だ。この緊張感溢れる名曲は、エンディングがずっと長く収められていてフェイドアウトしないでライブのように終わる。最後には笑い声も入っていた。そして超名曲「Candle Of Life」だ。この曲もエンディングがずっと長く入り、マイク・ピンダーのピアノが楽しめる。「Sun Is Still
Shinning」もエンディングが長いがこれは同じリフの繰り返しなのでインパクトは低い。残りはBBCの「David Symonds
Concert」のライブが8曲(「Have You Heard」からのメドレーがあるので実質10曲)あり、これはようやくお客の前にしたリアル・ライブで、スタジオ録音とは明らかに違うライブが楽しめる。1974年の初来日コンサートに私は足を運んでいるが、その時と同じく「Are You Sitting
Comfortably」から最後までの『On The Threshold
Of A Dream』メドレーがここでも核になっていて、そのリアルなライブのサウンドに当事の感動を思い出してしまった。最後は『A Question Of
Balance』。まずは驚きの当事の未発表曲「Mike's Number One」。タイトルのとおりマイク・ピンダーの曲だが、マイクにしては明るい曲想で、特徴に乏しいのでお蔵入りになったものと思われる。そしてこれも名曲中の名曲「Question」の別ヴァージョン。冒頭のメロトロンやバスドラの音が入っていないのでジャスティンのギターワークがじっくり味わえる。その後は「Minstrel's Song」、「It's Up To You」、「Don't You Feel
Small」、「Dawning Is The
Day」だが、それぞれ曲の冒頭と最後に前の曲や次の曲が被っていない。『A Question Of
Balance』はその被りがひどい編集をされていたので、貴重な収録と言えよう。この4曲の中ではシングルB面にも入ったジャスティンの「It's Up To You」が何と言っても素晴らしい。つい先日、私の子供の高校の入学式の話だが、そのW学院の学院長の挨拶のキモは『「It's Up To You」の精神』で、仕切りに語られる「It's Up To You」に、ムーディーブルースの曲が頭を渦巻いてしまったのは私だけだろうか。ここまでリリースされたということは残り2枚、『Every Good Boy
Deserves Favour』と『Seventh Sojourn』のリリースが今から楽しみである。(佐野)
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