昨年10月に『オレンジジュース・グレープフルーツジュース』でデビューした、若く才能溢れるクノシンジのセカンドアルバムが早くもリリースされた。 前作から9ヶ月という短いインターバルながら一曲一曲のクオリティは更に磨かれたものになっており、次世代ポップスの新星の名に恥じないアルバムと云えよう。 往年のブルーノート・レーベルの作品を彷彿させる、センシティヴでクールなジャケット・デザインも印象的だ。 ここではリリース前に行ったインタビューの模様を紹介したい。
(クノシンジ:以下括弧内同じ)「僕がなぜ60~70年代のポップス、ロックに填っていったかというと、やはりビートルズとの出会いがきっかけです。その出会いもやはり父がビートルズのベストを持っていて、それを中学生の頃に聴いたからですね。ビートルズに行く前には、邦楽、とくにスピッツに填っていたんですが、並行してビートルズに填っていきました。丁度、ポールが『Flaming Pie』(97年)というアルバムを出したころで、確か発売日に買いに行きました(笑)」
CDリイシューによる過去音源発掘でカタログ化された作品群を、クノの世代では普通にコンプリートで聴ける好環境で育ったといえる。そこからポップス・マニアへと成長したのは云うまでもない。 きっかけがビートルズだったというのが、結構後々のマニア心に影響していると思える。何故なら彼らはポピュラーミュージックの要素をほぼ網羅したといっても過言ではない程、多用なアイディアをサウンドに取り入れてしまったから。 筆者は収録曲の中でも「恋泥棒」に、ロジャー・ニコルスとのコンビで知られるポール・ウィリアムスの「Mornin' I'll Be Movin' On」(『Someday Man』収録曲)的な匂いを感じ取り、その辺りのシーンへの感心も聞いてみた。
「ここ1、2年前までは周りにも60~70年代のポップス好きは居ませんでしたので、ほぼ自分一人で突き詰めていきました。良くも悪くも、ここまでマニアになったのは多分好きな音楽以外に興味が少なく、さらに良い曲を作るという事に生活の大部分を費やしてきた結果だと思います。 「恋泥棒」はロジャニコを意識して作った曲だったりしますが、『Someday Man』は聴いたことがないです。ただロジャニコ・プロデュースっていうことで何か繋がりがあるのかもしれないですね。 コーラスに関しては、本当に感覚だけで作っているので、まだ何々風にとかいったことは出来ないんです。ただ思いついたコーラスラインを、2、3声でハモってるだけっていう。でも出来る事なら、というか今後はそういった名盤を徹底的に研究して、意識してアレンジ出来る様になりたいとかなり思っていますそれこそ日本で、完全に当時のソフトロックを消化した現代版ソフトロックをやって、且つそれが一般ポピュラリティーを持つ位なものを作りたいって思ってます」
周りに音楽仲間が少なかったのでコアに追求していった結果、シンガーソングライターなってしまったというのが面白い。ただそれだけ現代の若い世代は、音楽に興味を持てなくなってしまったという裏返しでもあるのだが・・・。 「恋泥棒」の他にもクノの曲には様々な音楽資産が見え隠れして面白い。例えば「君のお気に入り」にはクイーンからの影響を強く感じさせる。ギターの重ね方やソロの音色等はブライアン・メイをかなり意識しており、ブリテッシュロック・マニアの心を擽りそうだ。 一回り以上も下の世代であるクノの作品に惹かれるのは、これら嘗てのポップス、ロックへのオマージュが惜しみもなく表れているところなのかも知れない。 勿論、彼ならではの個性とアイディアのフィルターを通しているので、単なるオマージュで終わらせない努力にも注目したい。 何でも彼は、デビュー前からポスト小沢健二と称されている様だが、筆者はそれ以上の可能性を信じており、これを機にさらに大きく成長して欲しいと願っている。ともあれ作品毎の変化が楽しみになる、若く有望なアーティストに出会えた事を心より喜びたい。
「「君のお気に入り」のギターは完璧にブライアン・メイを意識していますまだまだ甘いですが。いつかは完璧なオマージュを目指しています音色、ボイシング、フレージング。僕自身、誰かが誰かのオマージュをやっているのを聴いたとき、思わずニコってしちゃうのが好きですから聴いてもらった方に気づいてもらうのも、かなりの楽しみではあります(笑)。今回のアルバムを完成させて思ったのは、やっぱりまだ色んな部分が甘いなという事です。演奏や歌も勿論、こういった過去の音楽へのオマージュだったり、研究だったりが。これからは、よりソフトロックやジャズ等の研究をして自分の中に消化したいです。それでしっかりとしたアレンジ、コーラスワークを身につけた上で、更にポップで現代の人にも自然に伝わるモノを作るっていうのが、今後僕が目指すポップ・ミュージックです。今は既に制作意欲が高まってきているので、いろいろ研究しつつ出来るだけ早く新しい曲をリリースしたいとも思っています」
(ウチタカヒデ)
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