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2003年12月25日木曜日

Radio VANDA 第 45 回選曲リスト(2004/01/01)

Radio VANDA は、VANDA で紹介している素敵なポップ・ミュージックを実際にオンエアーするラジオ番組です。
Radio VANDA は、Sky PerfecTV! (スカパー) STAR digio の総合放送400ch.でオンエアーしています。

日時ですが 毎月第一木曜夜 22:00-23:00 1時間が本放送。
再放送は その後の日曜朝 10:00-11:00 (変更・特番で休止の可能性あり) です。

佐野が DJ をしながら、毎回他では聴けない貴重なレア音源を交えてお届けします。


特集My Favorite Soft Rock Part.4

1. Love So Fine ... Nina Shaw
2. Woven In My Soul ... Nina Shaw
3. Small Town Commotion ... Visions ※Prod.Gary Zekley
4. Questions 67+68 ... Third Wave ※
シングルのみ
5. Summer Girl ... Six Pents ※Fun & Games
の前身
6. Canada ... Sugar Shoppe ※
シングルのみ
7. Throughly Modern Millie ... Sugar Shoppe ※
シングルのみ
8. Silver Threads And Golden Needles ... Honey Ltd. ※
シングルのみ
9. More Than You Know ... Corky Hale ※Prod.Rod McBrien
10. You Have Turned Me Every Way But Loose ... Queen Anne's Lace ※
シングルのみ
11. Don't Say That You Love Me ... Rondells ※Cyrkle
の前身。Prod.Jerry Ross
12. Sun Shines On My Street ... Congregation
13. The Pleasure Of Your Company ... S.N.And The Ct's
14. Get Smart Girl ... Beverly Bremers ※Arr.Charlie Callelo
15. Don't Start Something You Can't Finish ... Coronados ※Prod.Jimmy Wisner
16. My Kind Of Music ... Collage ※Prod.Wes Farrell
17. Mother Love ... The Film-Flam Man ※
シングルのみ

 

2003年12月24日水曜日

Radio VANDA 第 44 回選曲リスト(2003/12/04)

Radio VANDA は、VANDA で紹介している素敵なポップ・ミュージックを実際にオンエアーするラジオ番組です。
Radio VANDA は、Sky PerfecTV! (スカパー) STAR digio の総合放送400ch.でオンエアーしています。

日時ですが 毎月第一木曜夜 22:00-23:00 1時間が本放送。
再放送は その後の日曜朝 10:00-11:00 (変更・特番で休止の可能性あり) です。

佐野が DJ をしながら、毎回他では聴けない貴重なレア音源を交えてお届けします。


特集Carl Wilson

1. Darlin'('69) ... Beach Boys ※from Live In London
2. Shut Down Part2('64) ... Beach Boys
3. God Only Knows('00) ... Beach Boys ※from
Farm Aid
4. I Can Hear Music('69) ... Beach Boys
5. Long Promised Road('71) ... Beach Boys
6. The Trader('73) ... Beach Boys
7. Heaven('81) ... Carl Wilson
8. Hold Me('81) ... Carl Wilson ※Live from the Bottomline
9. Chasin' The Sky('84) ... Beach Boys ※from OST
Up The Creek
10. Where I Belong('85) ... Beach Boys
11. Problem Child('90) ... Beach Boys ※Radio Edit Version
12. I Wish For You('00) ... Beckley-Lamm-Wilson
13. Surf's Up('71) ... Beach Boys

 


2003年12月19日金曜日

☆Various:『Night Time Music/The B.T.Puppy Story』(Rev-Ola/crrev38)☆Various:『In The Garden/The White Whale Story』(Rev-Ola/crrev44)



最近のRev-Olaは非常にいい仕事をしている。そのひとつが今回紹介するB.T.Puppy レコードとWhite Whaleレコードのオムニバスだ。
この両レーベルは、良質のポップ・ミュージックを送り出した、ポップ・ファンにとって知る人ぞ知るレーベルなのだ。
特にB.T.Puppyはマイナーな存在なので、このレーベルのオムニバスがリリースされるなんて、まったく驚かされた。実に素晴らしいチョイスである。
B.T.Puppyは、トーケンズが作ったレーベルで、トーケンズがバックアップして送り出したハプニングスがB.T.Puppyで大ヒットを連発したため、このレーベルのロゴを目にした人は多いと思う。
しかしハプニングス以外のレコードを見た人も逆に少ないはず。
この CD はハプニングス以外のB.T.Puppyの作品を集めた嬉しい内容になっている。
まずSundae Tarinのシングルからスタートする所からもう涙。
この "Love Affair Of The Happy People/Sing Sweet Barbara" のシングルは、今から8年前の単行本『Soft Rock A to Z』でも紹介したほど素晴らしいシングルなのだ。
ギターのリフが快調なアップ・テンポのA面と、ハーモニーが魅力のトーケンズ作のB面は実にいい組み合わせだった。
プロデュースもトーケンズ。トーケンズが制作から離れたもう1枚のシングルも入っているが、レベルはやはり落ちる。トーケンズが珍しく作曲の時と同じメンバーの名前を羅列したMargo,Margo,Medress & Siegel のクレジットでリリースしたシングル "Mister Snail" は、小品ながら実に心地いいコードとハーモニーを作ったソフトロックの快作。
トーケンズが作曲した曲では他に Canterbury Music Festival など5曲あるが、その中では Rock Gardenのソフトサイケナンバー "Perhaps The Joy Of Garden" が面白い。
そしてハプニングスのソングライター、ボブ・ミランダが書いた Beverly Warrenの "So Glad" が質の高いポップ・ナンバーに仕上がっていてこの曲にも注目だ。
次にホワイト・ホエールのオムニバスへ移ろう。
このレーベルはタートルズ、ニノ&エイプリル、クリーク、トリステ・ジャネロ、リズ・ダモンズ・オリエント・エクスプレスなど、優れたミュージシャンを多く輩出した中堅レーベルで、もともとレーベルへの評価が高い。しかし、レーベルの作品集が出るのはやはり初の試みだ。
そして内容は、実にポップ・ファンのツボを突いたもので二重丸。
タートルズを除く先のニノ&エイプリル(Nino&April)、トリステ・ジャネロ(Triste Janero)、リズ・ダモンズ・オリエント・エクスプレス(Liz Damon's Orient Express)、クリーク(Clique)はもちろん収録されているのが、みんな知っているはずの存在だからここではパス。
この CD の冒頭は、Jack Dalton & Gary Montgomeryのコンビのシングル" All At Once" 。
このコンビはソフトロック系のグループへの提供曲が多いので要注目のソングライターなのだが、この曲はタートルズ風のナンバー。
同じくこのコンビのグループ、Committeeの "If It Weren't For You" がベスト。ハーモニー、メロディ共に軽快で、ソフトロック・ファンは納得の出来だ。
ムーンのマシュウ・ムーアが作っていたMatthew Moore Plus Fourのシングルは、ちょっとくすんだサイケ・ナンバーで、これはこれでマシュウ・ムーアらしい。
ロジャー・ニコルス作品ではDobie Grayの "Do You Really Have A Heart" と Freddie Allenの "We've Only Just Begun" が収録されたが、どちらも曲の良さを生かしながらサウンドと歌に力強さがあり、とてもいいカバーだった。
カート・ベッチャー・プロデュースのシングル、Warren Zevon のワークスであるLyme & Cybelleのシングルは両面とも入り、これでカート・ファンはWarren Zevon の CD を入手する必要は無くなった。
そしてブライアン・ウィルソンが参加したレア盤、Laughing Gravyの "Vegetables" も収録された。
最もこのヴァージョン、ベース音のレベルは小さいし、ジャン&ディーンのヴァージョンに近いミックスだった。(佐野)
In the Garden: White Whale Story  Phantom Jukebox, Vol. 1


2003年12月2日火曜日

☆Tokens:『Intercourse』(ディスクユニオン/DR0002)

今、トーケンズを「 "ライオンは寝ている" のオールディーズ・グループ」という認識でしか見られないポップ・ミュージック・ファンは少なくなっているはずだ。
しかししばらく前まではほとんどの音楽ファンはこういう認識だったように思う。
ワーナーから『Portrait Of My Love』がリリースされ、ユニヴァーサルからも『Both Sides Now』と、トーケンズが洗練されたポップ・グループとしての実力を発揮した67年以降のアルバムがCD化されて、その巨大な氷河のような固定化された認識が溶けていった訳だが、何と言ってもその氷解の決定盤は、この未発表に終わった68年の『Intercourse』だった。
当時のワーナーは、コマーシャル性がないといったような理由でこのアルバムを発売拒否した訳だが、曲間をアカペラなどのジングルでつなぎ、美しいメロディ、考え抜かれたアレンジ、次々変わる巧みな展開、ソフト・ロックからヘヴィなR&Bまで、様々な表情を持つ曲が凝縮したプログレッシヴなポップ・アルバムが『Intercourse』だった。
まさにロック・レヴォリューションの時代にふさわしい傑作だったにもかかわらず、当時のワーナーのエクゼクティヴには理解が出来なかったし、トーケンズにそんな役割を望んでいなかった。
このアルバム、95年にトーケンズ自身の会社のB.T.Puppy よりひっそりとリリースされ、私はすぐに『ソフト・ロックA to Z』の名盤選に選んだのだが、このリリース以降、リスナーのトーケンズへの認識は大きく変わっていった。
ただ、自主レーベルからのリリースだったため、すぐに入手困難になり、以降新しいリスナーは聴く機会を持てなかっただけに、今回の再リリースは朗報である。
そして今回はメンバーのコメントが1曲ごとに付いているなど、前のリリースより充実している。
ポップ・ミュージック・ファンのマスト・バイ・アイテムである。(佐野)
INTERCOURSE -expanded edition- mono mix+stereo mix+bonus tracks


2003年11月21日金曜日

☆Beatles:『Let It Be…Naked』(EMI/0724359571324)

ビートルズのこのアルバム、もうあらゆるメディアで紹介し尽くされているので、別にここで紹介するまでもないと思ったが、何と言っても私の永遠のNo.1、ビートルズなので、やはり書かずにはいられない。
ところでみなさん、もちろんUK盤など CCCD でないものを買いましたね?日本盤やEU盤はダメ、1000円以上高くて CCCD なんて悪夢でしかない。
聴いた感想は、もう感動の一語、くっきりとヴォーカルが浮き出たミックスでこのアルバムを聴くともう数え切れないほど聴いたアルバムなのに、鳥肌が立ってしまった。
ビートルズは本当に歌が上手い。当たり前のことだが、このアルバムを聴くと、いかにビートルズが他のバンドより桁が上なのか、改めて分かるはず。
さらにそれぞれの楽器がここまでクリアーに聞こえるなんて、今回のミキシングの凄さを改めて感じた。
これでは別の曲だよ。
ビリー・プレストンが入っているとは言え、ノー・オーヴァーダビングの4ピースバンドのカッコ良さ、ビートルズが最高のロック・グループだということを改めて痛感したしだい。
ただ、私がレコード・コレクターズ誌で書いたように、今になってみんなでフィル・スペクターを非難するのはおかしい。
当時、ジョン、ジョージ、リンゴの3人はスペクターのミックスをベタほめしていたのだ。
どうしようもないクズをで蘇らせてくれたと言ったのはジョン。
そしてこのアルバムは大ヒットしたし、シングルも2枚1位になった。商業的成功を収め、メンバーの3/4が高く評価したのは、厳然たる事実。
確かにこのNakedのミックスを聴けば、こちらの方がずっと魅力的だし、私も大好きだが、30年以上前のミックスと比べることはフェアじゃない。
スペクターはビートルズの解散が織り込み済みだったため、「去り行くビートルズのアルバムは感傷的なものでなくてはならない」と、意図を持ってオーバーダビングをした。
スペクターはその当時の与えられた仕事を、偉大なビートルズのために、せいいっぱいやったのだ。
あまりにスペクターはヒール役なので、一石を投じたくなったのは私だけではあるまい。
やはり外様はつらい。
それなら、ジョージ・マーティンのプロデュースのものも最新のミックスを施してみれば、と思うが、そんなことは永遠にしないだろう。
なお、 セッション時の生々しいトークを切り取って来たボーナス・ディスクの『Fly On The Wall』はそのやりとりだけを聴くだけで夢中なってしまうはず。ただつなぎのセッションの模様があまりにも短く編集されているのは、収録時間の関係で仕方ないとは言え、ちょっと残念だった。(佐野)

レット・イット・ビー・ネイキッド

2003年11月14日金曜日

☆朱里エイコ:『パーティー』(ウルトラヴァイヴ/CDSOL1081)



筆者が今、最もその紹介に力を入れているのが冨田勲だが、冨田の作品の中でも最も入手しにくいアルバムのひとつがめでたくリイシューされた。内容についてはVANDA29号で詳しく記述したが、作曲:冨田勲、作詞:八坂裕子のコンビで、アルバム1枚がひとつのストーリーとして組み立てられた73年リリースの本作は、同じコンビで同じコンセプトで71年にリリースされた西郷輝彦の『坂道の教会』と表裏一体の、対の作品である。
後者ではストーリーは西郷のモノローグで語られていたが、本作では、このアルバムのプロデューサーの栗山章が連れてきたフォークシンガーの男性が、曲間でピアノをバックに短く歌って進行を告げていく。そう、このアルバムはパーティーの一夜の出来事が描かれているので、時間の進行はこの無名の男性ヴォーカルが告げていく。曲は憂いを帯びたレトロな雰囲気を持つものが多く、朱里エイコの卓抜したヴォーカルと、冨田の広がりのあるオーケストレーションが見事に一体となり、魅力的な作品になった。
このリイシューを担当した濱田高志氏は、冨田勲自身にもインタビューしており、ここにも注目だ。まずは黙って購入すべき。大好きな『坂道の教会』のリイシューも切望したい。(佐野)
「朱里エイコ パーティー」の画像検索結果




☆Who:『The Vegas Job』(Video Film Express/DVDL001D) DVD

イギリスでリリースされたこのDVD(PAL)は、ジョン・エントウィッスルが存命の1999年の、ラスヴェガスで行われたピート・タウンゼンド、ロジャー・ダルトリーの3人にザック・スターキーをドラムに迎えた時のライブの模様である。
ロジャーの声の張りはやや衰えたものの、ピートのギターとジョンのベースの迫力は凄まじく、特に“My Wife"でのジョンの神業のようなベース・ランニングを見ると、その損失の大きさを改めて痛感させられるだろう。
まさにギターなのだ。ギターのようにベースがメロディを奏でるから、ピートは自由に、得意のコード・カッティングで切り込んでいくことができる。
そのバランスがフーでしかなし得ないサウンドの魅力だった。
大音量でエレキギターを弾くピートだが、かつて難聴で悩まされ、ヘッドホーンを付けてアコースティック・ギターを弾いてきた過去から、劇的に回復しているようだ。
このDVDを見て、ピートもこれだけ健在なのに、ジョンがいなくなってしまって、フーの勇姿は結局日本で見ることは出来なかったのかと、残念な思いにも包まれた。
曲はおなじみのナンバーばかり14曲、自家薬籠中の出来だ。フーのライブはいつ見てもカッコいい。(佐野)

The Who : The Vegas Job - Live In Vegas (1999)

☆Who:『Tommy (Deluxe Edition) 』(Geffin/B0001386-36)



フーの『デラックス・エディション』シリーズもいよいよ4作目で『Tommy』が登場した。
『Who's Next』と並ぶフーの最高傑作であり、ロック史上でも屈指の名盤である本作について、聴いたことがないなどというリスナーはいないだろうから、『Tommy』の部分は紹介しない。
紹介するのは、ディスク2のボーナス・トラックだ。
1曲目の "I Was" は曲とは言えないSEのようなもの。
"Christmas" 、 "Tommy Can You Hear Me" 、 "Welcome" 、 "Tommy's Holiday Camp" はまだ歌が入っていないインスト。
"Cousin Kevin Model Child" は、完全な未発表曲で、典型的なブルース進行の曲。
リフに載せたヘヴィな " "Trying To Get Through" も未発表曲で、どちらもピート・タウンゼンドにしては単純な曲だったので、没になったのだろう。
笑い声から始まる "Sally Simpson" はピアノがまだ入っていないデモで、 "Miss Simpson" はピアノが入ったより進んだテイク。
"We're Not Gonna Take It" はデモだが、もう完成に近いテイクで楽しめる。ただし "See Me Feel Me" の部分はない。
問題はスタジオ・ヴァージョンの "Young Man Blues" だ。『Odds & Sods』のボーナス・トラックとは違うヴァージョンで、当時のコンピ LP のみ収録の『The House That Track Built』のオリジナル・ヴァージョンがやっと入ったと思われたが、やたら音質がクリアーなため、 LP のようなヘヴィさがなく、同じテイクには誰も思わないだろう。
後半はステレオのデモで、 "I's A Boy" 、 "Amazing Journey" 、 "Christmas" 、 "Do You Think It's Alright" 、 "Pinball Wizard" の5曲が登場する。基本のアレンジは既に出来上がっているが、まだバッキングはデモ。そのため、ロジャーのヴォーカルも軽い。ただしバッキングの完成度が高いので、まるで別テイクのように聴けた。
 なお、本作はなぜか、73年までのイギリス盤 LP に収録されていた、ロジャーのヴォーカルが1オクターヴ低い "Eyesight To The Blind" が、 ディスク2に収録されなかった。(佐野)

Tommy (Deluxe Edition)



2003年11月11日火曜日

Ron Isley/Burt Bacharach:『Here I Am:Ron Isley Sings Burt Bacharach』 (Dreamworks/2003-11-11)


 20世紀のポピュラー・ミュージックを語る上で決して避けられない偉大なメロディー・メーカーであるバート・バカラックと、60年代初頭(ビートルズ「Twist and Shout」のオリジナルも彼ら)から80年代のソウル・シーンにおいて、一際ユニークなスタンスで活躍したアイズリー・ブラザーズの顔であるロナルド・アイズリーがコラボレートした本作を紹介しよう。 

 近年バカラックがフィールドの異なる才人とコラボレートした作品として、98年のエルヴィス・コステロとの『Painted from Memory』が挙げられるが、共同の新作でお互いががっぷり四つに組んだ意欲作といえるものだった。(バカラック単独で作曲された曲もあったらしい)
 一方本作は表向きはコンポーザー兼アレンジャーとシンガーのコラボレートの体裁をしているものの、嘗てのディオンヌ・ワーウィックとの"水は方円の器に随う"といった関係を成している訳ではない。何といってもロナルドの真骨頂とされる歌唱法が本作の純然たる魅力であり、既に完成されている彼のシンガーとしての可能性をより引き出し、バカラック・クラシックに新たな息吹を当てようとしているのだ。つまりその構造関係は異なれ、『Painted from Memory』で結晶させた様な有機的コラボレートを目指しているのである。

 レコーディングは嘗てフランク・シナトラやナット・キング・コールの名曲を生んだ、ハリウッドのキャピトル・スタジオで行われ、殆どの曲はリズム・セクションとオーケストラを同時録音したらしい。

   

 そんな本作の中でも特出すべき曲として、B.J. トーマスで知られる「Raindrops Keep Fallin' on My Head」を挙げたい。 原曲の楽観的な三連リズムからは予想不可能な、ゴスペル・フィールに満ち溢れたロナルド節が崇高な余韻を残すばかりだ。
 アイズリー全盛期にはキャロル・キングからジェイムス・テイラー、シールズ&クロフツ等の曲をディープ・メロウな解釈でカバーしていたが、30年を経ても変わらぬ姿勢にはただただ脱帽する。

(テキスト:ウチタカヒデ







2003年11月8日土曜日

☆Brian Wilson:『Brian Wilson Presents Pet Sounds Live In London』(Sanctuary/06076-88366-9) DVD



2002年1月27-30 と6月9-10日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われた『Pet Sounds Tour』の様子を収録した DVD である。ロック史上最高のアルバムである『ペット・サウンズ』の再現という、このツアーのコンセプトを体言するため、 DVD にはアルバム全曲以外には、アンコールの "Good Vibrations" 1曲しか収められていない。つまり66年にリリースした曲しか入っていない訳で、通して見ると、実に的確な編集と言える。 コンサートの模様は、日本で会場に足を運ばれた方も多いと思うので、もう脳裏に焼きついていることだろう。あの『ペット・サウンズ』が、本当に再現できているのだ。 まず、バッキング・メンバーの完璧な演奏とハーモニーに驚かされるだろう。 ビーチ・ボーイズのツアー・メンバーではこうはいかない。ワンダーミンツやジェフリー・フォスケットらの力の賜物だ。そして肝心なブライアン。最初のツアーでは不安定だったブライアンの音程が、この2回目のツアーでは見事に復活し、ブライアンは全部のリード・パートを歌い通す。  何しろ、マイクやカールのパートまですべてのリード・パートを歌うのだ。 特に難しい "Don't Talk"を歌い通した時は、会場はスタンディング・オベーションの嵐。 会場のファンは、何を評価すればいいのか分かっている本当のファンばかりだ。高度な "I Just Wasn't Made For These Times"が再現された時は、そのまま体をサウンドの中に投げ出してしまったような幸せな感覚に包まれた。その当時は売り上げが伸びず、その後も風変わりなアルバムとして長く置かれたままだった『ペット・サウンズ』。Mojo誌でロック史上最高のアルバムに選ばれたように、90年代に入ってから『ペット・サウンズ』は伝説になった。 30年以上経って、ようやく時代が『ペット・サウンズ』に追いついたのである。(佐野)

2003年10月29日水曜日

☆「Muscle Beach Party/Ski Party」(MGM/1004484) DVD



2本の映画が1枚になった2イン1DVD。 この内、「Muscle Beach Party」はフランキー・アヴァロン&アネット主演の青春コメディだが、このDVDを紹介するのは、ブライアン・ウィルソンがこの映画のために作曲・バックコーラスなどで参加していたからだ。この映画の作曲の依頼を受けたゲイリー・アッシャーは、ブライアンに手伝ってもらえるかを打診、ブライアンは快諾し、ブライアン、ゲイリー、ロジャー・クリスチャンの3人で、63年10月から11月の間に6曲を共作した。  "Surfer's Holiday" , "My First Love" , "Muscle Beach Party" はハリウッドのウェスタンのスタジオ3 "Running Wild" , "Muscle Bustle" はハリウッドのサンセット・スタジオで録音され、ブライアンはピアノとコーラスを担当し、バックトラックを完成している。 ここに出演者のリード・ヴォーカルを加えたものが映画で使われている。 これらのトラックは残念ながらレコードでは一切使われていないため、映画のみの貴重なトラックと言えよう。では映画のランニングタイムと、その6曲の登場シーンを紹介しよう。(2分)映画の冒頭で、海へ向かう車の上でフランキー・アヴァロン、アネットがデュエットで "Surfer's Holiday" を歌い、ディック・デイルも車上でギターソロを披露してくれる。 ブライアンらのバックコーラスがよく聞こえる。 (52分)二人が向かったクラブで、ディック・デイル&ザ・デル・トーンが "My First Love" を歌う。すぐに台詞が被ってきてしまうのが残念。 (54分)続いて同じくディック・デイル&ザ・デル・トーンズで"Muscle Beach Party" が登場。 いかにもこの時代のブライアンが書きそうな曲で、自家薬籠中の出来だが、この曲も台詞が多い。 (59分)フランキーがアネットに対して恋のさや当てを行うシーンで、フランキーが踊りながら "Running Wild" を歌っている。アップテンポの快調なロック・ナンバー。(67分)パーティーで、ディック・デイルとドナ・ローレンが"Muscle Bustle" をデュエットする。 楽しい曲で、歌もコーラスもよく聴こえる。(69分)キャンプファイヤーのシーンで、みんながディック・デイルを囲んでアカペラで"Surfin' Woodie" を歌う。(佐野)

☆Neil Sedaka『Oh Carol』(Bear Family/BCD16535HK)

2003年のリイシュー大賞は、ベア・ファミリーからリリースされたこのニール・セダカの8枚組 CD ボックスで決定だ。
そう断言できるほどの究極の仕様であり、日本のレコード会社では実現不可能な、不滅の仕事が私の手元にある。
ここ数年の中でも最高のリイシューだろう。ニール・セダカ・ファンはもとより、全てのポップス・ファンは必ず入手すべきボックスだ。ただしこのボックスは私が愛してやまない70年代のワークスではなく、60年代、それも1956年から66年までのRCA時代の全音源集である。
しかし素晴らしい内容の曲が多く、ニールのソングライティングのセンスの良さに驚嘆させられっぱなしで、ここというポイントでの華麗なメロディの展開は、ポップスの醍醐味を十二分に味わせてくれた。
まずディスク1からディスク4までは、アメリカでリリースされた、英語で歌われた通常のディスコグラフィーに掲載される全音源+未発表音源集。
特にディスク4は64年から66年のRCA後期の作品集で、ソフト・ロック・タッチの、オールディーズを脱却した曲が並び、個人的にはこのボックスのハイライトだ。
フィリップス時代のフォー・シーズンズを意識した "Sunny"からスタート、モータウン風の "I Hope He Breaks Your Heart"、ボサノヴァを使った "Blue Boy"、フラワーポップの傑作 "The Answer Lies Within"、ラテンビートを導入した "We Can Make It If We Try"とニールは時代の風を読みながら様々なタイプの曲を作り出していた。
中には後の69年のアルバム『Sound Of Sedaka』に収録された流麗な "Cellophane Disguise"の、未発表の66年ヴァージョンも聴くことができ、これは嬉しい収穫。
そしてディスク5から8までは、各国で出された、いわば「外国語ヴァージョン集」。イタリア語で歌われたものが圧倒的に多いが、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、ヘブライ語、そして日本語の曲も、未発表も含め全曲網羅してある。凄いの一語。
英語ヴァージョンでは聴けない曲もあるし、特に驚いたのは日本語の未発表ヴァージョンだった。
それは "High On The Mountain"で、ニールは "涙の小径(=The World Through The Tear)"と同じく達者な発音で歌っていた。ニールの日本語の発音は、シカゴの日本語に次ぐ、トップ・クラスの実力があるね。
特に "涙の小径"は、曲自体の華麗な展開もあり、私の愛聴曲。
ディスク8は映画で使われた初 CD 化の曲が6曲あり、他にもTVショーのものや、オーケストラヴァージョン集から、当時の来日公演へのメッセージまでも収録された、コレクタブルなものだ。
CD 8枚になんと216曲、220トラックもある脱帽の仕様だ。
アートワークも、ハードカバーのLPサイズのオールカラーのブックレットが119P、フォトだけでなく、各国のジャケットの数も多いし、レコーディング・データも完備されていてほぼ完璧。
CD の曲順に合わせたクレジットがどこかに載っていれば文句のつけようがなかったが…。
ともかく、ベア・ファミリーの実力を思い知らされたボックス・セットだった。(佐野)
oh carol-the complete

2003年10月28日火曜日

☆Curt Boettcher:『Another Time-Collections』(Sound City/SCN9006)

サウンド・シティからリリースされたミレニウム関連のCDはどれも既発のCDの焼き直しで、必要ないものばかりだったが、このCDだけ「目玉」が入っていた。
それはカートのデモの "Along Comes Mary" だ。
アソシエイションのプロデューサーだったカート・ベッチャーは、タンディン・アルマーの書いたこの曲をシングルとしてリリースし、66年に全米7位と、最初の成功を収めているが、これはそのデモ。
タンディン・アルマーがピアノ、ゲイリー・アレクサンダーがギターで参加している65年に録音されたこのデモは、アセテートからの盤起こし。
音は悪いが実に貴重なヴァージョンで、この難しい曲を、アソシエイションに分かるようにカートがガイド・ヴォーカルを入れている。
デモなのでまだハーモニーも付けられていない。
カートの "Along Comes Mary" と言えば、Big Mouthなるレーベルからシングルが出ていると書かれてはいたものの、現物が出て来た事がないので、その存在自体、疑問が出ていたが、もしかするともしかして?(佐野)
Another Time

2003年10月25日土曜日

Radio VANDA 第 43 回選曲リスト(2003/11/06)

Radio VANDA は、VANDA で紹介している素敵なポップ・ミュージックを実際にオンエアーするラジオ番組です。

Radio VANDA は、Sky PerfecTV! (スカパー) STAR digio の総合放送400ch.でオンエアーしています。

日時ですが 毎月第一木曜夜 22:00-23:00 1時間が本放送。
再放送は その後の日曜朝 10:00-11:00 (変更・特番で休止の可能性あり) です。

佐野が DJ をしながら、毎回他では聴けない貴重なレア音源を交えてお届けします。


特集Mike Love

1. Karen('64) ... Beach Boys
2. Almost Summer[KRTH 101 Version]('78) ... Celebration
3. Brian's Back('78) ... Mike Love(and Carl Wilson)
4. Looking Back With Love('81) ... Mike Love
5. Lightning Strikes('83) ... Mike & Dean ※
ナレーションなし。
6. California Dreamin'[Alternate Version]('83) ... Beach Boys ※
Rock'n' Roll City』収録.
7. Jingle Bell Rock('83) ... Mike Love Of The Beach Boys
8. (Bop Bop)On The Beach('84) ... The Flirts and Jan & Dean ※OST
The Moments Of Truth』収録

9. Happy Birthday America('86) ... Mike Love And Friends ※
Forth Of July』収録
10. Sumahama('79) ... Beach Boys ※
Japan Jam』より。ほとんど日本語。
11. Summer In Paradise('92) ... Beach Boys ※
ロジャー・マッギンを入れての再録音UKヴァージョン。
12. Be True To Your Bud('83) ... Mike & Dean ※Budwiser
のCM用替え歌
13. Hyatt Regency Waikiki CM('82) ... Mike Love ※Beach Boys
もかくやと思わせる素晴らしいCM
14. Hyatt Regency Maui CM('82) ... Mike Love ※
こちらはマウイ編

15. Summertime Music('82) ... Mike Love
16. First Love('78) ... Mike Love ※78
年の幻のソロ『First Love』収録曲。

 

2003年10月24日金曜日

モダーン今夜: 『赤い夜の足音』(MOTEL BLEU MBRD-004)

 

"モダーン今夜" は、リーダーでヴォーカリストのマキが大学在学中に結成したバンドを母胎に発展した、11人編成の非常にユニークなビッグ・バンドだ。
ホーンセクション3名にパーカッショニスト2名、それにヴァイオリニストまでを抱える大所帯である。 本作『赤い夜の足音』は、そんな個性溢れるバンドの記念すべきファースト・ミニ・アルバムだ。 メイン・ソングライターのマキの描く世界は、泡沫のメルヘンがシャボン玉の様に浮かんでは消え、浮かんでは消え、微かな飛沫からはペーソス溢れる人生模様が見え隠れする実にピュアなもの。 

冒頭のしなやかなブラジリアン・グルーヴ「星屑サンバ」は、夢現になるトキメキを「ああ君にとどけ このメロディ」というフックのラインと、メンバー全員によるコーダのコーラスでさらに高揚させる感動的な曲だ。 「うたかた花電車」は60年代のR&Bからブラス・ロックを経由した昭和歌謡(ピン・キラ度高し)というべきサウンドに、場末のストリッパーの悲恋を赤裸に描いた異色作。 この曲のみキーボーディストのタムが単独で作曲を担当しているのだが、その技巧的センスはマキ共々一目置く存在といえる。 「涙の雨」はオールドタイミーなビッグ・バンド・サウンド。 殆どのメンバーがジャズ・プレイヤーとしての素養を持っているので、そのスインギングさは中途半端に終わらず聴き応えのあるものだ。 この曲でも悲恋が描かれているのだが、主人公のひたむきな生き様には心打たれてしまう。 聴き終わった後には雲一つない爽快感が残り、筆者が最も気に入った曲でもある。

アルバムは全5曲であるが、曲毎にサウンドと歌詞の完成度が高いので、曲数の少なさを全く感じさせない。 寧ろこの5曲に絞った事で成功したケースといえよう。 そして何より本作の素晴らしさは、潜在的に大正~昭和期に培われた、日本特有の折衷感覚と大衆性が脈々と受け継がれている懐の深さなのだ。 世代を越えて聴き込まれるであろう優良盤である事は間違いない。
(ウチタカヒデ)

☆Various:『The Old Grey Whistle Test Volume2』(BBC/1279) DVD

イギリスBBCの70年代の人気音楽番組、『オールド・グレイ・ウィッスル・テスト』のDVD 第2弾である。
ホール&オーツ、ペット・ショップ・ボーイズのような大物から、ロギンス&メッシーナやアージェントのようなマニアが喜ぶグループまで、多数が登場するが、基本的に70年代のアーティストなので、ここでは60年代のVANDA向けの大物だけを紹介しよう。
まずはそのレア度で群を抜くのが、ブルース・ジョンストンのソロ "Disney Girls" である。これは75年に収録されたブルースのピアノ弾き語りで、ブルースがこの名曲を表情豊かに歌う。
アドリブのメロディも多い。ブルースがビーチボーイズを離れていた時期なので、ソロなのだが、こんなものが見られるとは思わなかった。(映像的には、ブルースの後ろで首をうだなてれ目をつぶり、ピクリとも動かないヒゲのオヤジがちょっと怖い。マネキンか?)
もう1曲はフーの "Relay" だ。73年の録音なので、まだキース・ムーンも人を驚かすような表情でドラムを叩いているし、メンバー全員パワフルで、画面からエネルギーが伝わってくるようだ。
フーのカッコよさには惚れ惚れ。
音は別録だが、フェイド・アウト部分が1分以上も長く、これも嬉しいの一語。(佐野)


2003年10月13日月曜日

☆Who:『The Kids Are Alright:Special Edition』(Pioneer/12103) DVD

 数あるロック・グループのドキュメンタリーでも、フーの『The Kids Are Alright』ほど、ロックの本質をついているものはない。全てのロック映像の中でもベスト1が本作と断言できる、名作中の名作。
このフィルム自体は以前 LD になり、 DVD でもリリースされたので、ここでは紹介しない。まだ持っていない人がいたとしたら必ず買うべき必須アイテムである。
これから紹介するのは、私と同じ、既にこのフィルムを持っている人が対象だ。
今回の DVD は2種類出ており、この「Special Edtion」が必要である。
アマゾンでは「Ws Spec Sub Dol Dts」と書かれている定価 $29.98 のものがダブル・ディスクで、映画以外のおまけの1枚が付いているのだ。
いくつかのメニューがあるが、なんといってもドイツのTVでの映画のハイライトだった "Won't Get Fooled Again" が6アングル、 "Baba O'Riley" が4アングルで見ることができる。
つまりこの2曲はこれだけの台数のカメラによって撮影され、それを映画のように編集した訳だが、それぞれのカメラで曲全部を見ることができるので、何倍も楽しめ新鮮だ。
また同じフィルムでジョン・エントウィッスルの "Baba O'Riley" でのベース・プレイを、ジョンの固定カメラで、ベース音のみを拾った「The Ox」というメニューもあるので必見。
ロック界で最高のベース・プレイヤーであるジョンの神業のようなベース・ランニングを堪能できる。
あと、映画で後半しか入っていなかった「ロックンロール・サーカス」での "A Quick One,While He's Away" が、完全版になっていたことも付け加えておこう。(佐野)

Kids Are Alright [DVD] [Import]

☆Hollies:『The Long Road Home 1963-2003』(EMI/07243-584856-2-2)

ホリーズ結成40周年記念でリリースされたCD6枚組のこのボックス・セット、これはコアなファン向けの内容だった。
曲目リストを見るとおや、 "Bus Stop"がないぞ、 "I Can't Let Go"がない、 "Look Through Any Wondow"も "I'm Alive"も "Stop Stop Stop"も、ヒット曲がほとんど入っていない。
これはまいった。
それでいてレアリティーズ的な内容なのかというと、レア・トラックは一部が入っただけで、様々なコンピに入っていたそれらのレア・トラックはそのまま残され、「在庫一掃」にならない。
なんとも不可解な内容で、どこにターゲットが向いているのか分からない選曲だった。
しかしブックレットには各国のシングル、EPジャケットがカラーで並べられ、貴重な写真も多く、またセッション日順のディスコグラフィーがまとめられるなど十分に手がかかっていて、アートワークはコアなファンも満足する出来。
さて、VANDAらしく60年代の音源だけで話を進めると、未発表のものは64年のキンクスばりのビート・ナンバー"She Said Yeah"、65年に録音されたデモ風の "So Lonely"の別テイクと、哀調を帯びたホリーズらしいビートナンバーの "Bring Back Your Love To Me"と "Listen Hear To Me"の3曲、そして68年録音の "A Taste Of Honey"の別テイクはビートがよりオリジナルに近くホーンも入っていた。
そしてライブだ。
66年のストックホルムでのライブは "Reach Out I'll Be There"と "Too Much Monkey Business" , "Stop Stop Stop"の3 曲。
ビートは効いているし、ヴォーカルはシャウトするし、さすがライブ、カッコいいなー。(佐野)


2003年10月10日金曜日

☆October Country:『October Country』(Rev-Ola/51)

先日Radio VANDAで特集したばかりの若き鬼才マイケル・ロイドは、マイク・カーブに呼ばれ69年に僅か20歳でMGMの副社長に就任、オズモンズやショーン・キャシディ、レイフ・ギャレット、ヘレン・レディなどのプロデュースを手掛け、80年の時点で獲得したゴールド&プラチナムディスクが56枚という驚異的な成功を成し遂げた。
そんなマイケル・ロイドは、自らもグループを作ったりソロで活動したりと、アーティストとしての活動も平行しており、実に興味深いミュージシャンなのだが、68年にはこのオクトーバー・カントリーと、スモークの両方のアルバムで、プロデュースのみならず作曲もみな手掛けるという多芸ぶりをみせてくれた。
どちらも「ソフトロックA to Z」で紹介しているのでその存在はご存じの方も多いと思うが、きちんとしたグループが存在していたのが、オクトーバー・カントリーだった。
歌は決してうまいとは言えないが、マイケル・ロイドの曲作りのセンスで、ソフト・ロックのアルバムに仕上がった。
牧歌的な "Good To Be Around" 、弾むようなベース・ランニングが耳に残る "I Wish I Was A Fire" 、サビの解放感が聴きもの "Painted Sky" もいいが、やはりシングルにもなった "October Country" , "Cowboys And Indians" の2曲がハイライト。
マイナー調のバブルガム・ソングなのだが、歯切れがよく、一気に聴かせてしまう。
CD にはボーナス・トラックにシングルのみの "Baby What I Mean" (スパイラル・ステアケースでお馴染みの曲)も収録された。ガレージっぽい仕上がりだ。
なおこの曲は17曲目であり、12曲目となっている CD のクレジットは誤り。
ボーナス・トラックの12曲目から17曲目の表記が、バック・インレイ共々、曲順を間違っている。(佐野)





2003年10月3日金曜日

☆Free Design:『Kites Are Fun』(Light In The Attic/LITA004 )☆『Heaven/Earth』(Light In The Attic/LITA005 )



 日本ではテイチクと徳間ジャパンでオリジナルの7枚のアルバムが全てリイシューされ、一段落ついた感があったフリー・デザイン。
海外ではSietaやCherry Redからリリースされるものの、コンピレーション盤だけで、オリジナル盤のリイシューには至らないのかなと思っていたら、遂にLight In The Atticというレーベルからオリジナル盤のリイシューがスタートした。
第一弾はこの2枚である。CDとLPの2種類でリリースされ、CDにはボーナス・トラックが収められた。
まずはその注目のボーナス・トラックを紹介しよう。
『Kites Are Fun』には "Kites Are Fun" と "The Proper Ornaments" のモノ・シングル・ヴァージョン。
『Heaven/Earth』にはメンバーのエレン・デドリックのソロ・シングル "Nature Boy" , "Settlement Boy" と、トニー・モトーラのプロジェクト3でのソロ・アルバム『Warm,Wild & Wonderful』で、フリー・デザインがコーラスを担当した6曲全てが収録された。
中でもエレンのソロ・シングルはその存在も知らなかった大発見で、 "Nature Boy" はヴォーカルと金管楽器の音が複雑なハーモニーとしてからむ、クリス・デドリックらしい曲。
キャッチーなメロディで始まる "Settlement Boy" は、スローに展開する間奏以降との対比がフリー・デザインらしい。
そしてトニー・モトーラのソロ・アルバムだが、これは彼がギタリストなので、基本的にインストゥルメンタル。
"Do You Know The Way To San Jose" , "With A Little Help From My Friends" , "Scarborough Fair" , "Kites Are Fun" , "Goin' Out Of My Head" , "I Found Love" の6曲にはバック・コーラスが付けられ、ここをフリー・デザインが担当した訳だが、さりげないようで、高度なコーラス・ワークを聴かせてくれた。
この2枚のCDはアート・ワークも良く、初めて見る写真に目を奪われる。
スタジオでのメンバー、ライブ・ステージでのメンバーなど、初めて見るものが多い。
解説もしっかりしているし、PPMのPeter Yarrowのコメントを取るなど、文章も充実している。
来年には2枚目と4枚目のアルバムのリリースが予定されており、今から楽しみに待とう。(佐野)

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2003年9月28日日曜日

roly poly rag bear:『ryan's favorite』(abcdefg*record a-g013)


 roly poly rag bear(ローリーポリーラグベア)は2000年にデビューした、男女二人のギターポップ、ソフトロック・ユニット。 ヴォーカルの田之上美穂子と、ソングライティングを手掛けコーラスと全ての演奏を担当する五十嵐誠からなる。

 本作『ryan's favorite』は彼らの3枚目のミニ・アルバム。 ソングライターの五十嵐は嘗てのソフトロックやポップスへの造詣が深いとみられ、「yellow balloon」「flying machine」「all summer long」と、実にストレートな曲のタイトルからもそれがうかがえて親しみを感じる。
 全体的にミッド・テンポでシンプルな構成の曲が殆どで、聴き飽きない日本語歌詞のソフト・サウンディング・ミュージックを展開しているのだが、現代のツールの使用も控えめで、曲自体の素材を殺すことなく、余計に気張ってないスタンスにも好感が持てるのだ。

 何気ないオーソドックスな転調が心に響く、「that summer feeling」(エンディングがビートルズっぽい)。五十嵐がリードをとる「orange colored sky」も丁寧に曲を紡いでいて安心して聴けるが、筆者が最も注目して聴き続けたのは、「the melody goes on」という曲。
 この曲は昨年、『send my badge! -bluebadge compilation CD vol.1』というインディーズのギタポ系コンピレーションに収録されたらしいが、本作のラスト・ナンバーとして相応しい出来である。特別に歌唱力や演奏テクニックが優れているいという訳ではなく、ロー・バジェッドなプロダクションで作られた一曲に過ぎないのだが、シャッフルで進んでいく、この無垢で時代性に媚びないサウンドがやけに愛おしい。チープでウォームなシンセ・ブラスのリフ、さり気ないピアノのオブリガード、サビの多重録音によるコーラスのリフレイン(歌詞のラインも実に素晴らしい)等、全てに愛がつまっているのだ。
 嘗ての国営放送の夕方感覚を彷彿させたり、どことなく懐かしく、誰もがほっとけないサムシングが潜んでいる。青春の輝きや慈愛に満ちた歌詞の描写も影響しているだろう。 とにかく、多くのポップス愛好家に聴いて欲しい、とっておきの隠れた名曲なのである。

(テキスト:ウチタカヒデ




2003年9月27日土曜日

ゲントウキ : 『いつものように』(TEENAGE SYMPHONY MUCT-1006)


 ゲントウキは、多くの人の琴線に触れ、技巧的ソングライティングに優れた2曲のシングル、「鈍色の季節」と「素敵な、あの人。」でメジャー・シーンに躍り出た新鋭バンドだ。

 以前、この枠で「素敵な、あの人。」を取り上げた時もその素晴らしさを紹介したのだが、今回のメジャー・デビュー・アルバム『いつものように』で強固な確信となった。 彼らの魅力は楽曲のクオリティの高さである事は言うまでもないが、ソングライターでギタリストの田中潤を中心にして、ベースの伊藤健太とドラムスの笹井享介の堅実でタイトなバンド・サウンドが、それを引き出しているのを今回改めて感じる事ができた。
嘗てのロック、ポップスを通過して、普遍的に続くサウンド・スタイルを引き継ぐ、真摯な姿勢には感服に値するのだが、これは、自分達がクリエイトする曲が最も引き立つフォーマットを既に体現している事に他ならない。
 これは、ポピュラー・ミュージックをやる上で非常に重要なファクターである。

 一曲一曲に人生があり、ドラマがある。 それを雄弁に語る歌唱力と、表現する演奏能力がここに在るのみ。 多くを語る必要も無く、高純度のクオリティと、長い風雪にも耐えうる「安らぎの家」を保証したい。勿論、全ての音楽を愛する人に。
(ウチタカヒデ)


2003年9月25日木曜日

Radio VANDA 第 42 回選曲リスト(2003/10/02)



Radio VANDA は、VANDA で紹介している素敵なポップ・ミュージックを実際にオンエアーするラジオ番組です。

Radio VANDA は、Sky PerfecTV! (スカパー) STAR digio の総合放送400ch.でオンエアーしています。

日時ですが 毎月第一木曜夜 22:00-23:00 1時間が本放送。
再放送は その後の日曜朝 10:00-11:00 (変更・特番で休止の可能性あり) です。

佐野が DJ をしながら、毎回他では聴けない貴重なレア音源を交えてお届けします。


特集White Plains

1. I've Got You On My Mind ('70)
2. My Baby Loves Lovin' ('70)
3. In A Moment Of Madness ('70)
4. When Tomorrow Comes Tomorrow ('70)
5. Summer Morning ('70)
6. Lovin' You Baby ('70)
7. Every Little Move She Makes ('71)
8. Carolina's Comin' Home ('71)
9. Home Lovin' Man ('71) ... 2nd
When You Are A King』のみ収録
10. Julie Anne ('71)
11. Look To See ('73) ... "Step Into A Dream"
のB面
12. Just For A Change ('73) ... "Does Anybody Knows Where My Baby Is"
のB面
13. Summer Nights ('76) ... Bradleys Records
よりのラストシングル
14. Nothing Else Comes Easy ('?) ...
未発表の3rdアルバム『New Peaks』より

 



2003年9月14日日曜日

YMO: 『UC(Ultimate Collection of Yellow Magic Orchestra)』(SONY MHCL 295-6) ミサワマサノリ対談レビュー



 70年代末期から80年代初期にかけて、我が国で一大ブームを築き、忘れがたい存在となったYMO。今回、Ultimate Collectionとして最新の選曲と、大幅なリマスタリングを施したベスト盤がリリースされた。
 この枠ではLike This Paradeやbonjourで活躍するキーボーディストで和声理論にも秀でた、ミサワマサノリ氏と対談形式で、この作品について語り合ってみた。

YMOに想いを馳せて~

ウチタカヒデ(以下U):始めて聴いたのは中一の頃で、周りに影響されて聴き始めたって感じですね。それまでは所謂アイドル歌謡の類とか、カーペンターズなんかを姉と一緒に聴いていたかな。
それがいきなりあのサウンドなんで、一気に目覚めたって感じ。丁度意識的に音楽を選んで聴く様になった時期と重なるのね。とにかく音楽を聴くリファレンスってのがあれで出来てしまったから、偏狂的な音楽の聴き方”第一章”みたいな(笑)。ミサワ君の場合はどうでしたか?

ミサワ/Like This Parade,bonjour(以下M):オンガク的にというか、偏狂的に聴き進むきっかけになったのは、従姉妹の影響で、ニューウェーブ全盛の頃に美大に通ってた彼女の偏狂の流れを汲んで入ると思います。ニューウェーブ的なるものは、彼女ホントに何でも持ってた。
YMOもその中の一つっていう感じだったと思います。


 「FIRE CRACKER」~

U:YMOの念碑的曲ですか、当時僕はトミー・リピューマの下アル・シュミットがリミックスしたUS盤を先に聴いていたので、後でアールデコ盤(オリジナル日本盤)を聴いた時にその空気感の違いに戸惑いました。
今回のは後者のアールデコ盤からのリマスターですね。初CD化は92年と遅く、現行盤は今年リイシューされたソニー盤。今回のリマスターで変化が顕著に出るのはボトムだと思うけど、どうかな?キックと重ねられている音程感の無いムーグの質感が際立ってるよね。
後クラップの音の伸びとかも。しかし、このサウンドは『泰安洋行』~『はらいそ』からモディファイしてはいるものの、精神論的には細野氏の世界なんだよね。その要になっているアレンジ的にはどうですか?

M:ボクもUS盤が先だったので、アールデコ盤は最初は戸惑いました。でもこの曲は、アールデコ盤リマスターで正解だったんじゃないかなーって思います。下世話ながらも上品っていうか。マーティン・デニーの流れという意味ではハリー氏"泰安洋行"の流れかな。"はらいそ"よりも、空気感で言えば"泰安洋行"直系な感じ。
UCの音源聴いて、特にこの曲や1st~2ndあたりからの曲に顕著だと思うんですけど、リズム隊のアプローチがリマスターワーク冴えてますね。ピーター・コビンを思い出しました。非エキゾチカな楽器音色+非エキゾチカリズムで、音階はあくまでペンタトニック+2音の「呂旋法」を徹底化させるっていうスタイルですよね。「ハリー」氏の行き着く先の先がココかなー、みたいな。
ペンタトニックを地域性の薄い音とリズムで彩る感じです。それから和声が全然ペンタトニックを無視する瞬間がありますよね。Bメロの6小節目の7/9thとか。音階にこだわりながらも和声を打破しようという意気込みはハリー氏の精神論を坂本氏が一歩進めたのかなーって思います。


 「TONG POO」~

M:ボクはこれ、US盤の方が好きかも。。吉田美奈子、、中間部にあの声がないのはやぱり寂しい(笑)他はこのアールデコ盤からおこしたリマスターはカッコいいですね。かなりいじってるなーって思います。この曲こそ、音階にこだわりつつ和声で打破する方法論がもっとも確立されてますよね。
この曲の和声は見事。これもBメロの和声は綺麗。そう、ある種、綺麗感覚っていうか、12音階/平均律時代の綺麗感覚って、ここ200年くらいの間に生まれたものなんでしょうけど、情緒に欠ける欠点がある一方で、バランス感覚に優れているし、抽象化が圧倒的に進んでるっていう意味では非常に高度に洗練された綺麗さがある。少々大袈裟ですけど、非洗練ペンタトニックを支える洗練された和声を聴いてるとホント感心しちゃいます。
この曲、細野氏&坂本氏の役割は凄く明確な気がするんです。今云った通りで。で高橋氏なんですけど、この曲や1st一連の曲名なんかでゴダールを感じますよね(笑)。そういう趣味の流れって高橋氏なんでしょうか? だとしたらホント3人が一体になっててスゴいなーと。

U:うむむ、そのUS盤の美奈子ヴォイスは思春期の男子には刺激が強過ぎました。それもあって今回のデコ盤マスターでは、妄想感が薄れて余計間奏が長く感じるのかも。
本当にこの和声感覚とブラック・ミュージックの幸福な融合は他では余り見られないすね。強いて言うならSteely Danの「The Fez」かな。強引に銘々すると"仏印象派ファンク"ね(笑)。そしてこのベース・ラインの組立はやはり御大にしか出来ない技ですね。こういうニュアンスの違いで曲に彩りを添えられるというのは、自己の音楽的資産が蓄積されてないと到底引き出されない。チャック・レイニー的なプレイにも影響されていたって発言も頷ける。
それと、確かにこの曲での巨匠二人の役割が明確なのは理解出来ますね。そこに”第三の男”たる高橋氏の役目というのは、一連のゴダール作品のタイトルからの引用とかそういったセンスなのかな。サウンドのイメージから必然的にて先付けされたタイトルとは思えないものね。それって凄く東京的で地域性を麻痺させた折衷感覚なんだと思うな。


 「RYDEEN」 ~

U:現在では携帯の着メロにもプリセットでよく入っているね。やはりこの曲が植え付けた強烈なイメージは永遠に残りますね。当時タケノコ族もこの曲で踊っていたらしい(笑)。
メロディのパターンは割と単純で(だから小学生も覚えられた)、東洋的な音階を意識しているんだろうけど、これも具体的な地域感覚がイメージ出来ない。そんな心象世界だからこそ彼らのコンセプトは成功したんだろうしね。サウンド的には、コード・パッドがプロフェット5の重厚な響きで南無っ~て感じで厳かなんだけど、作者である高橋氏のドラミングはフィルが炸裂しまくってます。
モータウン的なパターンが多く聴けますね。何より右チャンネルのシーケンス・パターンがテクノたる肝なんですが、左チャンネルの8分のバックビートで刻まれるハネも重要。スティーヴ・ガッド的なセンス。コーダでリフレインされるピッコロなんかは完全にクラシックの影響なんだろうけど。

 M:この曲、着メロでおなじみっていうのはメロディーの分かりやすさを象徴してるなーと素直にそう思います。
この曲のスネアフィルはホントにスゴいですね。高橋氏のドラムは、フィルもエンディングも基本的にはその小節の中で完結するじゃないですか。ボクは、これにヤラれました。
そういえばコーダのダイナミクスだけはちょっとイジってるんじゃないかって思いました。ボクが持ってる盤がダメなのかもしれないですけど、コーダが全然良くないんです(笑)。それがリマスターでは綺麗に処理されてて気分がスッキリしました。
コーダのこの手のクラシカルな感覚、大袈裟にいえばワーグナーとかそういう感じの壁のような和声、、そういうのはこの後、高橋/細野氏が相互に影響し合って作品に反映させてますよね。ボクはBGMのMASSでそれは完成したかなって思ったんですけど。そういう意味では、1stの東風の頃とこの雷電では3人の関係が微妙に変わってきてるなー、なんて。
でもそれって、次元の高い音楽家故なのかなー。。それにしてもワーグナーな高橋/細野とドビュッシーな坂本って、よく同居してましたよね。100年前なら絶対ありえないと思う。それを許すのってのはロックかなーみたいな気がしました。


 「CITIZENS OF SCIENCE」~

M:この曲とTIGHTEN UPの一連のセッションはドラムのマイキングとチューニングが素晴らしいです。
この一連のセッションの曲は本来、テクノとは云わないですよね。むしろ偏執的で、演奏技術も高い、そういう密室空間的なニューウェーブファンクっていうか。それでもYMOとして成立してしまうすごさがある。もはや何をやってもYMOだ、、っていう。あるフィルターを通していながらどうしてもそこに自己の音楽的資産的要素が滲み出てしまう。細野氏は匿名性の高いオンガクをやりたかったって何かで読んだんですけど、こういう滲み出る要素がそういうのを阻害したかなー。匿名とは正反対の結果になっちゃってるし(笑)。
この曲の歌メロはメチャクチャですね。なんかこう破壊的でありながら美しいっていう超新感覚な感じが、今聴いても十分伝わる。こういうのが意外とキングストントリオからの影響だったりしてそういうのってまさにオルタナですよね。
パーカッシブなシンセの16分もなんか雷電の頃に顕著なテクノポップっていうよりは、13thフロアーエレベータみたいな感じだし(笑)。そうそう、サビ。強烈なメロですね。コトバに対する間延びした譜割りがちょっと恥ずかしいような笑えるような。それをカッコよくやってのけるYMOっていいなーって思います。

U:『増殖』での新曲の一つですが、「Nice Age」に比べて地味なんだけど、当時から変な曲だなと感じてましたね。手元のアルファ盤のCDと今回のを聴き比べると、大村憲司のカッティング・ギターの粒が際立って良くなってます。後ハイハットの刻みがナチュナルになってエフェクティヴ感が薄くなってます。シンドラ(タム)とシンバルのダイナミックス感は減った様な印象は受けますが。
サウンドですが、後にルパート・ハインが手掛けたフィクスぽくないですか?
密室的な不健康ファンクというか。この頃はドラムもキットで録っていたらしいから、生々しいニューウェーブぽさが出てるかも知れない。でも演奏が巧いから奇妙な感じなんだよね。
それとサビの強烈なラインね。(笑)。ヴォーカルというより弦のラインぽいよね。特徴的なリード・ヴォーカルにはフランジャーをかましていて、コーラスにはかなりモジュレーションを効かせてます。ストーンズの「Can You Hear the Music」とか想像させる。
他に気になるサウンドとしては、ヴァースの左チャンネルで聴ける、チロル地方の笛みたいな音もアクセントになってます。これはXTCの「Generals and Majors」からの引用だろうな。


 「開け心―磁性紀のテーマ」~

 U:今回の目玉の一曲ですね。初CDと表示されてますが、92年のCD-BOX『テクノバイブル』にモノ・ヴァージョンが収録されていて、ステレオとしては今回が初となる訳ですね。元々はフジカセットのCM用に作られた曲で、最初に収録されたアルバムはスネークマン・ショウの『急いで口で吸え!』。
これは如何にも企画物タイアップのやっつけ曲である事に違いないんだけど、非常に面白い構築法をしてますね。ベースレスでパンキッシュなドラミングになっていて、上モノがテンポを早くしたバロックなんだよね。『増殖』から『BGM』にモディファイする線上にある音と言えるので、研究者にとってはこういう音源がちゃんとリマスターされて日の目を見る事は意義がありますし。

M:スネークマンショウのトラックとして最初に聴いた時は、ホント分からなかったんです。この曲。確か、、クラウスノミの鬱々とした曲(これも名曲!!)とかと一緒に入ってて、ちょっと子供には過激すぎました。でもの曲は結構いろんなトラップがありますよね。On-UがらみのUKダブやクラウトロック、それにたしかにバロックの影響ありますよねー。


 「CUE」~

M:この曲を語る上ではULTRAVOXのPassionate Replyは外せない訳ですけど、まあご本人達も認めているというハナシなので、はっきり云ってしまえばPassionateReplyからの引用があまりに多い(笑)。
リマスターはやや曇りがちだったオリジナルを大分整理したのかな。。微妙に分離を良くして、それからもういちどあの曇ったBGMの空気感にあえて戻そうとしたような努力を感じました。そのあたりはウチさんの分析を待つことにします。ボクからはPassionate Replyとの違いについて。イチバン明らかなのは、ミニマルに繰り返される各小節3拍半パット系の5度を中心にした音の配列ですよね。これ、コードがIの時には1-5度が響いて、そのまま同じ音程でコードチェンジするからIVの時には5-9度のテンションになる。このI-IVのチェンジがなんともいい感じなんです。これはPassionate Replyにはない要素ですよね。
それからやっぱり高橋氏の歌がいい。半音とか全音の微妙にクローズボイシングな感じがすごく声や楽曲の雰囲気にあってていい空気を作ってるなーって。歌い出しの1小節、ヴォーカルの2音目の音のパットやトラック全体との和声の響き方なんか絶妙で大好きです。この曲は細野氏と高橋氏が相互に影響し合って、さらに(不在ながら)坂本氏からの現代的な和声感覚を取り込んだ中期の代表曲ですよね。

U:YMO史の中でも、ある頂点を極めた曲ですな。多くのフォロワーを”ふるい”にかけた『BGM』の中でも特別の存在感を放ってますね。オリジナルのアルファ盤CDと聴き比べると、明らかに、全体的に分離良く整理されているサウンドが聴けますね。遮光フィルターを外して、改めて景色を見直すみたいな感じですか。それでいて元々のサウンドが持っていた世界観も生かそうとしてる。正にミサワ君と同感です。
何よりこの曲に対する監修者の愛情を犇犇と感じさせるリマスタリング作業だったのではなかったのかと想像させます。実際にはセッションに参加しておらずとも相互理解し合ったというか。何というかレノン・マッカトニー名義でも、各々単独で作った曲に、もう一方の存在感を感じる様な、そんな関係なんでしょう。
因みにこのアルバムから、当時日本でも早かった3Mのデジタル・マルチ・レコーダー(32TR)を導入していますが、リズム隊だけはTEACのアナログの8トラで録ってからデジタルに落としていたという、特殊なレコーディング方法でやってます。やはりそのボトムの太さとコシは独特の質感を生んで特徴になってますが、今回のリマスターでキックはクリアに軽く、スネアはずっしりタイトになった感じがしますね。それと如何にもMC-4的なシーケンス・グルーヴによるプロフェット5のシンベの際立ちが、よりフィルターを外した感を生んでいるのかも知れません。
さて、ミサワ君の緻密な和声分析に補足する事もないのですが意外とこの効果って、イギリスの軍隊やスコットランドの民族音楽で多用されるバグ・パイプのドローン管の持続音に近いのではないかと思うのね。それがこの曲を支配するミニマル感に影響を与えて、ストイックな美しさがある。上手く表現出来ないけど、そんな高揚感がこの曲を永遠に好きでいられる鍵になっていると思いますね。


 「体操」~

 U:これも『BGM』同様に問題作である『Technodelic』収録で、中期YMOの代表曲ですね。これはテクノというか、ソウル・ミュージックをニューウェーブ的に解釈した感じね。トーキング・ヘッズがアル・グリーンの「Take Me to the River」をカバーした感覚に近い。ヴォーカルやコーラスの感じはビレッジ・ピープルを茶化した様なスタイルね。この曲は坂本氏が中心になって書いた曲ですが、アレンジや楽器編成をプレーンにすると、スタックスやハイの音になりそう。オーティス・クレイとかに歌わせたら面白そう(笑)。
それと「CUE」のメンタルな世界観に対して、「体操」は凄くフィジカルな感じだというのも特徴ですね。サウンドも全体的にデッドになっていた時期なのに、この曲だけ凄くライヴな音作りをしている。細野氏の手弾きベースは相変わらず天才的なシンコペーションを繰り出しているし。この時期世界で初のオリジナルのサンプラーLMD-649を導入しているのは有名だけど、この曲で使われているのはチューニングを下げてコンプをかけたスネアと、アタック音だけを生かしたキック、坂本氏によるハンド・トーキーの声(指導掛け声)やその他のヴォイスですか。
リマスターでの音の向上ですが、これも当然の様にクリアに分離良くなってます。特に違いが顕著なのはスネアかな。残響のキレが良くなってビートに対する機能性が増した感がしますね。

M:ボクはこの曲を含むTechnodelicというアルバムが大好きで、それはこのアルバムが持つ妙な普遍性? 不変性? そういう要素が輝いて聴こえるからなんですけど。
某誌のYMO特集で、テクノデリックは「テクノ」ではなくてむしろ「デリック(=拡張)」のほうに傾いている、、という記事がありましたが、ここにあるのは拡張よえいもさらに一歩推し進めた不変性のようなものだと思います。それはどの時代にも属さない、、というかこう、ある特定の時代に頼らない力強さというんでしょうか。しいて言えばまあ、20世紀初頭~80年代までのあらゆる音楽の集大成っていうような感じなんでしょうか。
この曲の骨格は試行錯誤ながらサンプリングスタイルがすでに立派に成立しているドラム、どうしたらこんなフレーズが出てくるのかっていうようなベース、現代音楽のパッセージとブルースやソウルの和声が溶け込んだピアノ、この3つのパート。そして抽象化の難しいペンタトニックスケールで見事に抽象化に成功しているこのメロディー。ペンタトニックが地域性を超えて聴こえるっていうのはオドロキです。
この曲はユーモアまで含めてあらゆる要素がホントにうまく溶け込んでいて素晴らしい。ボクはもう大好きです。この曲。ホント。
リマスター盤の仕上がりですが、ボトムをこれもやはり整理したかなと。あとはおそらくオリジナル盤の頃はサンプラー音源のミキシングって分らなかったんじゃないかと思うんです。扱いが。。その辺が大分整理されているなーと。ベースとのカラみ方は俄然、リマスター盤の方がいいですね。
ピアノは多分、坂本氏のイメージとして20世紀初頭~中期の頃のミニマル音楽家が残したレコードのサウンドが前提にあったと思うんです。リマスターはCUEと同様、いったんクリアにして、新たなメソッドで原音に近づけた、、そんな印象を持ちました。


 「CHAOS PANIC」~

M:restless盤"kyoretsu na rhythm"にも選ばれて(、今回もアルバム未収録という事でUC収録に選ばれた重要な(??)曲です。ボこの曲はかなり原曲に忠実なマスタリングかなって思います。この頃の細野氏の音色ってなんかヘンですよね。この曲のイントロとかもう不思議。でもこのイントロのリフの変形イメージがずっと続くんですよね最後まで。こういう作り方、非常にミニマルな作り方ってBGM以降ですよね、やっぱり。
これほとんど3コードじゃないですか。GとCとDの。割と単純。さらに云えば基本形は1小節のなかで2拍目の後半のⅣとそれいがいのⅠというⅠ-Ⅳ-Ⅰが基本になってる。それだけ。でもパット系のシンセが作る音の基本は9thでひっかけてる。このね、微妙はひっかかりがYMOを非凡な音楽に仕立て上げてるなーって思うんです。この9thが耳に残るんですよね。なんだろう、、って。
それをこの頃の独特の細野氏の音色でやられるとなんていうかそこに軽妙なユーモアっていうか、すごいなーって思います。クラフトワークやモロダーやディニーがYMOの分かりやすいルーツのように見えて、でもそういう人達には持ち合わせてないこういう要素ってYMOを特異な存在にしてるんじゃないでしょうか。
見えにくいルーツ(笑)は、ウチさんの見事な分析に補足するところは全くないのですが、ふとそう思いました。この単純なようでいてCUE以降のあらゆる要素を総括する曲を聴いて。

U:この曲のルーツは簡単にいうと、キッズ・ソウルのノヴェルティぽい音じゃないかな。例えばスティーヴィーの「Hey Love」とかをネタにした、ニュー・スクールの構造にも近いというか、デラソウルより6年も早かったんだけど(笑
)。それを踏まえると、循環ループを思わせる単純なコード進行なんだけど、テンションで味付けして飽きさせない。YMOの曲中で最もティーン向けポップスな作りじゃないかな。A面はアヴァンチュールを目論むオジサン達(「君に胸キュン」)なんだけど(笑)。
後、ミサワ君が指摘している様に、例の癖になるミニマルな構造も「CUE」以降の典型的な音だよね。新たな曲作りの方法論を持てたのはやはりEMUのイミュレーターIIという、サンプリングとループ・シーケンスを同時に組める機材の導入も大きいでしょうね。恐らくこの曲と同じセッションの『浮気な僕ら』では、イミュレーターIIを使い倒していたんじゃないかな。同時期の松田聖子の「天国のキッス」(細野作曲、編曲)のオケで鳴っている、トレモロのマンドリンとかもそうだろうし。
リマスタリングについて、比べたのが2000年の『HOSONO BOX』の音源なのだけど、ベースのコシとかスネアのダイナミックスが上がってる感はしますね。ミックスの仕方もヴォーカルがサウンドにやや埋まっている感じから、ピラミッド的に組み立てて聴き易くなってますか。そのあたりは微妙なんですが。因みに唯一外部ミュージシャンとして参加している、ビル・ネルソンのE・BOWをかましたギターはどこで聴けるかというと、左チャンネルの2種類の短いフレーズと、センターでは長めのサスティーンを生かしたトーンを弾いてますね。このポジションのは、エンディングではジョージ・ハリスン的なラーガぽいフレーズを弾いてますね。


総論~

M:ボクは今回UCを聴いて、モチロンそれはリマスタリングされ整理された音源のお陰なんだと思うんですけど、、マクロをいったん離れてミクロ的な方向で聴く事が出来たんです。この曲の何小節目のこのヴォイシングはこうだから、次の展開のここにつながる、、みたいな(笑)。デッサンがよく出来た抽象絵画ってあるじゃないですか。
YMOの中期はまさにそんな感じだし、後期はデッサンを抽象化してもう一回具象化したような感じに聴こえるんです。あとモチーフとしてのペンタトニックをどういう風にとらえるかっていうのは面白かったです。
それから中期以降のYMOの方法論というのはCUEに集約されるようなミニマルで抽象的なものだと思うんですけど、やっぱりそういうところは面白いなーって思いました。YMOはナンセンスな存在でありながら楽曲的には無意味になり切れない。どうしようもなく3人のキャリアが時々邪魔する瞬間がありますよね。細野氏のベースや坂本氏のヴォイシング、高橋氏のメロディーセンスやリズム感。だったらその無意味になり切れない[意味]なるものを楽しもう、と。YMOには意味がある、ってあらためてそう感じました。

U:今までにYMOのベストって様々にリリースされていて、食傷気味だったのですが、今回の『UC』はそんな気分を一掃する様な意気込みを感じたので取り上げたのですね。坂本龍一監修による選曲と、NYのスターリング・サウンドにおいてテッド・ジャンセンによる本格的なリマスタリングが行われたというのも大きかったのかも知れません。
また十何年か振りに聴き込んだ作品群だったので、再発見が多くて非常に感慨深かったです。それっていうのは、当時の日本の音楽シーンを引っ張っていった職人的アーティスト達の神髄を改めて垣間見られたという事に集約されるんですけど。彼らにとってのテクノというのは、単にテクノロジーの最先端ツールを導入するだけで創造出来る音楽ではないと思うんですよ。
ミサワ君も触れていますが、何より、三人の希な才能から溢れ出すイマジネーションによって生み出された、必然的な音だった訳ですからね。個人的にも感受性が成長段階の時期に、この様な音楽に巡り会えて、本当に幸福だったと噛みしめています。
YMOというのは、ある世代にとって希有な存在だった訳で、団塊の世代にとってのビートルズ的な存在だったと言えるんでしょうね。