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2003年9月12日金曜日

ヒガシノリュウイチロウ:『Samba03 (サンバ・ゼロ・トレス)』(Zona Sul ZSUL-0001)


 季節感の無い、抜け殻化した日々が過ぎていった今年の夏も終わり、ホイックニーが描く様な人気のないプールにも静かに波が漂っている。
 今回紹介する『Samba03』は、ボサノヴァ・シンガー・ソングライターであるヒガシノリュウイチロウのファースト・ミニ・アルバム。 正にこのアフター・サマーには頃合いな作品なのだ。

 彼は日本におけるブラジルの出島的CDショップのスタッフをしながら、2001年より渋谷のクラブを中心に弾き語り中心の演奏を繰り広げてきた。そんな活動を縁に、ここではプロデューサーに鬼才ヲノサトルを招き、ブラジリアン~ボサノヴァの新たなスタイルを模索している。
 クールでアンビエントなドラムン・ボッサな「Tema03」には未来的な響きを感じ、「愛の季節」と「風に揺れる心」では、"north marin drive”から永遠に帰れない人々への思いがけないプレゼントになっている。 情念を映す希有なアープ・シンセのリード・トーンの交差がたまらない、ラストの「砂の城」ではアジムス的な空間効果が印象的なバラードだ。
 アルバムを通して感じるのは、強烈な個性こそ発見出来ないが、ヒガシノの終始ニュートラルなヴォーカル・スタイルが、それまでオーセンテックなボサノヴァに馴染めなかったリスナーにもアピール出来る可能性を秘めている事だ。彼自身、様々な音楽遍歴を通過して、このスタイルに到達した事を楽しんでいる様である。 

 現在は日本にも完全に定着した感のあるボサノヴァだが、そもそもジョアン・ジルベルトという男が編み出した、高度で革新的ながら非常にシンプルな音楽スタイルである事を忘れてはならない。 そのサウンドの神髄は何より、演奏者の声とギターが紡ぎ出す、究極の演奏形態なのだから。 
(テキスト:ウチタカヒデ

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