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2003年7月30日水曜日

V.A.:『The Many Moods of Smiley Smile』(Teenage Symphony / Dreamusic)


 アーティスト(音楽家)の本分は、その溢れ出すイマジネーションを自らの作品で表現する事だ。 
 本作は『喫茶ロックnow』、『Smells Like Teenage Symphony』の監修でお馴染みの非営利音楽愛好団体である、”Smiley Smile”(素晴らしいネーミングだ)が手掛けた最新作品集で、新たな才能を紹介する事に徹した理想的なコンピレーションである。とにかく、限り無くダイヤモンドに近いアーティストの含有率が高い事が注目に値し、以前もこのコーナーでも紹介したロビンズ、Lamp、ゲントウキ等の参加でもうなずける筈である。

 では気になったアーティストとその作品について紹介してみよう。
 冒頭のRide, Ride Blue Trainの「街にさよなら」は、オルタナ風ヘヴィー・サウンドに叙情的なメロディを乗せながら、サイケデリックな味付けも感じる。 サビのリフレインにはXTCの「Wake Up」のそれを思わせ、その余韻がこの作品集への期待を高ぶらせる。 
 ビューティフルハミングバードの「朝の友人」は曲もさることながら、特筆すべきはヴォーカリストの声の素晴らしさだろう。ジョニ・ミッチェル~吉田 美奈子ファンには強くお薦めしたい。 
 西村明正の「嘘つきケイティ」は、そのタイトルからしてスティーリー・ダンを意識している節は伺えるが、独特なコード進行と曲の展開、ウーリッツ ァー(エレピ)の刻み方、エリオット・ランドール風のギター・ソロ等サウンドの面白さは折紙付きだ。但しヴォーカルの個性がそれに負けている傾向があるので今後の課題として欲しい。

 Lampの「面影」は、日本的情緒とMORが溶け合った印象的な曲。純文学風の歌詞とその情緒性を拡大させる三声コーラスと間奏のアコーディオンのライン、コーダでヴォーカルがファルセットになる箇所等ディレクション能力も評価したい。
 彼らについてはデビュー前からその才能を買っており、1stの『そよ風アパートメント201』のレベルからすれば、この曲は佳作といえるので、まだまだ他の曲を聴いてみたい。因みに9月発行予定のVANDA29号では、彼らのインタビューを掲載するので興味のある方は是非読んで欲しい。
 トルネード竜巻の「ノーウェア・カーネリー 」は、実に不思議な音構造で、女性ヴォーカルとバック・サウンドのアンビバレンスな関係性は貴重といえ る。『Straight from the Gate』の頃のヘッドハンターズ等を彷彿させる知的系フュージョン・サウンド(但しギターはブリテッシュ系譜)に浮遊感溢れるVoが乗る。本当に形而上学且つ奇妙な曲であり、他の作品への興味も沸いてくる。
 bonobosの「Mighty Shine, Mighty Rhythm(SPC FINEST REMIX)」は、この作品集の理念からは少々外れるリミックス作品ではあるが、個人的には最もリピートして聴いた曲でもある。
 70年代にドナルド・フェイゲンは「今最もホットな音楽が作れるのは、優秀なスタジオ・ミュージシャン達だ」といみじくも語ったが、現在ではそれがDJやリミキサーに様変わりしているのは紛れも無い事実だ。それを踏まえると、ここでのインポータンスは、リミキサーによるテクニカルな技法なのかといえばそうでもない訳で、ファンキーでミニマルなバック・トラックから浮かび上がってくるのは、個性溢れるヴォーカルに他ならない。オケに対してアウト・オブ・コードになった事でメロディの存在感が際だった好例だ。 

 HAYDONの「期待」は、その曲の良さやサウンドのスタイルから最も一般的に受け入れ易いかも知れない。小沢健二的なヴォーカルやキャッチーなコーラスは女子に好感を持たれるだろうし、スライ&ファミリーストーン的なクールなファンクを基調としたリズム・セクションとビートルマニアたるギター・プレイのバリエーションにはニヤリとさせられる。
 つまり異なったファン層を獲得出来る良いトコ取りの美学。細かなサウンド面では、スネアとキックの固めのチューニングやラグドなドラミングが気になって何かと侮れない。
 ゲントウキの「夏の思い出(納涼編)」は、先にリリースされたシングル「素敵な、あの人。」のB面曲の別ヴァージョンだ。田中潤のソングライティン グ能力の高さはよく知られているが、詩情溢れる歌詞とそれを生かした曲作りの巧みさが群を抜いている。
 70年代のジェームス・テイラー等のシンガー・ソングライター的スタンスに近く、バンドなのだが極めてパーソナルな世界観を感じさせる。大サビからの突如メロウな展開になるパートには、ボビー・コールドウェルの匂いもするし(だからスチール・パンを入れたのか?)、全体に鏤めたペダル・スチールの配置等アレンジ面の演出も過不足無く素晴らしい。
 ロビンズの「未だ見ぬ街へ 」はある意味、最も”Smiley Smile”な興味深いサウンドだろう。細野晴臣~小山田圭吾系譜のフラットなヴォーカルと、淡々と進行するストレンジな音像は極めて独創的である。左チャンネルに定位したドラムとショート・ディレイをかましたオルガンやトリルを多用したシロフォン、アナログ・シンセによるアクセントは元より、コーラスの構成や配置等は、中期ビーチ・ボーイズにいかれた連中にしか成しえない技だ。このまま洗練なんかして欲しくない気がするので、”京都のルイ・フィリップとその一味”の称号を差し上げたい。(因みに”マーハ(横浜)のルイ・フィリップ”は、Like This Paradeことミサワマサノリに銘々済み) 

 最後に、このコンピレーションには限りない可能性を持ったアーティストが多く参加している事を理解してもらえたのではないかと思うが、これをきっかけに多くのリスナーが、日本のアナザー・サイドに潜む新たな才能に触れてくれる事を切に願うばかりなのである。 
(テキスト:ウチタカヒデ

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