2002年10月8日火曜日

山本のりこ: 『CALOR』 (CLCD-6001)



果たして日本にはどれだけのボサノヴァ・シンガーが存在するのだろうか。 小野リサらを代表とするこのシーンの奥深さは、例えば街にひっそりと佇むカフェやレストランで、その歌声を聴く機会に恵まれない限り知り得ない世界なのかも知れない。 本稿で紹介する山本のりこもそんなシンガーの一人である。

彼女は90年に関西でヴォーカリストとしてその活動を開始する。その後東京に移住し、98年より現在の弾き語りのスタイルでマイペースにその活動を続けてきた。昨年は某アイスクリーム企業のCMBGMで、ヴォーカルとギターを披露していたので、知らず知らずの内に彼女のサウンドを聴いていた方もいるかも知れない。
今回の『CALOR』は山本にとって初のソロ・アルバムで、7曲のカバー曲と5曲のオリジナル曲から構成される。 先ずカバーではA・C・ジョビンの3曲に興味を惹かれるのだが、中でも一曲目を飾る「Dindi」から彼女の表現者としての真骨頂を感じさせられる。歌詞の深みが崇高に自然の優美さを讃えている。 一方モラエス・モレイラのカバー曲「PRETA, PRETINHA」の解釈も非常にユニークで、シンコペーションを強調し縦横無尽なフルートを配した独特なグルーヴを繰り広げている。 ここでは一流のセッション・ドラマーである石川 智のハイハット・ワークと吉田一夫のフルートが活躍する。 オリジナルでは「PASSARINHO」から「FIM DE VERAO」の流れが良く、変わりゆく季節を淡いタッチでスケッチし効果的なコントラストを見せている。後者のコーダ部では幽玄なトランペット・ソロとそれに絡む山本のスキャットが喩えがたい空間を創造している。

全体的なサウンドの特色は歌とギターの即ち、弾き語りのスタイルを重要視し、必要最低限の音をダビングしていくというシンプルなプロダクションである。これは音数を少なくする事によって生まれる"間"が聴く者にとって大きな影響を与えている事を如実に物語っているのだ。
(ウチタカヒデ)

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