2000年2月3日木曜日

☆Barry Mann:『Soul And Inspiration』(Atlantic/83239)

 日本盤が出るまで待とうとは思っていたものの、「いいぞ、これ」という廻りの合唱に耐え切れず輸入盤を買ってきたが、早く手に入れて正解だった。前のアルバムから20年、ずっとバリー・マンの声を聴いていなかったので、大好きなだけに不安だった。あの味わいのある彼の声がブライアン・ウィルソンのように変わってしまっていたらどうしよう、ポール・マッカートニーだって昔のような声はずっと出ていないしと、聴くのが怖かったのだ。ところが嬉しいことに変わっていなかった。本当に驚いた。バリー・マンの聴かせどころとも言うべきあのめったに聴けないファルセットも変わっていない。やはり私にとってバリー・マンは最高の作曲家であるとともに最高のシンガーだった。確かにデビュー時を除いて、ソロでヒットはない。歌手を失格した男じゃないか、そんなことをいう奴は音楽を聴く耳を持っていない奴だ。このアルバムは全11曲、みな馴染みの、バリー・マンの代表曲が並ぶ。それを歌う彼の声には、人生の機微を知りつくした男の、年輪のひとつひとつが刻みこまれ、私達の心をゆさぶってくる。テイストでいえば、『Survivor』より『Lay It All Out』に近いいぶし銀の輝きだ。個人的に気に入ったのは、浮き浮きしてしまうほど軽やかなドリー・パートンの78年の大ヒット「Here You Come Again」、エモーショナルなリンダ・ロンシュタット&ジェームス・イングラムの87年の大ヒット「Somewhere Out There」、華麗な転調が心地よいクインシー・ジョーンズの81年の大ヒット「Just Once」。メロディがみな最高のクオリティだけに、ピアノの弾き語りをベースにしたシ ンプルなサウンドが見事に映える。その他の曲ももちろん素晴らしいので、みな紹介しておこう。ご存じライチャス・ブラザースの「You've Lost That Lovin' Feelin'」(65年)「Soul And Inspiration」(66年)、ドリフターズの「On Broadway」(63年)、リンダ・ロンシュタットの「Don't Know Much」(89年)、B.J.トーマスの「Rock And Roll Lullaby」(72年)、「I Just Can't Help Believing」(70年)、アニマルズの「We Gotta Get Out Of This Place」(65年)、ダン・ヒルの「Sometimes When We Touch」(78年)。これらの曲に、バリー・マンへの深い敬愛を示すキャロル・キングなどの豪華なメンバーがデュオで加わっている。私はメロディを軽視したような自己満足型のSSWは好きではないし、甘いだけのAORも好きではない。バリー・マンこそ、理想のポップ・ミュージックだ。なお、バリー・マンの1Pの序文以外、あとはすべて歌詞カードなので、輸入盤で十分。(佐野)
Soul & Inspiration

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