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1999年11月20日土曜日

☆Small Faces:『Small Faces The BBC Sessions』(A BBC Music/SFRSCD087)




今年のポップ・ベスト・リイシューがEternity's Childenの『Eternity's Children』とFour Seasonsの『The Night-Inside You』とすれば、ロックのベスト・リイシューはこのスモール・フェイセスのBBCセッションだ。全15曲中、嬉しいことに12曲までがデッカ時代の曲で65~66年に放送されたもの。音楽評論家などの玄人風の人達はよくイミディエイト時代を評価しているが、いいのはその前のデッカ時代。これは声を大にして言いたい。不世出のヴォーカリスト、スティーブ・マリオットの迫力満点のヴォーカルが炸裂するのはデッカで時代あり、オ-バーダビングなしのようなストレートなバッキングに文句なしに映える。サイケが入ってくるイミディエイト時代ではその分、すべてに勢いがそがれている。そう、ジョン・レノンのヴォーカルがいいのはビートルズの初期というのと同じだ。ロック・ヴォーカリストはシンプルでストレートなバッキングがベストなのだ。まず冒頭の「Watcha Gonna Do About It」でノックアウトされてしまった。レコードよりギターがでかく、粗削りで迫力があり、ロックの暴力的なパワーがみなぎっている。そしてマリオットのヴォーカルもライブではさらに力が増しているのだからたまらない。続く「Jump Back」はマリオットの書いた未発表ナンバーで、「Sha-La-La-La-Lee」のギター・フレーズを使った重量感のあるR&Bナンバー。ロニー・レーンが歌う「Shake」はドラム・パターンが違うのでどこかバタバタした感じがあり、これはレコードの勝ち。しかしロニー・レーンのシャウト・ヴォーカルは実に若々しく躍動感があり、後の枯れた雰囲気が嘘のよう。「Sha-La-La-La-Lee」「Hey Girl」のポップ・ヒット2曲は、相対的にギター・サウンドになった重量感のあるこのライブの方がカッコいい。ジミー・ペイジが「Whole Lotta Love」として後に盗作した「You Need Loving」と、ガリガリとした強烈なリフに乗せた「E Too D」というスモール・フェイセスの隠れ名作は、狂おしいまでのマリオットのシャウト・ヴォーカルが必要とされるので、ライブではどうかと思いきやまったくレコードと遜色ないパワーを見せてくれた。演奏もソリッドで文句なし。そして私が大好きな「Understanding」までも登場する。歌も演奏もいいし、ケニー・ジョーンズのドラムが聴きものだ。名曲「All Or Nothing」はプレイし慣れた余裕の仕上がりでこれも素晴らしい。さらに「One Night Stand」「You Better Believe It」「Baby Don't You Do It」という渋いナンバーもプレイされていた。最後は68年の録音で、SEやカズー、鐘も入った「Lazy Sunday」は空いた2年の歳月を感じさせた。しかし疑似ライブで録音されていた「If I Were A Carpenter」「Every Little Bit Hurts」はこれが初めてのクリアな演奏で、ここではこのヘヴィなR&Bナンバーに再びマリオットの真っ黒なヴォーカルが全開となり、我々を酔わせてくれた。このBBCライブはフーが予定されたまま延期になっているが、この迫力にはさしものフーもかなわない。史上最強のロック・ヴォーカリストは、やはりスモール・フェイセス時代のスティーブ・マリオットだ(佐野)
The BBC Sessions

1999年11月15日月曜日

☆Who:『Who's Next』(日本コロムビア/COBY90093)DVD

フーの最高傑作アルバム『Who's Next』の製作過程を、ピート・タウンゼンド、ロジャー・ダルトリー、ジョン・エントウィッスルのメンバーと、グリン・ジョーンズ、クリス・スタンプら当時の関係者が語るファンにはたまらないドキュメンタリー映画だ。ご存じのとおり『Tommy』に続くコンセプト・アルバムとしてピートは『Lifehouse』を準備するが、その難解なテーマをピート以外は誰も理解できず計画は頓挫、用意された曲の中から幾つかと新しい曲を組み合わせてこの『Who's Next』が制作された。そういった現象面での証言も興味深いが、それよりも心引かれるのはサウンド作りの解説だ。例えば「Baba O'Reiley」のシンセサイザーをピートが実際に弾いてその作り方を解説、ジョンも曲に合わせて実際にベースを弾き、グリン・ジョーンズはミキサーを操作して各パートを解説していくといった具合。「Behind Blue Eyes」では、ロジャーがミキサーをいじり時には一緒に歌いながらキースのドラムの素晴らしさを力説、ピートはアコースティック・ギターの弾き語りを披露する。ピートがブライアン・ウィルソンの『Pet Sounds』でのベースの素晴らしさを語るなど、コメントもとても興味深い。最後にピートが「Won't Get Fooled Again」を弾き語りするが、アコースティック・ギター1本で迫力満点のロックにしてしまうその見事なギターの腕前には惚れ惚れしてしまった。ピートはストロークの天才で、切れ味鋭いフレーズを次々送りこむ。私はギターの早弾きなど何の興味もないが、ピートのようなソリッドなビートを供給できるプレイヤーこそ本物のギタリストだと確信している。時々織り込まれるフーの当時の映像には目新しいものはないが、こういった再現だけで買う価値は十分だ。最後にフィルムで見られるメンバーの「近況」だが、ピートは若干柔和になり笑顔も交えながらコメントをし、髪は後退したものの知的な印象は変わらず。ジョンはまったく昔と容貌も雰囲気も変わらない謎の人。そしてロジャーだが、彼はともかく老けた。スタジオで眼鏡を下げて喋る時など、昔の精悍なロジャーはとても想像できない。やはり刺もとれてコメントが柔和、優しそうなおじさんになってしまった。誰かに似ていると思っていたら...そう欽ちゃんそっくりだ(佐野)

1999年11月9日火曜日

「ポップ・ヒットメイカー・データ・ブック」ソングライター/プロデューサー/ポップ・グループ (VANDA編・:シンコー・ミュージック刊)

長くお待たせしましたが、ようやくVANDAとしての4冊目の単行本が完成しました。「ソフト・ロックA to Z」以来、年1冊のペースで単行本を出してきましたが、この本こそ今まで我々がVANDAでやってきたことの集大成の1冊と言えるでしょう。60年代から70年代にかけてアメリカ・イギリス・フランスのポップ・ミュージック・シーンを作り出した68組のソングライター、51組のプロデーュサー、35組のポップ・グループ/セッション・ヴォーカリストを一挙紹介、そのすべてにチャート入りのソングリスト/ディスコグラフィーを付けた、全ポップ・ファンの永久保存版です。リストは18000曲に及び、このリストだけでも買う価値は十分でしょう。今まで日本では、ジャケットを並べたり、ヒット曲の解説の本はありましたが、多くのヒットを生み出してきたポップ・ミュージシャンをまとめて紹介したものはありませんでした。そして一番手間がかかって大変な、ソングリストを付けた本は世界的にもありません。リストがあればそのアーティストを追うことが容易になり、またリストはアーティストの人間関係の変遷やどんな影響を受けてきたのかという事まで語ってくれる場合もあります。リストを付けることが最大の負荷価値、音楽評論家のゴタクよりはるかに役に立ちます。さらに写真も充実し、各アーティストごとに本人の写真や主要作品が入り、ポップ・グループを中心に、384枚当時の日本盤シングル/EPのジャケットをカラーで掲載しました。そして「ビーチ・ボーイズ・コンプリート」以来にご登場いただいたとり・みきさんのマンガ「アルドン荘物語」はコアな音楽ファン、コミック・ファンのどちらも唸らせる傑作。全336頁、こんな充実したラインナップで価格は税抜き2800円とリーズナブル、自信を持って購入をおすすめします。(佐野)



CONTENTS 目次


PREFACE まえがき 002



●SONGWRITER / PRODUCER ソングライター(兼プロデューサー) 007/Barry Mann 008/Burt Bacharach 010/Carole King 012/Jeff Barry & Ellie Greenwich 013/Neil Sedaka 015/Del Shannon 016/Peter Anders & Vini Poncia 017/Michael Nesmith 018/Tommy Boyce & Bobby Hart 019/Tony Macaulay 020/Roger Cook & Roger Greenaway 022/Geoff Stephens 023/John Carter 024/Tom Springfield 025/Chris Arnold, David Martin & Geoff Morrow 026/Graham Gouldman 027/Tony Hatch 028/Peter Shelley 030/John Barry 031/Les Reed 031/Roger Nichols 032/Jimmy Webb 034/Randy Newman 035/David Gates 036/James Griffin & Rob Royer 037/P. F. Sloan & Steve Barri 038/Rod McKuen 039/Bruce Johnston & Terry Melcher 040/Charles Fox 041/Paul Anka 042/Laura Nyro 043/Jackie DeShannon 043/Nilsson 044/Neil Diamond 044/Paul Vance & Lee Pockriss 045/Rupert Holmes 045/Mac Davis 046/Guy Fletcher & Doug Flett 046/Shadows Family 047/Chris Andrews 048/Bill Martin & Phil Coulter 048/Peter Callender 049/Mitch Murray 049/Mike Leander 050/Albert Hammond 050/Bobby Russell 051/Bobby Scott 051/Bob Dorough 052/Terry Cashman & Tommy West 052/Bob Lind 053/Flo & Eddie 054/Garry Bonner & Alan Gordon 054/Kenny Rankin 055/Mort Garson 055/Jerry Fuller 056/Sandy Linzer 056/Tim Hardin 057/Danny Janssen 057/Dennis Lambert & Brian Potter 058/Paul Leka 059/Gary Zekley 059/Joe South 060/Chip Taylor 060/Artie Kornfeld 061/Tony Romeo 061/Michel Legrand 062/Francis Lai 064/Serge Gainsbourg 065
●PRODUCER プロデューサー 067/Phil Spector 068/Snuff Garrett 070/Lenny Waronker 071/Al De Lory 071/Teddy Randazzo 072/Bob Crewe 073/Sonny Bono 074/Jack Nitzsche 075/Andy Kim 076/Joe Meek 076/George Martin 079/Norrie Paramor 081/Norman Newell 082/John Burges 082/Andrew Loog Oldham 083/Dick Glasser 084/Gary Usher 086/Curt Boettcher 087/Bones Howe 089/Lou Adler 090/Herb Alpert 090/Tommy Lipuma 091/Nick DeCaro 091/Shel Talmy 092/Larry Page 093/Mickie Most 094/Nicky Chin & Mike Chapman 095/Mark Wirtz 096/Glyn Jones 097/Ron Richards 099/Peter Sullivan 099/Michael Lloyd 100/Mike Curb 101/Wes Farrell 101/Jerry Ross 102/Roy Hallee 103/Peter Asher 104/Jimmy Bowen 105/Chips Moman 105/Richard Perry 106/Jimmy Ienner 107/Jerry Kasenetz & Jeff Katz 107/Harry Vanda & George Young 108/Paul Samwell-Smith 109/Johnny Franz 109/Tony Visconti 110/Mike Hurst 111/Wilson Malone, Monty Babson & Geoff Jill 112/Eddie Tre-vett 113/David Mackay 113/Mike Smith 114/Robert Stigwood 114
●VOCALIST ヴォーカリスト 115/Ron Dante 116/Tommy Roe 117/Lou Christie 118/Bobby Goldsboro 118/Tony Burrows 119/Tony Rivers 120
●ARRANGER アレンジャー 121Perry Botkin Jr., Bob Thompson, Bob Alcivor, Artie Butler, Leon Russell etc.
●POP GROUP ポップ・グループ 124/The Four Seasons 125/The Tokens 127/The Association 128/The Critters 129/The Classics IV 130/The Turtles 131/The Rascals 132/Gary Lewis & The Playboys 134/The Lovin' Spoonful 135/Simon & Garfunkel 136/The Cowsills 138/The Cyrkle 138/The Byrds 139/The Mamas & The Papas 141/The Parade 142/The Hollies 143/The Dave Clark Five 144/The Zombies 145/The Happenings 146/The Buckinghams 147/Buffalo Springfield 148/The 5th Dimension 149/The Moody Blues 150/Badfinger 152/Grapefruit 153/Roy Wood (The MoveIdle RaceElectric Light OrchestraWizzard) 154/Chicago 156/Three Dog Night 157/Blood, Sweat & Tears 158
●SPECIAL CONTRIBUTION 特別寄稿 とり・みき『アルドン荘物語』 159
●JAPANESE SINGLE/EP COLLECTION 日本盤シングル/EP コレクション 161
●DISCOGRAPHY ディスコグラフィ 177/SONGWRITERS / PRODUCERS: SONG LIST ソングライター(兼プロデューサー):ソング・リスト 178/PRODUCERS: PRODUCE LIST プロデューサー:プロデュース・リスト 240/VOCALISTS: DISCOGRAPHY ヴォーカリスト:ディスコグラフィ 297/POP GROUPS: DISCOGRAPHY ポップ・グループ:ディスコグラフィ 302
●OUR FAVORITE HIT-MAKERS 執筆者アンケート 322
●INFORMATION FROM VANDA VANDAからのお知らせ 324
●INDEX 索引 325
 


1999年11月1日月曜日

☆Frankie Valli & The Four Seasons: The Night-Inside You (Four Tunes Records/NW788-2)

フォー・シーズンズの最も素晴らしい時期はと言われれば、今までは64年の『RAG DOLL』があまりにも良かったので「Dawn」のヒットも生まれたその64年と答えていた。しかしフランキー・ヴァリのフルレンジの美声が最も生き、持ち前のハーモニーが曲の流れによって自在に調和していた70年代前半のモータウン時代こそが、音楽的にフォー・シーズンズの最盛期だと今は変わっている。そしてこのCDはモータウン時代の3枚『Chameleon』『Inside Out』『Superstar Series Volume 4』の3枚のアルバムの収録曲を全て集めた(「The Night」のみ編集されたシングル・ヴァージョン)まさにベスト・オブ・ザ・ベストの内容だ。この内『Inside Out』はヴァリのソロとなっているが、曲によってグループ名義だったりヴァリ名義だったりあいまいだし、また作曲がボブ・ゴーディオ=ボブ・クリューで歌も明らかにグループという曲も多く、すべて同一に扱ってかまわないだろう。この時代の曲はヒットはなかったものの傑作揃いで、すべておすすめなのだが、その中でも1曲選べと言われれば「With My Eyes Wide Open」だ。パワフルなロック・ビートに乗った歌い出しが、エコーたっぷりのフーのような激しいブリッジに突入、ぐっとためを作ってサビの渦巻くコーラスの中で一気に解放される。これぞ私の理想のサウンド、理想のハーモニー、理想の曲だ。この曲は今年私が聴いた最高の曲であり、自信を持っておすすめする。この曲がシングルではなく『In side Out』の収録曲ということだけでも、そのレベルの高さがうかがえるだろう。こういった歌い出しにビートを聴かせ、サビでメロディアスに解放する曲は「Sun Country」「The Night」があり、みなシャープな出来栄えを示した。ソフトなバラードが歯切れのいいキャッチーなメロディに変わるのが「Hickory」。「A New Beginning」「When The Morning Comes」はミディアムに変わった後にまた美しいバラードへ戻るなど自在な展開を見せ る。重なりあうコーラス・ワークが聴きものの「How Come」、伸びやかで見事なハーモニーが楽しめる「Life And Breath」、ドラマティックなバラードの「Love Isn't Here」、徐々に盛り上がりを見せる「The Scalawag Song」、モータウンらしいダンサブルなビートに乗った「Just Look What You've Done」「Thank You」、そしてかつてのフォー・シーズンズのカウンター・コーラスを再現した「Walk On」と息をも付かせぬ素晴らしいナンバーが次々現れる。ヴァリの表情豊かなヴォーカルとそれぞれの曲を華麗に彩るハーモニーは完璧で、この時期のフォー・シーズンズこそ、史上最高のヴォーカル・グループと断言できる。(佐野)