1998年6月11日木曜日

エレキ・インスト大全(シンコー・ミュージック刊)


本誌でもお馴染みの佐々木雄三さんが主催する日本のエレキ・インスト・マニアの最高峰、ニュー・エレキ・ダイナミカが編集したエレキ・インストものの集大成がこの単行本である。エレキ・インストの代表選手であるベンチャーズ、シャドウズ、そしてスプートニクスなどのヨーローッパ・インスト、サーフ・インストから、エレキ全盛の頃の日本のインスト、さらに現在のネオ・サーフ、エレキ・インストに至るまで、詳しいバイオと解説、そして600枚のカラー・ジャケットなど目もくらむような資料が集約した究極のテキスト本である。音楽の本とはこういうものでないと価値がない。あれほどの大ブームを引き起こし、当時ビートルズよりもベンチャーズの方がはるかに人気があったにもかかわらず、現在のロック評論では鼻も引っかけられず、音楽雑誌でもおざなり程度にしか取り上げられないエレキ・インストに今もなおこれだけの愛情を注ぎ込み、まとめあげたこの姿勢こそ「ロック」と言えよう。本誌ではベンチャーズ自体、エレキ・インスト・ファンの間ではメジャー過ぎ、メインに置いていないところもさすがだ。(佐野)

1998年6月9日火曜日

☆Sol De Mexico(with The Beach Boys) : Acapulco Girls (東芝EMI/50683)

最近のビーチ・ボーイズの活動は、ブライアンを含め普通では到底チェックできないほど幅広く、かつマイナー。ガソリン・スタンド売りの CD 、ウィンダム・ヒルのシリーズ、クラシック系のヴォーカル・グループなんていったいどう目を光らせばいいのか教えて欲しいくらいだが、我々ビーチ・ボーイズ・フリークの連絡網は強固であり、必ずどこからか連絡が届く。このソルデ・メヒコというメキシコのラテン・バンドの CD は東芝EMIの担当の方からおしえてもらった。
アルバムの中の "Kokomo" "Acapulco Girls" の2曲にビーチ・ボーイズが参加、 "Kokomo" では出だしと最初のヴァースをマイク・ラブがリード・ヴォーカルを取っていた。この曲はもともとトロピカル調の上、スペイン語ヴァージョンも録音されており、違和感なく(印象もないが)聴こえる。それよりも "Acapulco Girls" だ。これは "California Girls" の歌詞を変え、スペイン語で歌ったものだが、この出来が抜群なのだ。私はもともと原曲を超えることが稀という理由でカバーものにはほぼ興味がないのだが、この曲は別格。原曲との比較ではなく、まったく別の魅力を引き出したという意味でこのカバーは最高だ。弾むようなリズムに乗った爽やかで力強いテノールのリード・ヴォーカルに、トランペットとストリングスのマリアッチ・サウンドがピタリと合った。あのシンフォニックなイントロはないし、メロディの一部は変わり、ファルセットを効かせた独特の厚いハーモニーもないのでコーラスにビーチ・ボーイズが参加しているのか分からない程度と、一聴しただけでは瞬時にこれが "California Girls" だと分からないかもしれない。しかしそれがかえって新鮮で、新たな魅力を引き出した。特に原曲にはない "Acapulco" のコーラス・パートの気持ち良さは格別で、もう目の前はカリフォルニアではなくもっともっと熱く蒼いアカプルコの海。これは絶対にお薦めだ。(佐野)
Acapulco Girls
 







1998年6月8日月曜日

☆Barry Mann : Inside The Brill Building Complete Recordings 1959-1964(Brill Tone/111)

このバリー・マンの3枚組 CD は、なんと全80曲の内58曲が未発表のデモ・レコーディング、ブックレットにはレコーディング日・作曲者のクレジットがきちんと載っているし、音質も最高と、我々全バリー・マン・ファンを驚愕させた。
RCAの「Who Put The Bomb」やJDS、コルピックス、レッドバードのシングル曲もすべて入り、ソロ・シンガー時代のバリー・マンの全貌がこの CD でつかむことが出来る。どうやらブートくさいが、この内容とこの音質、何度も同じものを焼き直しで出すちまたに溢れる工夫も何もない正規盤など足元にも及ばず、全ポップ・ファンは必ず入手すべき最高のアルバムである。未発表デモの中にはバリー・マンらしい芳醇なメロディを持つ優れたナンバーがいくつもあり、オールディーズ・ファンだけでなく、ポップ・ファンならだれでも楽しめるだろう。後は以降の「Survivor」まで向かうバリー・マンがその本領を発揮する円熟期だが、アルバムどころかただの1曲もリイシューされていないのが悲しい現状、未だによく中古盤が売れるという「Survivor」など潜在的需要は多いはずで、早くにそのニーズにレコード会社は気づいて欲しいものだ。(佐野)
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1998年6月4日木曜日

☆Brian Wilson : Imagination (BMGビクター/706)

ブライアンが本格的に取り組んだアルバムは「Pet Sounds」以降11年周期だったが、今回は1年早い10年で届いた。さて肝心なその出来だが、歌声、メロディがポジティブなのがいい。「Brian Wilson」は全体的に緊張感があり、楽しく聴けるものではなかったが、このアルバムはポップだし、楽に聴ける。 "Let Him Run Wild"  "Keep An Eye On Summer" という2曲の往年のセルフ・カバーがやはり光るが、これは原曲がいいのだから当然。 "She Says That She Needs Me" 65年の未発表曲 "Sherry She Needs Me" で、元が良かっただけに嬉しい登場だ。ベスト・トラックはシングルになった "Your Imagination" 、爽やかな "Where Has Love Been" 、ポップな "Dream Angel" 。ブライアンのポップな持ち味が発揮され、構えることなく気持ち良く聴ける。同じく "South American"  "Sunshine" もポップでかつ、明快でいい。異色なのは歌謡曲風の "Cry" 70年代のボツ曲 "My Solution" を使ったかつてのブライアンを引きずるような "Happy Days" で、この2曲は個人的には不要だった。なお日本盤には CD シングルに収められていた "Your Imagination" (A Cappella Version)がボーナス・トラックで収録されている。(佐野)
 

☆Rascals:The Rascals Atlantic Years(East West/2821~7)

最初に発売が予告されてから1年8カ月を経て、ようやくラスカルズのアトランティック時代のアルバム7枚のボックス・セットがリリースされた。万華鏡を覗いたように美しいラスカルズの最高傑作である「Once Upon A Time」をはじめ、2枚組の力作「Freedom Suite」、さらにソウル色が増していく「See」とエディ・ブリガティが正式メンバーから外れシンプルなスタイルに戻っていった「Search& Nearness」の4枚は世界初の CD 化で、これだけでも価値は十分である。ボーナス・トラックは私自身まったく聴いたことがなかった驚きの "A Beautiful Morning" Italian Version(イタリアでは "Corri Nel Sole" 。B面は "Sentirai La Pioggia" = "Rainy Day" )、そして "Groovin'" Italian VersionSpanish Version、さらに "Lonely Too Long"  "Come On Up"  "A Girl Like You"  "How Can I Be Sure"  "It's Wonderful" はシングル・ヴァージョンがボーナス・トラックで収録された。シングル・ヴァージョンは基本的にヴォーカル・トラックが異なっている場合もあるのだが、バッキングが同じだと分かりづらい。イントロに靴音のようなSEが入る "It's Wonderful" の方がその違いが目立つ。残念ながらハーモニカの吹き方が違う "Groovin'" のシングル・ヴァージョンだけは収録されなかった。(Rhinoのコンピ CD Summer Of Love Voleme 1」で聴ける)これでラスカルズに関しては後のコロンビア時代の2枚の内「Peaceful World」は既にソニーから CD 化されているので、本当の意味でのラスト・アルバム「The Island Of Real」が唯一未 CD 化で残るだけになった。アメリカでも「Groovin'」までの3枚しかオリジナル・アルバムが CD リイシューされていない中、すでに8枚が CD 化された日本の突出ぶりは見事だが、これもラスカルズの伝道師とも言える山下達郎氏の尽力のたまものだろう。本来、この CD ボックスは数多くの未発表曲とデモが収録される予定だったのに、それが全て消え、既発表のトラックだけになったのは、ラスカルズ側のギャランティの要求だった。山下達郎さんと電話で話した内容では、テンプテーションズのカバーとか未発表のものがかなりあり、それを上乗せするかわりに〇〇万とか大きな金額ではないのだが、契約を履行するためには受けつけられないとお断りしたそうだ。折り合えなかったのは残念だが、このボックスでも十分過ぎる内容である。(佐野/Special thanks to 萩原健太)
 
 








 



1998年6月3日水曜日

☆Tony Rivers : Tony Rivers Harmony Works 1971-1993 (EM/1003)

これはトニー・リヴァースが1971年から1993年までに発表、もしくは録音した作品を、トニー・リヴァース自身の意向も尊重して選んだ、まさにベストの作品集。
まずいきなりMagic Bus "Finders Keepers" にノックアウトだ。Salt Water Taffyの名曲を、原曲の雰囲気を壊さずにさらに厚いコーラスで包み、オリジナルを超えた。そしてテリー・メリチャーの知られざる作品 "My Mum" をビーチ・ボーイズ・スタイルで爽やかに聴かせてくれるIndiana。がらりとコンテンポラリーなサウンドに変わるのがトニー・マコウレイ作のRiver "A Little Thing Like Love" 。そしてロックン・ロールやバラードのナンバーなどが続いていくが、その中で気に入ったナンバーを紹介すると、70年代から今につながるブライアン・ウィルソンのサウンド作り、特にキーボードの使い方を見事に表現してみせたThe Brian Bennet Band "The Girls Back Home" 。バック・コーラスにはクリフ・リチャードも参加していた。C&WフレイバーのサウンドにハーモニーがマッチしたShine "Candy Girl" もいいし、トニー本人が書いた作品を追えばトニー・マコウレイのサウンドを彷彿とさせるSilver Liningのキャッチーな "Bye Goodbye" 、美しいバラード "I Wonder If Anything" 、ロック・ビートにメリハリの効いたハーモニーを乗せたHollywood Freeway "This Feeling Called Love" 、ソウルフルなRiverHollywood Freeway "You Are The Song" 、クリスマスの定番になっても不思議がない傑作 "Home For X'mas" とどれも素晴らしい作品ばかりだ。そしてトニーの自家薬籠中とも言えるアカペラは、フォー・シーズンズとは違う解釈を見せた "I've Got You Under My Skin" 、クリスマスを彩る "X'mas Magnificat" 、本 CD の最後を飾るビーチ・ボーイズの "And Your Dream Comes True" の3曲が収録された。こういった傑作が並ぶ中、トニーのアレンジの力を見せつけたFreshmen "Swanee River" も是非じっくりと聴いて欲しい。あのフォスターのスタンダード・ナンバーを、原曲がまったく分からなくなるほどの編曲とコーラス・アレンジで現代に別の曲として蘇らせた。(佐野)








 



1998年6月1日月曜日

☆Jigsaw : Broken Hearted(テイチク/20728)☆: I've Seen The Film,I've Read The Book(テイチク/20729)☆: Sky High(テイチク/20730)☆: Pieces Of Magic(テイチク/20731)☆: The Ultimate Collection(テイチク/20732)

VANDA24号で特集を組んだジグソーだが、さっそくここの権利を持つテイチクより、彼らの活動歴の中で最もソフト・ロック的なアプローチを持つ4枚のオリジナル・アルバムの世界初 CD 化と、コンピレーション1枚の5タイトルの CD 化が実現することになった。
ジグソーと言えば "Sky High" 、良くも悪くもこの1曲が際立ち、この曲1曲だけの一発屋と思っている人が多いと思う。しかしジグソーは68年にデビュー、71~2年には優れたプログレ・アルバムを2枚リリースし、この2枚のアルバムはイギリス本国でも100ポンド以上の値段が付けられるほど高い評価を受けたグループなのだ。そして73年にBASFに移籍して「Broken Hearted」、74年に「I've Seen The Film,I've Read The Book」をリリース、そして75年に "Sky High" が全米3位の大ヒットとなってようやく注目されたが、彼らには長い過去があり、素晴らしいアルバムを作り続けていた。「Broken Hearted」以降はグループの大半の曲を書くクライヴ・スコット=デス・ダイヤーのコンビが、キャッチーなメロディに効果的な転調、ヴァースをマイナー、コーラスをメジャーという構成、さらにメロディを対位法で重ねて優れたナンバーを次々と書き始め、 "Who Do You Think You Are" といった名曲を作り出していた。そして彼らの魅力を最大限引き出した "Sky High" でもようやく脚光を浴びたのである。この曲をフィーチャーしたアルバム「Sky High」も前2作以上の高いクオリティの曲が集められていたし、77年の「Pieces Of Magic」にも優れた楽曲が収められていた。コンピの方はソフト・ロックの視点で選曲した、ジグソーの魅力を集約した究極のベスト盤である。オリジナル・アルバムには未発表トラックを含むボーナス・トラックをそれぞれ7~8曲プラスし、コンピレーションにもオリジナル4タイトルの CD にはない優れた曲を選んであるので、どれも入手して欲しい。デビュー期のMusic Factory、MGM、FontanaPhilips時代のシングルとアルバムの曲も収録され、彼らの歴史のすべてが分かる究極の選曲になっている。オリジナルの4枚は6月21日、コンピレーションは7月下旬リリース予定。さらにこの4枚のオリジナルの後の米英での未発表アルバム3枚も、 CD 化が予定されている。これが実現するとジグソーの音源が、シングルB面や別テイク、さらに未発表曲などほぼすべてが CD 化されることになるので、期待してほしい。(佐野)
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☆Kinks:Live At Kelvin Hall(Essential/508)☆The Kinks Are The Village Green Preservation Society(Essential/481)☆Arthur Or The Decline And The Fall Of British Empire(Essential/511)☆Lola Versus Powerman And The Moneygorund Part One(Essential/509)☆Percy(Essential/510)



キンクスのボーナストラック入り待望のリイシュー第2弾。「Live At Kelvin Hall」はモノとステレオの2イン1。「The Village Green」は凄い。いつもの15曲仕様の後に、フランスなどでリリースされた12曲仕様盤が入った。後者には「Mr.Songbird」「Days」など曲が違うし、エンディングにブラバンの音が小さく入っている。「Arthur」は後半の10曲のシングルのみや未発表曲をプラス。「Lola」はオマケに「Lola」の中でCoca-ColaCherry-Colaで歌ったヴァージョンや「Apeman」や「Poweman」のデモが入った。サントラの「Percy」は最後にモノで計5、内「The Way Love Used To Be」は3テイク入った。(佐野)

Live at Kelvin Hallヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ<デラックス・エディション>(紙ジャケット仕様)アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡<デラックス・エディション>(紙ジャケット仕様)Lola versus Powerman & the Money-Go-Round, Pt. 1Percy