2026年10月3日土曜日

CREAM 「Wrapping Paper」

 高校生の頃、軽音学部に入ってギターをやっていた。限られた部員の組合せで結成された学生バンドならではの、メンバーの趣味嗜好がごちゃ混ぜになったセットリストはGLAYやSIAM SHADE、JUDY AND MARYと一緒にRainbowが並んでいて、ビートルズマニアの顧問は教室のドアを閉め切って「Revolution 9」を流し、チャールズ・マンソン・ファミリー事件について話している、色んなジャンルの音楽の情報が断片的に耳に入ってくる環境だった。

 ギターの上手い先輩の話を聞きかじってブルースが重要らしいと思っていた私は、2枚組のロバート・ジョンソンを買ってみて違いの分からない41曲を聴き続けたり、エリック・クラプトンが参加したバンドのアルバムを1枚づつ買ってみたりした。CREAMのベスト盤『The Very Best of Cream』は、そのうちの1つ。重厚感と同時にふわふわしていて、良いとか悪いとかいう感想もすぐには出てこない不思議な印象だったけれど、いつのまにか癖になって繰り返し聴いていたので思い出深い。 1曲目の「Wrapping Paper」はどことなく可愛いらしい感じもして、CREAMと聞いて思い浮かべるような楽曲ではないかもしれないけれど、今聴いても良いなと思う。ただジンジャー・ベイカーとエリック・クラプトンはこの曲を嫌っているとか。

『The Very Best of Cream』(Polydor – 523-752-2)


「Wrapping Paper」/ CREAM 

 ラッピングペーパー。包装紙の曲?当時から変わったタイトルだなと思っていたけれど、歌詞をちゃんと読んだことはなかった。昔の恋人が忘れられず、一緒に過ごした海岸近くの家に戻りたいと願っている歌のようだ。作詞者のピート・ブラウンは、もともとはビート・ポエトリーの活動をロンドンで行なっていた詩人。ビート・ポエトリーとはジャズに乗せて詩を朗読するパフォーマンスで、1940年代後半にアメリカで生まれた反物質主義、性の解放、東洋思想への傾倒などを特徴とするビート・ジェネレーションという文学運動が基になっている。イギリスではマイク・ホロヴィッツという詩人が1959年に創刊した芸術・文学雑誌『New Departures』に米英のビート詩人の詩を掲載し拡まっていったそうだ。

Pete Brown 

 1961年に開催されたビート・ポエトリーのショーのバックバンドにはグレアム・ボンドや、サックス奏者のディック・ヘクストール=スミスなどがいて、ピート・ブラウンはディック・ヘクストール=スミスを通じて、CREAMのドラムのジンジャー・ベイカー、ベーシストのジャック・ブルースと知り合い作詞を依頼される。当初はジンジャー・ベイカーとの共作のために声がかかったらしいのだけれど、あまり相性が良くなかったようでジャック・ブルースの共作パートナーとなる。デビュー曲「Wrapping Paper」の他、代表曲「White Room」や「I Feel Free」など、数多くの作詞を手がけている。ピート・ブラウンの歌詞は難解と言われ、簡単にひとつの解釈に辿り着くような詩世界ではないように見える。ビート・ポエトリーと同様にジャズの即興演奏のように書かれているのか、曲によっては本人も、書いた瞬間ではなく何年も経ってから出てきた言葉の意味に気づくことがあるそうだ。


参考・参照サイト

https://petebrown.co.uk/

https://thestrangebrew.co.uk/interviews/pete-brown/

https://faroutmagazine.co.uk/pete-brown-poet-of-the-british-invasion/


執筆者・西岡利恵
60年代中期ウエストコーストロックバンドThe Pen Friend Clubにてベースを担当。


【NEWS】
■クラウドファンディング実施中
15周年記念盤『15 Big Ones』The Pen Friend Club 



【LIVE】
■2026年11月7日(日昼)
水道橋Words
【Add Some Music To Your Day】

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【リリース】
■ 2枚組 NEWアルバム
『Songularity - ソンギュラリティ』発売中

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2026年9月23日水曜日

コンピレーション:『Circle Arts Compilation Vol.1』

”新しい出会いが生まれるコンピレーション”

 音楽家の木村円(キムラ・マドカ)が主宰するCircle Arts Recordsからレーベル初となるコンピレーションアルバム『Circle Arts CompilationVol.1』(Circle Arts Records/CAR-0001)が9月25日にCDのフィジカルと各サブスクで配信でリリースする。
 このコンピレーションアルバムには、日本国内にとどまらず、海外を含めた多彩なアーティストが参加しており、ジャンルや国境、そして世代を超えて音楽を通じた新たな出会いとつながりを生み出した内容になっている。弊サイトでデビュー時より高く評価しているSaigenjiをはじめ、以前紹介したdahliaが楽曲を提供しているので紹介したい。

収録曲 / 参加アーティスト
白昼夢 Hakuchumu / Saigenji
Love is gone / kokodsten
I'm allowed to feel / Perfect Circle Project
Golden Harvest / Long Island
Mellow Lofi Morning / Energy Flow
コバルトブルーの夢 / dahlia
remember (2026 Remaster) / ophill
Bubble / Li Li Radio
I already know / Richard John
Endless Talking / Think Different

 本作全体のプロデューサーである木村は全曲のマスタリングを手掛け、ソロユニットとしてPerfect Circle Project、Energy Flow、Think Differentの3形態と、ボーカリストAKIKO K.とのプロジェクトLi Li Radioで参加の他、3組で作曲とアレンジ、演奏にも関わっており、実に7割の収録曲のプロダクションに深く関わっている。そのため”木村円ワークス集”としての側面も持っており、ジャンレスで多彩な彼の音楽家としての才能を堪能できる。

 ここでは弊サイトのカラーも考慮し、筆者が特に気になった歌物の収録曲を解説する。
 冒頭の「白昼夢 Hakuchumu」はSaigenjiのソングライティングによる書き下ろしのボサノヴァで、昨年11月の「NOVA ERA」以来に正式発表された新曲である。Saigenjiのギターの弾き語りと木村のLess is moreイズムなアコースティックピアノの少数編成でそれだけで申し分ないのだが、さらに木村のアレンジによるプログラミングされたストリングスが加わることで、豊かな色彩のサウンドが生まれている。まるでクリード・テイラーが設立したCTIレコード作品における、クラウス・オガーマンのストリングス・アレンジに通じて、正に美しい白昼夢を見ているようである。なおSaigenjiは現在新しいソロアルバムのプリプロに入ったようなのでそちらも期待している。

Saigenji

 続くkokodsten(ココディーエステン)の「Love is gone」は、ソングライティングとボーカル兼ギターのYuzi KobayashiとベースのKazumasa Oguriのユニットによる提供曲で、その編成や音像からスコットランドのブルー・ナイル(The Blue Nile)を彷彿とさせていて、筆者も好みのサウンドである。イントロからアナログ・シンセサイザーの名器プロフェット5で作ったようなキック(バスドラム)の音がしているのだが、驚くべきことに彼らは、ギターやベースなどの生楽器以外は、Nintendo DS専用音楽ソフトKORG DS-10のみを使用して曲作りをしているらしい。このようにローバジェットながら楽曲として優れているのは、エンジニアリングを含めて、細部までオリジナリティなサウンドを追求しているからだろう。

 木村のソロユニットPerfect Circle Projectは、かつてPerfect Circle名義で活動し、ソフトロックやボサノヴァの楽曲を発表していた。本作では「I'm allowed to feel」を提供しており、作詞とボーカルにはLi Li Radio名義で本作に参加するAKIKO K.が担当している。クロディーヌ・ロンジェに通じるスローバラードのソフトロック調で、サビの着地点にはロジャー・ニコルス作曲の「Let Me Be The One」(ポール・ウィリアムス、カーペンターズ他)に通じる。木村はアコースティックピアノとストリングス・アレンジを施しており、AKIKO K.のアンニュイなボーカルを引き立ている。ストリングスの配置やヴォイシングをよく工夫されていて完成度は高い。
 アート系アーティストやセラピストとしても活動し、韓国にもファンを多く持つシンガーソングライターKaoriのソロユニット” dahlia”は、9月11日に配信リリースしたばかりのシングル「コバルトブルーの夢」を本作に提供している。Kaoriの作詞に木村が作編曲したボサノヴァで、ギターにはkokodstenのYuzi Kobayashiが参加している。木村はここではエレピとシンセサイザー、ストリングス・アレンジを担当し、Kaoriのアンニュイなウィスパーボイスをフューチャーしてサウンドをよく演出している。
Dahlia

 前出のLi Li Radio名義では「Bubble」を提供しており、AKIKO K.の作詞とボーカル、木村の作編曲及び演奏と分担している。Perfect Circle Projectとのサウンドの違いは、よりスウィートなメロディーラインをはじめ、中国語の歌詞とスペーシーなシンセサイザーを多用したサウンドの構築だろう。AKIKO K.が歌う中国の歌詞とこのサウンドが妙にマッチしていて、よく計算されていると感じた。
 英国のシンガーソングライター、Richard Johnは自身のソングライティングによる「I already know」を提供し、ストリングス含めアレンジは木村が担当している。Richardの声質はジェームス・テイラーに通じるバリトンボイスで、曲調やサウンドからもAORの匂いがして本作の中では異色かもしれないが、筆者は非常に好みである。
 とにかく特徴あるRichardのボーカルは耳に残り、そのソングライティング・センスはアメリカのシンガーソングライターからの影響を強く受けているが、自身が弾くエレクトリックギター・ソロの音色にはデヴィッド(デイヴ)・ギルモアの匂いもして、英国人としての感覚も残しているようだ。この曲でも木村はアコースティックピアノやアナログ系のモノシンセなどキーボード類の他、ドラム・トラックとストリングスのプログラミングまで担当して活躍している。

木村 円

 最後に本作の総評として、自らも音楽性の高いミュージシャンであるプロデューサー、木村円のセンスにより、各曲の細部にまで拘りを感じされるコンピレーションアルバムに仕上がっていると感じた。筆者の解説を読んで興味をもった読者は、下記の公式サイトから是非予約し入手して聴いてほしい。

◎CD版:12曲 / 300枚限定・シリアル番号入り
 CD限定:Saigenji「白昼夢 Hakuchumu(Alt ver.)」、
       dahlia「コバルトブルーの夢(Alt ver.)」 
◎CDはコンピレーションの購入は公式サイトのこちらから


(テキスト:ウチタカヒデ)

2026年9月19日土曜日

ツチヤニボンド:『Irie/坂道』

"高野山発★無国籍レゲエ"

 土屋貴雅のソロ・プロジェクト、ツチヤニボンドが10月末(当初の9月初旬から延期)に、7インチ・シングル『Irie/坂道』(JET SET/JS7S514)をリリースする。「Irie」と「坂道」はいずれも2025年に発表されていた配信シングルで、カップリグの「坂道」はシンガーソングライター折坂悠太作のカバーである。 

ツチヤニボンド(土屋貴雅)

 この2曲を含め、昨年7月より定期的(当初は月間)に新曲配信しており、これまでに「ユグドラシルのフールたち」(2025年7月)、「Loco Mundo」(同年8月)、「Irie」(同年9月)、「ブランコ1」(同年10月)、「坂道 (Cover)」(同年11月)、「Bet&Draw」(2026年1月)、「ブランコ2」(同年2月)、「Nothing is not」(同年3月)の8曲を発表していた。そしてこの曲群の中から今回7インチ用として選ばれたのが、「Irie」と「坂道」で、フィジカル作品としては、2021年7月の『にっぽん昔ばなし / Fall In Love』以来実に5年振りとなる。
 高野山在住の鬼才音楽家で治療家の土屋貴雅によるツチヤニボンドは、2007年のデビュー時「はっぴいえんど×トロピカリズモ」と称され、オルタナティブという言葉だけでは括れない幅広い音楽性を持っており、本作でも唯一無二のサウンドを展開している。レコーディングのエンジニアリングとミックス、マスタリングは、折坂悠太など多くのアーティストを手掛けて信頼を得ている中村公輔が担当している。


 
Irie / ツチヤニボンド

 ここでは本作の解説をする。タイトルの「Irie」は土屋の作曲と、ソロユニットPADOKやツチヤニボンドにも参加した渡部牧人の作詞による新曲で、一聴するとレゲエ・ナンバーだが、主旋律や歌唱スタイルには琉球民謡からの影響がして、左チャンネルのエレキギターのリズム・パターンはサンバと一筋縄ではいかない。パーソナルは最近の彼らのバンド形態と同様に、土屋がボーカルとベースを担当し、ドラムには波照間将、パーカッションには弊サイトでのベストプレイ企画でお馴染みの増村和彦、ギターには本日休演の岩出拓十郎が参加している。
 プレス資料によるとコロナ禍に一発レコーディングに近い形で制作されたということなので、前7インチ・シングルのカップリグ「Fall In Love」と同時期のセッションなのかも知れない。渡部による歌詞は、タイトルの「Irie(アイリー)」というパトワ語(ジャマイカン・クレオール語)のポジティブさに、古典文学的ワードの響きがビートに共鳴して実に心地良いのだ。


 
坂道 / ツチヤニボンド

 カップリグの「坂道」は前文の通り、シンガーソングライター折坂悠太作のカバーである。オリジナル(『平成』収録/2018年)は70年代ロックマニアなら一聴して分かると思うが、ハース・マルティネスの「Altogether Alone」(『Hirth From Earth』収録/1975年)における変則ボサノヴァのリズムとサウンド(間奏のアコースティックギター・ソロやドラム・フィルなどアレンジの細部まで)をオマージュしている。またその主旋律の導入部は、小学校で音楽の教材にもなっていた「切手のないおくりもの」(作詞作曲:財津和夫/1977年)を合唱していた昭和世代なら懐かしさを覚えただろう。それから約半世紀を経た令和の現代で音楽活動をしている、この曲を折坂のオリジナルとして筆者は高く評価している。唱歌の伝承にも似た、エバーグリーンな楽曲にはこのような愛溢れるオマージュが必要だと考えるのだ。
 ここでのカバーは、演奏やプログラミングの全てを土屋が一人多重のワンマン・レコーディングしており、ウォータードラムのサンプリング音やアナログ系トーンのシンセサイザーを中心とした音数が少ないバックトラックに、エレクトリックギターのアルペジオを響かせた、全く異なるアレンジとサウンドで仕上げている。リバーブを効かせてダブルトラックにした土屋のボーカルもこの深い音像にマッチして、ツチヤニボンド音響派に強く支持されるだろう。

 15年前「夜になるまでまって」との衝撃的出会い以来、筆者は土屋貴雅とその仲間達が作るツチヤニボンド・サウンドに魅了され続けているので、今回の5年振りのフィジカルでのリリースは非常に嬉しい。
 本作もプレス数が限られているので、筆者の解説を読んで興味をもった音楽ファンは、リンク先のネットショップで早期に予約して入手しよう。

JETSET:予約はこちらをクリック 

(テキスト:ウチタカヒデ)

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