2026年5月17日日曜日

TOYONO:『夢の続き』

ネオシティポップへ リオからの回答

 和製ブラジル音楽シンガー・ソングライターのTOYONOが、音楽活動デビュー25周年記念を飾る今年、7thアルバム『A Delicadeza do Instante 瞬間の繊細さ』からの先行シングルとして、竹内まりやの『夢の続き』(unchantable records / UCT-065)をカバーして、アナログ7インチで5月27日にリリースする。


 前作『黒髪のサンバ』(VICL-64639)から、実に10年振りとなるニューアルバム『A Delicadeza do Instante』には期待が高まるばかりだが、その完成度を計り知れるのが、この7インチ『夢の続き』と言えるだろう。
 オリジナルは竹内まりやの15thシングルとして1987年7月にリリースされた、映画『ハワイアン・ドリーム』(監督:川島透)の主題歌で、竹内のソングライティング、夫である山下達郎がプロデュースとアレンジを務めていた。同年8月の7thアルバム『REQUEST』にも収録され、同アルバムはキャリア初のミリオンセラーとなり、竹内の代表作となったのは弊サイト読者ならご存知だろう。「夢の続き」はその重要曲とされるが、後の2010年代中期のシティポップ・リバイバルで世界的に注目された竹内の「プラスティック・ラヴ」(1984年4月)と同様、この曲もクラブDJに人気が高く、今回の7インチシングルにもAKAKAGEことDJ兼音楽プロデューサーの伊藤陽一郎による、フロア仕様リミックス・ヴァージョンをカップリグ収録している。因みに伊藤は『黒髪のサンバ』に収録された「brasilian colors」の作曲者でもあり、以前からTOYONOサウンドに貢献していた。

マルコス・スザーノ
(Marcos Suzano)

 日本においてブラジリアン・ミュージックに大きく貢献してきたTOYONOが、シティポップ・ナンバーの中でも人気の「夢の続き」を、リオデジャネイロ在住の現代MPBプロデューサー兼マルチプレイヤーのギリェルミ・ジェ(Gilherme Gê)と、オンラインにより共同で再構築した結晶がこのカバー・ヴァージョンなのだ。
 そもそもTOYONOにジェを推薦したのは彼女の師匠である、世界最高峰のパンデイロ(ブラジリアン・タンバリン)奏者のマルコス・スザーノ(Marcos Suzano)で、今回のリオ・レコーディングにも参加しているのが嬉しい。その他にもジェの音楽仲間のクラウディオ・インファンテ(Claudio Infante)がドラム、マルセロ・レゼンデ(Marcelo Rezende)がコーラスで加わっている。
 1990年代にパンデイロ奏法に革命を起こしたスザーノについては説明不要かも知れないが、日本の音楽界にも信奉者が多く、THE BOOMの宮沢和史から山崎まさよしなど著名アーティストにまでその影響力は及んでいる。なおスザーノがギタリストのレニーニとのユニットで1993年にリリースした『Olho De Peixe(魚眼)』は一家に一枚の必聴アルバムであることを付け加えておく。

TOYONO「夢の続き - Album Original version -」Teaser

 原曲では山下が好んで聴いていた、当時のCameoやIsley Jasper Isley等からの影響が強いプログラミングされたリズムトラックを主体とするサウンドで、サビは後に牧瀬里穂に提供した「Miracle Love」(1993年)などに発展していく”竹内まりやイズム“な作風だったが、ここでのカバー・ヴァージョンではBPMを落として、ジェによるアコースティックギターやエレクトリックピアノ、クラヴィネットの刻みに、スザーノの各種パーカッションとインファンテのドラミングが加わって、よりヒューマンなグルーヴになり風通しのよいサウンドになった。これはブラジリアン・ミュージシャンによるリオ・レコーディングのなせる業だろう。
 主役であるTOYONOのボーカルは東京のNK SOUND TOKYOでレコーディングされ、歌詞のテーマである不毛の恋愛からポジティブに立ち直ろうとする姿を、表現力豊かに一級の歌声で聴かせている。
 カップリグのAKAKAGE's Back to 90's Remixヴァージョンでは、シェイク系のややアップテンポなリズムトラックにアダプトされ、90年代ハウスミュージック風のピアノは、大阪を拠点に活動するキーボーディストの岩井ロングセラー(Iwai Longseller)がプレイして、クラブ仕様のサウンドに仕上げている。この7インチのアートワークにも触れるが、なんと、このリミックスをしたAKAKAGE=伊藤陽一郎自身が手掛けているおり、その多才さで八面六臂の活躍をしている。




 2026年にソロデビュー25周年を迎えたTOYONOは、その歩みと新たな挑戦を刻むリオ制作の記念アルバム『A Delicadeza do Instante 瞬間の繊細さ』を携え、5月23日にTOKYO FMホールにてアニバーサリー公演を開催する。
 リオ音楽の革新を牽引し、世界へ響きを広げてきた名手であり、デビュー前からTOYONOを導いてきた世界的パーカッショニストのマルコス・スザーノが、この公演のためだけに来日する。

TOYONO 25 周年記念公演
feat.マルコス・スザーノ(from Rio)
〜ブラジルへの憧れ、歌と鼓動〜

ソロデビュー25 周年を迎えた
ブラジル音楽シンガー・ソングライターTOYONO
その歩みと新たな挑戦を刻む記念アルバムを携え
デビュー前から彼女を導いてきた世界的パーカッショニスト
マルコス・スザーノをブラジルより迎え
TOKYO FM ホールでアニバーサリー公演を開催する。

【出 演】

TOYONO (vocal)

藤本一馬(guitar) / 榊原大(piano) / 宮地遼(bass) / 沼澤尚(drums)
/ maiko(violin) / 橋本歩(cello)

スペシャルゲスト:マルコス・スザーノ(percussion) 

【日 時】2026 年 5 月 23 日(土)

開場 16:30/開演 17:00

【会 場】TOKYO FM ホール

【料 金】全席指定 8,000 円(税込)

【予約】キャピタルヴィレッジ予約サイト:こちらをクリック

【主 催】TOKYO FM

【企画制作】ゲンプランニング/キャピタルヴィレッジ

【後 援】駐日ブラジル大使館/富士急行/調布 FM

【お問合せ】キャピタルヴィレッジ
Tel.03-3478-9999(平日 12:00~17:00)



TOYONO・プロフィール
OL時代に耳にしたブラジル音楽への想いが高まり、歌い手の道を志して単身でリオデジャネイロへ渡る。帰国後、東京を拠点に本格的な音楽活動を開始。
有名DJやブラジルを代表するアーティストとの作品を多数発表し、2016年ビクターエンタテインメントよりメジャーデビュー。
2018年よりFM番組「TOYONO moda brasil」のパーソナリティを務め、ブラジル音楽の魅力を広く発信。深い造詣と語学力を生かし、ブラジルの著名アーティストへ通訳を介さずポルトガル語でインタビューを行うなど、日本とブラジルの音楽的架け橋として活動している。
さらにナレーションや執筆など多方面でも才能を発揮し、新しいブラジル音楽シンガー像を確立している。代表曲「トレス・マリアス」はJAL国際線機内放送に採用されるなど高い評価を得ている。
TOYONO・オフィシャルサイト:https://toyonomoderno.jp/

※TOYONO 『夢の続き』 disk union 予約:こちらをクリック

 (テキスト:ウチタカヒデ/協力:グルーヴあんちゃん

2026年4月30日木曜日

コンピレーション:『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』


 ムーンライダーズのキーボーディストで同バンドきってのメロディーメーカーだった岡田徹氏のトリビュート・アルバム『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』(Headland Records / HEAD-0001)が4月23日にリリースされたので遅ればせながら紹介したい。 
 惜しくも2023年2月14日に逝去した岡田氏は、前進バンドのはちみつぱい時代からムーンライダーズでリーダーの鈴木慶一氏を支えていたメンバーとして知られ、多くの名曲を残してきた。またプロデューサーやソングライター、キーボーディストとしてバンド外での多くの活動も知られており、ライダーズ系譜の若手バンド、アーティストの育成でも貢献をしてきた。彼が手掛けた中ではPSY・S(サイズ)やパール兄弟、Nav Katze、野田幹子、矢野有美(元シャワー)。メジャー系ではガールズバンドとしては国内で最初に成功したプリンセス・プリンセスの名付け親としても知られおり、その影響力は多岐に渡る。

岡田 徹 

 このような幅広い岡田氏の交流関係から、本作にも世代を超えた多くの人材が参加しており、『MODERN MUSIC』(1979年)や『カメラ=万年筆』(1980年)、『マニア・マニエラ』(1982年)に歌詞を提供しボーカルやコーラスでも参加して、この時期ライダーズの準メンバーとも呼べる存在だった佐藤奈々子を筆頭に、鈴木慶一がプロデュースしたコンピレーション・アルバム『Bright Young Aquarium Workers (陽気な若き水族館員たち)』(1983年)にPortable Rockのメンバーとして参加し、『Don't Trust Over Thirty』(1982年)にコーラスで参加した野宮真貴のライダーズ人脈。
 岡田がファーストから初期アルバムを手掛けたシンガーソングライターの野田幹子、同様に岡田がデビュー時のアルバムやEPをプロデュースしたPSY・SのCHAKA、ガールズ・ニューウェイヴ・バンドのNav Katze、読者モデルからガールズバンドに転じたChiroline(チロリン)の初代リーダーの島崎夏美まで参加している。
 若手では元地下アイドルで現在はライター業の傍ら、音楽ユニット”僕とジョルジュ”の活動をしている姫乃たま、富士山ご当地アイドルグループで、井出ちよのソロユニットというべき3776 (みななろ)も参加し、この2名は2016年の岡田のセルフカバー・ソロアルバム『Tの肖像』でフューチャー・ボーカリストでもあった。更に岡田が生前手掛けようとしていた逸材として、アニメ映画『天気の子』(新海誠監督)のテーマ曲歌唱や映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)の演技で新人俳優賞を受賞した、女優兼歌手の三浦透子まで加わっており、全曲のリードボーカリストが、女性陣というのも注目である。

 本家ムーンライダーズからはリーダーの鈴木慶一をはじめ、武川雅寛、白井良明、鈴木博文、夏秋文尚と、実質的メンバーであるスカートの澤部渡、”想像力の血”の佐藤優介という現在のフルメンバーに加えて、岡田が参加していたユニットのLife Goes On、ya-to-i(山本精一との)、CTO LAB.のメンバー達も演奏やアレンジでそれぞれ参加するという、豪華な参加者により、愛に溢れる稀有なトリビュート・アルバムに仕上がっているのだ。 そして本作を飾る装丁面では、一際目を惹くペガコーン(ペガサス+ユニコーンのミックス)のジャケット画は、岡田の立教大学時代からの盟友で、ペガサスをモチーフとした一連の作品で知られるイラストレーターの真鍋太郎氏の描き下ろしである。

1.ウェディング・ソング / 岩下清香 with ROSE-UNLIMITED 
 (鈴木慶一とムーンライダース『火の玉ボーイ』1975年
2.Try Again / 野田幹子 with 武川雅寛、夏秋文尚
  (アグネス・チャン『Mei Mei いつでも夢を』1976年)
3.週末の恋人 / 佐藤奈々子 with 鈴木博文、佐藤優介
4.さよならは夜明けの夢に / 姫乃たま with 山本精一
5.ビューティコンテスト / 野宮真貴 with 鈴木慶一
  (以上3曲:ムーンライダーズ『イスタンブール・マンボ』1977年)
6.いとこ同士 / Nav Katze(ナーヴ・カッツェ) 
(ムーンライダーズ『ヌーベル・バーグ』1978年)
7.いつの日か Happy End / 島崎夏美(Chiroline) with CTO LAB. 
 (杏里『哀しみの孔雀』1981年)
8.Good Nightは嫌い / 3776 (伊藤つかさ『Osusume = オススメ』1984年)
9.(チロリンの)星に願いを / CHAKA with 白井良明 
 (Chiroline『Chiroline - For Camp Fire Use Only』1986年)
10.9月の海はクラゲの海 / 覚和歌子 with Life Goes On
 (ムーンライダーズ 『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』1986年)
11.途中にしてね / テノリエリ with 黒田英明
 (Chiroline「途中にしてね」シングル 1987年)
12.涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない / Pyokn
 (ムーンライダーズ 『最後の晩餐』1991年)
13.硝子MOON / ジーニアス (須藤まゆみ『電影少女OST』1992年)
14.空の名前 / 三浦透子 with 澤部渡(スカート) 
 (コミック・イメージアルバム『君だけをみつめてる Scene2』1997年

 
岡田徹(ムーンライダーズ)トリビュート・アルバム
「Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA」トレーラー 

 ここでは先月末に本作の音源を入手し、80年代にライダーズを愛聴していた筆者が収録曲の中から特に気になった曲を厳選して詳細解説していく。
 「Try Again」は、70年代前半に人気絶頂だったアイドル歌手のアグネス・チャンが、海外留学のため一旦引退する直前の1976年4月にリリースされた7THアルバム『Mei Mei いつでも夢を』に収録されており、レコーディングには前年からライブのバッキングを務めていたムーンライダーズが全面参加していた。岡田が作曲してアグネス自身が作詞したこの曲はオリジナルからレイドバックしたサウンドで、アイドルからシンガーに脱皮しようとする姿が見て取れる。シンガーソングライターの野田幹子が美しいボーカルを聴かせる本作のヴァージョンでは、ライダーズから武川がバイオリン、夏秋がドラムで参加し、アレンジとその他の楽器演奏とプログラミングをマイクロスターの佐藤清喜が担当している。オリジナルの雰囲気を大切に踏襲したそのサウンドは、アメリカン・ルーツ・ミュージックの芳醇な香りがするエヴァーグリーンな名曲で、作曲家としてのキャリア初期から岡田が円熟していたことが理解出来る。 
 続く「週末の恋人」はライダーズ提供曲の中では珍しく岡田自身がリードボーカルを取った曲で、上品な声質を持つシンガーの大野方栄とデュエットして、フランス系カナダ人シンガーソングライターのルイス・フューレイに通じるヨーロピアンなストリングスに変則的なボサノヴァのリズムを取り入れたサウンドだった。このサウンドとハース・マルチネスを彷彿とさせる岡田のだみ声のコントラストが極めて欧州映画的で素晴らしく、ライダーズ・ベストソング10の1曲に選ばれると思う。ここではこの曲を作詞した鈴木博文のベースと佐藤優介のピアノのバッキングのみで、佐藤奈々子が一人でアンニュイに歌い、サビで優介がコーラスを付けている。やはりサビ前のフックとなる「もう一度あなたの肩にもたれたいわ いつまでも 素敵でいてね・・・」のパンチラインは、このカバーヴァージョンでも光っている。また今回の参加シンガーの中でライダーズと関係性が最も古い佐藤奈々子がこの曲を取り上げたのは意義深いと考える。

鈴木慶一氏、佐藤奈々子氏サイン入り
『Radio Moon and Roses 1979Hz』
アナログ盤(2022年 / 管理人所有) 


 続く「さよならは夜明けの夢に」、「ビューティコンテスト」も前曲同様『イスタンブール・マンボ』収録で、オリジナル曲順通り収録されおり、同アルバムが岡田の代表曲を最も収録していたということだろう。曲順を決定させた本作プロデューサーの川村岬と岡田の愛娘である岡田紫苑 (little moa)の拘りと深い愛を感じさせる。
 前者のオリジナルはこれまた鈴木博文の作詞で、アコースティックピアノのコードワークにエレピや複数のアナログシンセのオブリガード、リードボーカルを取る鈴木慶一の多重録音によるコーラスが入る、中期10cc風のサウンドがブリリアントだった。後の1981年には岡田自身によるリアレンジでシンガーの杏里が『哀しみの孔雀』で取り上げている。ここでは元ボアダムスでオルタナティブ・ギタリストの山本精一、彼とのユニットPARAに参加するピアニストの西滝太、多くの前衛ユニットに参加するギタリストのmoooting(むうとん)がフルートで参加している。音数の少なさはオリジナルを踏襲し、西によるドビッシー風のイントロからこの曲のもの悲しさを表現しており、本編の”less is more”なサウンドも姫乃たまの無垢なボーカルを引き立てた名カバーと言える。
 後者のオリジナルは無国籍且つユニークなパーティソングで、同じく作詞:鈴木慶一とのコンビによる「マスカット ココナッツ バナナ メロン」(『Moon Riders』1977年)から連なるライダーズ・カラーを引き継いでいた。ここではその鈴木慶一がリアレンジしエレキギターと全てのプログラミングを担当し、チャイニーズ風味を強調させたサウンドに仕上げている。ボーカリストには鈴木がPortable Rock時代にプロデュースし、その後ピチカート・ファイヴの活動で成功した野宮真貴が迎えられている。野宮の独特な歌唱法と声質によって、ソフィスケイトされたお洒落ポップスに生まれ変わったのはさすがである。

 そしてライダーズ及び岡田の代表曲として、多くのファンが挙げる「いとこ同士」が本作でも取り上げられている。タイトルや鈴木博文が書いた歌詞のインスパイア元は、1959年ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しフランスのヌーベル・バーグ(Nouvelle Vague)映画の代表作、クロード・シャブロル監督『いとこ同士』である。またオリジナルではシンセサイザー・プログラマーの第一人者だった松武秀樹によりローランド社製マイクロコンピューター・ミュージック・コンポーザー”MC-8”(初期YMOでも使用)が導入され、ピンポン・パンニングする独特なシーケンス・サウンドが斬新だった。この松武をライダーズの鈴木慶一に紹介したのは、恐らくYMO結成前後の細野晴臣ではないだろうか。細野はこの曲ではスティール・ドラムの生演奏で参加しているのが興味深い。この様に革新的映画のモチーフと当時最先端のミュージック・テクノロジーを融合させた、鈴木と岡田のアイディアには脱帽するしかない。
 ここではNav Katzeがオリジナルのアナログシンセのサウンドをデジタルシンセに置き換えて、シャープでよりヨーロピアンなテクノ・サウンドでリメイクしている。長年彼女達の共同プロデューサーとしてエンジニアリングやプログラミングを務めている杉山勇司とメンバーが構築したトラックは、山口美和子が意図的にフラットにしたボーカルとの相性が良く、ヌーベル・バーグ映画のイメージを現代的に解釈して、このトリビュート・アルバムをより格調高くしてくれた。

 筆者がライダーズの最高傑作と考えるアルバム『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』から「9月の海はクラゲの海」が取り上げられたのは非常に嬉しい。当時パール兄弟のボーカリストだったサエキけんぞう(佐伯健三)による作詞で、サエキはハルメンズ時代の81年から作詞家としてライダーズに関わっていた。オリジナルではドイツ製デジタル・サンプリング・シンセのPPG Wave 2.3 WAVETERMを全面的に使用し、サンプリングされたメンバーの声をモザイクの様にコーラスで配置させたサウンドが新鮮だった。
 本作では岡田が1995年に結成したアコーディオン・テクノバンド、Life Goes Onが作詞家兼シンガーソングライターの覚和歌子をボーカリストに迎えてアコーディオンバンド・アレンジで取り上げている。因みに覚は、蓮田ひろかのペンネーム時代を含め80年代後期のアイドル作品や沢田研二などに提供して、ライダーズ・メンバーの外部提供曲の作詞家としても度々関わっている。Life Goes Onには元ヴァリエテの鶴来正基、元カーネーションの棚谷祐一、元ZABADAKの上野洋子等実力派キーボーディスト達が多く参加して非常に音楽性が高い。この曲はライダーズ史上屈指の美しいメロディーを持ち、どことなくポール・マッカートニーの匂いをさせていたのだが、鶴来のバンド・アレンジや上野のコーラス・アレンジ、元々ボーカリストではなかった覚の純朴でナチュラルな歌唱によってスコティッシュ・フォーク風となり、正に原点回帰して生まれ変わっている。これこそがこの曲の完成形として、岡田が求めていたカタチなのかも知れない。 

 岡田徹氏サイン入り
カセットブック月光下騎士団
1984年 / 管理人所有)

 最後に繰り返しになるが、本作は岡田徹氏を敬愛する関係者が多く関わって、愛に溢れる稀有なトリビュート・アルバムに仕上がっているので、筆者のレビュー記事を読んで興味を持った音楽ファンは速やかに入手して聴いて欲しい。いや聴くべきだ。

(テキスト:ウチタカヒデ

2026年4月21日火曜日

青野りえ:『フィナーレを待ちながら』

“青野りえのTokyo Tendaberry”
 
 シンガー・ソングライターの青野りえが、ニューシングル『フィナーレを待ちながら』(aonote / FLY HIGH RECORDS)を5月4日にデジタル配信と自主制作CDでリリースするので紹介したい。


 青野にとって、昨年6月のシングル「恋する惑星」や2023年10月に発表したサード・アルバム『TOKYO magic』以来となるこの新曲は、以上の作品をプロデュースした作編曲家の洞澤徹とのThe Bookmarcs(以降ブクマ)や、昨年3月にファースト・ソロアルバム『Strange Village』をリリースした近藤健太郎が提供した曲に青野自身が作詞している。
 青野の作詞、近藤の作曲というこのソングライティング・チームは、昨年12月5日にリリースされた声優兼シンガーの藍田理緒にシングル曲「青いカケラ」(共同サウンドプロデューサー:高口大輔)を提供したのが初組合せで、本曲では近藤の『Strange Village』同様、彼と及川雅仁によるアレンジ、サウンド・プロデュース作品となっている。同アルバムの世界観に近いこの「フィナーレを待ちながら」だが、これまで鬼才SSWの関美彦やブクマの洞澤が手掛けてきた青野サウンドのカラーとは異なるのが非常に興味深く、曲調やサウンドを含めて、彼女の新境地となったのは言うまでもない。

 そもそもこの曲が誕生したきっかけを知る数少ない中の一人である筆者が解説するが、原曲は近藤が自身のバンドthe Sweet Onions、または『Strange Village』などソロ用にストックしていた、ピアノとスキャット・メロディだけのデモ曲「Circle」である。ポール・マッカートニーの「Maybe I'm Amazed(恋することのもどかしさ)」に通じるその曲は、この段階でも既にブリリアントであったが、そんなダイヤの原石を見抜き、歌詞をつけて歌いたいとオファーした青野の審美眼はさすがである。青野はその原曲にローラ・ニーロやキャロル・キングなど70年代初期~中期の良質なシンガー・ソングライターの楽曲をイメージさせていたという。彼女が書いた歌詞もそんな曲調から共鳴されたピュアでナチュラルな心情を描いたラブソングに仕上げており、巧みな歌声で豊かに歌い上げている。 
 アレンジ的にはシンガー・ソングライター系サウンドということで、必要最低限の楽器配置をした引き算の美学を心掛けていて、適所で光るプレイをしている。近藤がアコースティックピアノとオルガンにコーラス、及川は本職のベース以外にエレキギターとドラムのプログラミング、コーラスを担当して、この曲を演出している。特に間奏の及川の「Maybe I'm Amazed」に通じるギター・ソロやブレイク後に入る近藤のゴスペル風ハモンドオルガンの響きなど聴きものだ。

 
青野りえ ニューシングル 
「フィナーレを待ちながら」Teaser

 なおこの 「フィナーレを待ちながら」の自主制作CDは、4月29日東京・渋谷gee-geにて開催されるThe Bookmarcs『BLOOM』のレコ発ライブ・イベント「FLY HIGH RECORDS PRESENTS THE BOOKMARCS “BLOOM” RELEASE PARTY」の会場でいち早く販売するので、筆者のレビューを読んで興味をもった音楽ファンは是非会場にも足を運んで手にしてほしい。
◎「フィナーレを待ちながら」配信リンク:こちらをクリック


The Bookmarcs
4thアルバム『BLOOM』
レコ発ライブ4/29(水・祝)
12時〜渋谷gee-ge. にて開催決定

FLY HIGH RECORDS PRESENTS
THE BOOKMARCS
 “BLOOM”RELEASE PARTY

2026年4月29日(水・祝)
会場 : 渋谷gee-ge @shibuyageege
時間 : OPEN 12:00 START 12:30
料金 : 前売り4000円(税込)+1d(700円)
           当日 4500円(税込)+1d(700円)

GUEST MUSICIANS :
KARIMA(Opening Act)
美音子Fujishima
青野りえ
藍田理緒

The Bookmarcs BAND MEMBER :
Drums : 足立浩
Bass : 北村規夫
Key : 佐藤真也

※前売り予約特典として未発表音源CD-Rプレゼント

チケット予約 :


【未発表音源入り限定CD-Rを先行販売】
ニュー・シングル「フィナーレを待ちながら」リリースを記念して、
未発表音源入り限定CD-Rを販売します。
ライブ会場と青野りえの通販サイトのみの限定販売です。

発売日:2026年4月29日
収録曲:「フィナーレを待ちながら」+未発表音源3曲入り(CD-R)
価格:1,000円(税込)
通販:【青野りえのサインCD屋さん】https://aonorie.booth.pm/
東京・渋谷gee-geにて開催される「FLY HIGH RECORDS PRESENTS THE BOOKMARCS “BLOOM” RELEASE PARTY」の会場にて
先行販売します。
青野りえはゲスト出演いたします。


【関 連 記 事】 






◎『TOKYO magic』リリース・インタビュー







◎『Live in Tokyo 2022』レビュー





◎『Rain or Shine』リリース・インタビュー






【青野りえ★プロフィール】
都会的なメロウ感と、無垢な透明感を併せ持つ歌声のシンガー。富山県出身。
1996年、亀渕友香率いるゴスペル・グループ“VOJA”のメンバーとしてデビュー。沖井礼二(TWEEDEES/ex.Cymbals)のソロ・プロジェクト“FROG”にゲスト・ヴォーカルとして参加。 
またコナミ「pop'n music」「beatmania」等のゲーム音楽での歌唱や、資生堂、ユニクロの CMナレーション等、様々なレコーディング、ライヴ、TV、CM で活動している。
2017年、関美彦プロデュースによる1stアルバム『PASTORAL』(ヴィヴィド・サウンド)をリリース。
2022年、同じく関美彦プロデュースによる2ndアルバム『Rain or Shine』(FLY HIGH RECORDS)をリリースし、ジャパニーズAOR/シティ・ポップ・ファンの間で話題に。
さらに2021年にリリースした配信シングル「Never Can Say Goodbye」(洞澤徹プロデュース)が話題となり、2023年11月、3rdアルバム『TOKYO magic』 をFLY HIGH RECORDSからリリース。
2025年6月6日、洞澤徹プロデュースによるデジタル・シングル「恋する惑星」をリリース。
2025年12月5日、藍田理緒のデジタル・シングル「青いカケラ」(作詞:青野りえ/作曲:近藤健太郎)リリース。
そして新たなアルバムが期待される中、2026年5月4日にデジタル・シングル「フィナーレを待ちながら」リリース。
現在、K-MIX(静岡エフエム)の老舗音楽番組「ようこそ夢街名曲堂へ!」にレギュラー出演中。

青野りえOfficial Web Site: http://aonorie.com
X(旧Twitter): @rie_aono
FLY HIGH RECORDS Official Web Site:https://flyhighrecords.hatenablog.com/

(テキスト:ウチタカヒデ