2026年8月10日月曜日

The Third Wave『HERE AND NOW +2』

”5人姉妹ソフトロック・
ジャズボーカルのマスターピース

  ジャズボーカル・グループのThe Third Wave(以下サード・ウェーヴ)が唯一リリースしたアルバム、『HERE AND NOW』(MPS 14 263/1970年)が、ウルトラ・ヴァイヴ社のSOLID RECORDSから未CDシングル曲をボーナストラックにして、国内盤では26年振りに『HERE AND NOW +2』(CDSOL-3614)のタイトルで8月12日にリイシューする。 

  弊団体VANDAでは2002年出版の『SOFT ROCK The Ultimate!』で本作を紹介しており、ソフトロックの文脈でも評価が高い幻の名盤として知られ、そのサウンドに魅了されたミュージシャンやDJは多くいる。 
 筆者がこのサード・ウェーヴの音楽と初めて出会ったのは1990年代前半で、イギリスでネオモッズの旗手だったポール・ウェラーが率いたThe Style Councilの解散後にウェラーの相棒だったミック・タルボットが関わったアシッドジャズ・レーベル”Talkin' Loud”所属のGallianoやYoung Disciples、Omarの作品を愛聴していた時期と重なる。同レーベル創設者で批評家兼カリスマDJとして知られるジャイルス・ピーターソンが監修したコンピレーション『Talkin' Jazz Volume 2 (More Themes From The Black Forest)』(1994年)に収録された「Cantaloupe Island」だったと記憶する。このコンピはドイツの名門ジャズレーベル”MPS”に1960年代末から70年代に残された作品群からジャイルスが拘り抜いて選曲しており、多彩な収録曲の中でもひと際異色だったのが、ジャズピアニストのジョージ・デュークが手掛けたサード・ウェーヴによる、ハービー・ハンコック作「Cantaloupe Island」のカバーだった。

The Third Wave

 ではサード・ウェーヴのプロフィールに触れよう。表立った活動期間の短さにより情報が少ないが、彼女達はアメリカのカリフォルニア州サンフランシスコ出身のフィリピン系移民三世の5人姉妹によるグループで、結成当時の年齢は10歳から17歳だった。Georgie Ente(ジョージー・エンテ)、Jammie Ente(ジャミー・エンテ)、Jodie Ente(ジョディ・エンテ)、Reggie Ente(レジー・エンテ)、Stevie Ente(スティーヴィー・エンテ)から構成されており、ジャズクラブ・シンガーだった母親のJosephine Tenio (Ente/ジョセフィン・テニオ)の指導で歌うことを身に付けていった。
 音楽一族だったらしく、フィルモア地区の伝説的ナイト・ジャズクラブ“Bop City(バップ・シティ)”では叔父のFlip Nunez(フリップ・ヌネス)がピアニストをしており、クラブの本営業後アフター・フリー・ジャムセッションを時よりおこなっていたという。その際身内のエンテ姉妹をステージで歌わせることもあり、その歌声を偶々聴いて興味を持ったのが、当時ジョージ・デューク・トリオのベーシストだったJohn Heard(ジョン・ハード)だった。ジョンはジョージにサード・ウェーヴを紹介しその才能を見出され、本作『HERE AND NOW』に繋がったという。 

 このような偶然からもたらされた『HERE AND NOW』がレコーディングされたのは、西ドイツ(当時)のヴュルテンベルク州フィリンゲンにあるMPS スタジオで、1969年11月から1970年1月の期間にのべ3週間掛けられている。なおレコーディング当時のエンテ姉妹の年齢は13歳から19歳で、バップ・シティで歌っていた時期から成長していた。 
 本作のプロデューサーはMPSの創設者でエンジニアのHans Georg Brunner-Schwer(ハンス・ゲオルグ・ブルンナーシュヴェーア)だが、クレジット上アレンジとオーケストレーション・コンダクターになっているジョージが現場を仕切った実質的プロデューサーであり、当然ながらピアノなどキーボード類の演奏をしており、ベースは前出のジョン・ハード、ドラムには十代からカウント・ベイシーやデューク・エリントンのビッグバンドのメンバーだった名手のStu Martin(スチュ・マーティン)が参加し基本のリズムセクションになっている。
 1946年1月生まれのジョージはサンフランシスコ音楽院在学中からジャズクラブで演奏を開始して、1966年には自身のカルテットのアルバム『The George Duke Quartet Presented By The Jazz Workshop 1966 Of San Francisco』をMPSの前進レーベルSABAからリリースしており、この頃よりMPSと繋がりがあったことが分かる。1969年にはフランス人ジャズ・ヴァイオリニストのジャン・リュック・ポンティとジョージ・デューク・トリオでの『The Jean-Luc Ponty Experience with the George Duke Trio』(World Pacific Jazz/ST-20168)をリリースし同編成のライブも評判となり、キャノンボール・アダレイとフランク・ザッパの両人から同時期にグループへの参加を要請されるという、若手音楽家としてはこの上ない名誉をもって招かれそれぞれに参加している。 
 特にザッパのThe Mothers加入期は、オリジナル・アルバムでは『Chunga's Revenge』(1970年)から『Bongo Fury』(1975年)までだが、その後『Them Or Us』(1984年)までレコーディング・セッションでは長きに渡り参加しており、ザッパからの信頼度は高かったようだ。筆者的には『One Size Fits All』(1975年)収録の「Inca Roads」での変幻自在なキーボード・プレイとファルセットのリードボーカルを高く評価している。この様にファンキー・ジャズ界の重鎮と現代ポピュラー音楽唯一無二の巨人から同時に認められた才能は特筆すべきであり、更にクインシー・ジョーンズのメジャー系セッションへの参加も多く、クインシーがプロデュースしたマイケル・ジャクソンの出世作『Off The Wall』(1979年)にも参加するという離れ業をこなしており、正にジャンルを超越したスーパー・キーボーディストだったことが理解出来る。そんな一流音楽家として知られる前の活動期のジョージにとって、初の他者名義のプロデュース作品が本作『HERE AND NOW』なのである。


 ここからは収録曲を解説していく。冒頭の「Waves Lament」はオリジナルのジャズ・ボサノヴァで、サード・ウェーヴ名義のエンテ姉妹による共作である。通常5声のジャズ・コーラスはルート音(主旋律)に対し、3度、5度(4度)、7度、9度(11度、13度等テンション)を加えてヴォイシング(和声の構成音の配置)を工夫することでその個性を出していく。特に血縁の姉妹(兄弟)によるコーラスは遺伝子学的にも似た声質と考えられるが、微妙に異なるため、一人多重録音コーラスとは違う効果を持っている。「波の嘆き」と題されたこの冒頭曲は、ボッサのリズムで波を、テンションを効かせたヴォイシングで嘆きを表現している。なお驚くべきことにコーラスについてはジョージではなく、エンテ姉妹が自分達で主導してアレンジしていたらしい。母親でシンガーのジョセフィンからのアドバイスはあったにせよ、10代でこのようなコーラス・アレンジを構築していたのは敬服するしかない。 
 またボサノヴァの発祥地であるブラジルには、バイーア州出身の4人姉妹女性コーラス・グループ、Quarteto Em Cy(クアルテート・エン・シー)が1959年から活動しており、1960年代中期にはアメリカにも活動の場を広げ、1966年にはアンディ・ウィリアムス・ショーマルコス・ヴァーリと共に出演するほど人気があった。この「Waves Lament」や「Once There Was A Time」を聴いていると、スウィングル・シンガーズやダブル・シックス・オブ・パリなどのプロフェッショナルなジャズボーカル・グループより、後年自身のソロアルバム『Feel』(1974年)にパーカッショニストのアイアート・モレイラや彼の妻でボーカリストのフローラ・プリムを参加させ、ブラジル音楽にも深く精通していたジョージの頭には、サード・ウェーヴをアメリカ版エン・シーに育てようというイメージが多少あったのかも知れない。 
 続く「Niki」はジョージにサード・ウェーヴを紹介した恩人でもあるベーシストのジョン・ハード作で、シャッフルのリズムを持つソフトロック調のヴァースから、ホーンセクションが入るビッグバンドジャズ風のブリッジとサビに転回していく。この曲ではホンキートンク風に高域で激しく響くジョージによるピアノのインタープレイも素晴らしい。 

 そして「Maiden Voyage」は、ジャズピアニストのハービー・ハンコックのモーダル・ジャズ期(新主流派)の傑作曲(1965年)のカバーで、「Cantaloupe Island」と同様ハービーを敬愛していたジョージの審美眼による選曲らしい。ハービーもこの曲を自身の最高傑作と答えていたインタビューがあるほどだ。
 ここでのカバーもオリジナル同様、SUS4系の独特なヴォイシンのコードがシンプルに繰り返される音像が壮麗で、サード・ウェーヴのコーラスで解釈されることで神秘性が増して、得も言われぬ美しさを感じさせる。またオリジナルではトランペットのフレディ・ハバードが奏でたテンション・ノートを模した、高域のコーラスが入る瞬間は毎回鳥肌が立ってしまう。掛け値なしに美しい音楽とはこの曲のことだろう。 

『Maiden Voyage』Herbie Hancock


 一転してポール・マッカートニー作でビートルズの「Got To Get You Into My Life」(『Revolver』収録1966年)は、ほぼ同時代的にエンテ姉妹が聴いていたであろうビートルソング・カバーである。他の収録曲と異なり、一般的にも知られたグループの有名曲であるので、直向きに歌っている姿が目に浮かぶ。アレンジ的には原曲が持つR&B特有のはねるリズム感覚をジャズ解釈していて、ノンクレジットだが右チャンネルでアコースティックギターのカッティングが聴こえるので、ピアノで表現できないパートを補強したと思われる。
 続く「Stormy」は弊サイト読者をはじめソフトロック・ファンにはお馴染みだろう。オリジナルはClassics IVの1968年のシングル曲で、メンバーでギタリストのジェームズ・バーニー・コブが作曲し、彼らのプロデューサーだったバディ・ブイが作詞して、バンドとしては「Spooky」(1967年)に続き全米ビルボードの5位まで上がりヒットしている。ソフトロック界ではトミー・ロウが『Dizzy』(1969年)で取上げていたのが知られており、イギリスのオルガン奏者のジョージ・フェイムは『Going Home』(1971年)、サンタナも『Inner Secrets』(1978年)でAOR風にアレンジして取り上げている。インスト・カバーではデイヴィッド・T・ウォーカー、ガボール・ザボ、ミーターズなど意外なアーティスト達もカバーしており、皆この曲のメランコリックな旋律の虜になっていたのだろう。
 曲の雰囲気や恋人との別れを綴ったトーチソングの世界観など、本作でのサード・ウェーヴのカバーが最もマッチしているのではないだろうか。イントロの繊細なピアノに導かれてユニゾンから徐々にハーモニー・パートに移行し、ドラマティックに転回していくアレンジは素晴らしく、サビでは歌詞に出てくるStormy=嵐を表現した歌唱が圧巻である。とにかく全てのソフトロック・ファンは必聴だろう。

 アナログ盤ではB面冒頭の「Chloe」は、ガス・カーンの作詞、ニール・モレ(本名チャールズ・ダニエルズ)の作曲によるジャズ・スタンダードで、戦前の1927年に発表された楽曲のカバーである。スタンダード・ナンバーということでジョージやサード・ウェーヴはジャズクラブ時代に演奏し、歌っていたのかも知れない。ここではビッグバンドジャズのアレンジに、多彩なスキャットを披露していて聴き飽きない。 
 続く「Once There Was A Time」は、メンバーのジャミーによるオリジナルのスローなボサノヴァで、対位法のパートやテンションを効かせたパートなどミックスを含めて見事な構成で、姉妹達のコーラス・アレンジのクオリティの高さを感じさせる。バッキングではフルートやオーボエでさり気ないオブリガードを入れて引き立てている。
 再びポール・マッカートニー作で、アルバム後半ではビートルズの「Eleanor Rigby」(『Revolver』収録1966年)を取り上げている。ジャンルを超えた素材としてポールの曲は普遍的でミュージシャンを刺激するのだろう。同じジャズ界では1967年にウェス・モンゴメリーが『A Day In The Life』でこの曲を取上げており、ドン・セベスキーが緊張感のあるストリングス・アレンジを施していた。ここではオリジナルやそれまでのカバーでは考えられなかった、イントロやサビで「Eleanor, Eleanor, Eleanor, Eleanor・・・」と輪唱するコーラスを加えている。極めて斬新なアレンジであり、聴き手にこの曲の歌詞の世界観を強く焼き付けるのである。 

 「Don't Ever Go」はメンバーのレジーのオリジナルで、イントロのアコースティックギターのアルペジオが印象的なフォーク調のシンプルなソフトロックだ。バッキングがジョージ達ジャズ・ミュージシャンなので、この手のシンプルな曲もドラマーのテンポ感やピアノの豊かな和声感覚が際立っている。 
 本編ラストは「Cantaloupe Island」で、前半に収録された「Maiden Voyage」同様、マイルス・デイヴィスの弟子筋でピアニストのハービー・ハンコック作品のカバーである。オリジナルはブルーノートから1964年にリリースされた『Empyrean Isles』に収録されており、ハービーのファースト・ソロアルバム『Takin' Off』(1962年)収録曲「Watermelon Man」のMark IIと呼べる、ブルースにラテン・フィールを融合し昇華させた傑作である。
 ここではジョージのアレンジでテンポアップして、より躍動的なファンキー・ジャズに仕上げており、原曲が内包していたラテン・フィールを色濃くさせている。サード・ウェーヴによるスキャットもパート毎に複雑な構成なのだが、自分達の歌声を楽器としたような野性味まで感じさせるパフォーマンスは圧巻である。これはジョージ達の巧みで圧倒的な演奏に本能的に呼応した結果ではないだろうか。
 1992年にイギリスのジャズ・ヒップホップ・グループUS3が「Cantaloop (Flip Fantasia)」と題し、オリジナルのハービーのフレーズ・サンプリングを含むカバーで世界的にヒットさせた。筆者はそのUS3のヴァージョンを先に聴いていたが、1994年『Talkin' Jazz Volume 2 (More Themes From The Black Forest)』に収録されたサード・ウェーヴが嘗てカバーしたヴァージョンを初めて聴いて、直ぐにそちらの方に魅了されてしまったのだ。この1曲だけでも本作『HERE AND NOW』を聴く価値があるので強くお勧めする。


『Questions 67+68 / Love Train』
 (MPS Records 3110) 

 ボーナストラックは『HERE AND NOW』と同じ1970年にリリースされた、7インチシングル『Questions 67+68/Love Train』(MPS Records 3110)の両曲で今回が初CD化となる。
 オールドロック・ファンならご存知の通り、タイトル曲「Questions 67+68」(「Questions 67 and 68」)はアメリカ・イリノイ州出身のブラス・ロックバンド、シカゴのファースト・シングルである。創設メンバーの一人でキーボーディストのロバート・ラムのソングライティングにより1969年7月にリリースされ、アルバム収録のオリジナルは5分を超えるため、シングル用に約3分半にエディットされている。
 サード・ウェーヴのカバー・ヴァージョンでは、ジョージによって最小限で的確なホーンアレンジが施され、オリジナルにあった長めのインタープレイのパートがオミットされ、2分52秒とかなりコンパクトな尺になっている。これは彼女達のボーカルとコーラスがメインであるために取られた処置だろう。尺の短いシングル曲ということでコーラス・アレンジもシンプルにまとめられている。プリティーなジャケット・デザインからも伺えるが、音楽性の高いジャズ・ファンより一般のポップス・ファン向けにアプローチしたのではないだろうか。 
 カップリングの「Love Train」はジョージ作で、これが非常にクールなファーストテンポのソウルジャズ・ファンクなのだ。間奏にドラムブレイクを持たせているのはジェームス・ブラウンからの影響と思われるが、2026年の現在でも古さを感じさせない。この7インチの両曲とも『HERE AND NOW』のレコーディング・セッションのアウトテイクなのだが、この曲だけサウンドの毛色が異なっており、ジョンのベースは本編で聴けるウッドベースではなく、明らかにエレクトリックのフェンダー系ベースのサウンドで、この曲の躍動感の肝になっている名演である。

TV Special『The Third Wave』
出典:https://www.imdb.com/?ref_=hm_nv_home

 本作『HERE AND NOW』リリース後のサード・ウェーヴの活動を調べてみたのだが、1971年2月には西ドイツの公共放送局にて『The Third Wave』のタイトルでエンテ姉妹5人が30分間のテレビ特番に出演して放送されていた。演出はヴァレリオ・ラザロフとヤナ・マルコヴァが担当しており、特にヴァレリオは当時ヨーロッパのテレビ業界では、斬新なカメラワークとポップな視覚効果を駆使して広く知られたルーマニア出身の奇才ディレクターだった。このよう敏腕スタッフにより彼女達のボーカル・パフォーマンスをステージ仕立てにした番組で、放送後はヴィデオやDVDなどのソフト化は一度もされておらず、放送局のアーカイブに残っている可能性は低いという。筆者も非常に観てみたいのだが、当時の視聴者が録画した動画が発掘されるのを待つしかない。

 1972年にはスティーヴ・ミラー・バンドのドラマー、ティム・デイビスのセカンド・ソロアルバム『Take Me As I Am(Without Silver Without Gold)』収録のタイトル曲にメンバー全員コーラスで参加している。サウンド的にはカントリー・テイストを持つブルーアイドソウルで、『HERE AND NOW』で繰り広げられたような複雑なコーラスとは異なるシンプルなアレンジにとどまっている。因みにこの曲にはギターにマイク・ブルームフィールド、エレクトリックピアノにベン・シドランという豪華な面子が参加しているので気になったのだが、アルバム・プロデューサーが名匠グリン・ジョンズということで納得した。 

 その後30年を経てしまうが、2000年以降もサード・ウェーヴのメンバー達は音楽活動を継続しており、2005年には現在ホノルル在住のジャズ・サックス奏者Aaron Aranitaの『Don't Stop The Feeling』収録の「Is It You?」に、ジョージーとジャミー、そして親族らしきジョディ(Jody Ente)の3名でコーラスとして参加している。この曲のサウンドは所謂スムーズ・ジャズ系のインストで、彼女達のコーラスの出番が少ないのが残念だ。
 またメンバーの家族でシンガーソングライターをしている娘の動画アカウントには、2000年にサード・ウェーヴのメンバー全員が集まって、ジャズのスタンダード曲を披露している動画が2009年にアップロードされていたので紹介しておく。
 なお本作の実質的プロデューサーで、一流ジャズ・キーボーディストだったジョージ・デューク氏は2013年8月に惜しくも逝去している。

 
The Third Wave circa 2000 - All the Things You Are
出典:https://www.youtube.com/@cocomaire




(テキスト:
ウチタカヒデ


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2026年7月5日日曜日

短冊CDの日2026


 2023年から展開されていた『短冊CDの日』のキャンペーン・イベントも今年で4回目となり、7月7日”七夕の日”に開催される。 
 このキャンペーンは1988年に8cmサイズのCDを短冊型パッケージにしたシングルCDが生産開始されて35周年となった、2023年から展開されている『短冊CDの日』のイベントであり、密かなブームの兆しを見せているのだ。
 1990年代に青春時代を送った世代にとっては懐かしく、デジタル配信で育った令和の若い世代にとっては、この8cmサイズのCDのフォーマットは、アナログ盤やカセットテープと同様に音楽産業のリバイバル・ブームと言えるのだ。

 今月1日に弊サイトで吉田哲人のインタビューを掲載したばかりの、イエスハッピー!/吉田哲人の『I Saw The Light』もこのキャンペーンにエントリーしている作品なので未読の方はチェックしよう。


関連記事
★イエスハッピー!/吉田哲人『I Saw The Light』
吉田哲人リリース・インタビュー>記事はこちら

 
 ここでは『短冊CDの日 2026』にエントリーされて、7月7日に同時リリースされる中から、弊サイトのカラーや筆者の好みやで選出した作品を中心に紹介したいと思う。各作品の文末に予約リンク先を付けているので、筆者の解説で興味を持った読者は入手して聴いてほしい。

●短冊CDの日2026 Supported by Pococha公式サイト:https://tanzaku-day.jp/



sommeil sommeil と なんちゃらアイドル 
『9月の海はクラゲの海』(NRSD-3176)

  まずは2人組アイドルグループ”sommeil sommeil(ソメイユ・ソメーユ)”と”なんちゃらアイドル”の2組のコラボレーションによる、ムーンライダーズの「9月の海はクラゲの海」(『ドント・トラスト・オーバー・サーティー』収録1986年)カバーから取り上げたい。
 4月23日にリリースされたばかりの岡田徹氏トリビュートアルバム『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』でも覚和歌子 with Life Goes Onが取上げていたが、ライダーズ史上屈指の美しさを誇るこのメロディは、巧みな歌唱力で歌い上げるタイプの曲では決してない。例えるならフェデリコ・フェリーニ監督『道』(1954年)でのジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)の生き方に通じる純粋無垢な歌唱が似合うのだ。そしてその直向きさが聴く人の心を強く打つ。掛け値なしに名曲とはそういうものなのだ。


 ここでのカバー・ヴァージョンは、sommeil sommeilのnemumiと夢乃なこ、なんちゃらアイドルの御茶海(みさみ)マミとあおはるが、4人のユニゾンと各々のソロパートに分けてボーカルを取っており、その無垢な歌声を聴かせている。編曲と演奏は1989年に結成されたベテラン・バンドのスキップカウズのリーダーでギタリストの遠藤肇が担当し、モジュレーションが効いたギターリフを中心に、岡田徹へのシンパシーが感じされるサウンドを構築している。
 カップリングにはsommeil sommeilがなんちゃらアイドルの「PansyとDaisy」(同名7インチシングル/2020年)、なんちゃらアイドルの方はsommeil sommeilの「夕立クロニクル」(『Re:relation』収録/2025年)をトレードしカバーしているのがユニークだ。バックトラックはそれぞれのオリジナルを流用しているようだが、ボーカルの声質やキャラクターが異なるのでファンは楽しく聴けると思う。
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平野友里
『MICKEY』(NRSD-3174)

 昨年PRINCESS PRINCESSの「世界でいちばん熱い夏」と渡辺美里の「恋したっていいじゃない」カップリング・カバーで短冊CDをリリースしたアイドル・シンガーのゆり丸こと平野友里は、今回Great Hunting主宰で敏腕A&Rマンの加茂啓太郎のプロデュースにより、アメリカの女性シンガーで振付師のトニー・バジル(Toni Basil)が1982年に大ヒットさせた「MICKEY」をタイトル・ソングとしてカバーしている。
 またカップリングは平野友里のセルフ・プロデュースで、小室哲哉の作編曲とプロデュースでヒットしたhitomiの「CANDY GIRL」(1995年)を取り上げている。前者は加茂が発掘したクリエイターのZuuun、後者はマイクロスターの佐藤清喜が編曲と演奏及びプログラミングを担当しており、いずれのサウンドもダンス・ミュージックとして優れているのでDJ諸兄は必携だろう。
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 なんちゃらアイドルや平野友里とレーベルメイトで、同日に短冊CDをリリースする他のアーティストも触れておこう。シンガー・ソングライターのルカタマと、伝説のガールズバンド“マサ子さん”のボーカルまゆたんで結成された女性2人組ユニットTAMAYURAMは、昨年の『bye-bye, tape echo』に続き、1980年代子供番組「どきんちょ!ネムリン」のテーマ曲をカバーした『ぴんく ピンク PINK』(NRSD-3175)をリリースする。
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 前出の『Adventures in Modern Recording by TOHRU OKADA』にも参加した、富士山ご当地アイドルグループで井出ちよのソロユニットというべき3776(みななろ)は、昨年の『さよなら渦巻きの中の私』も音楽性が高かったが、今年の『六四』(EXTE-3776)も変拍子と巧みなギターカッティングを持つ実験作ポップスで音楽通を唸らせるだろう。
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松永天馬
『唇まで8センチ / 背中まで45分』(NRSD-3172)

 そして最後に紹介するのは、前衛ポップロックバンド、アーバンギャルドのリーダーでボーカルの松永天馬がソロ名義で『唇まで8センチ / 背中まで45分』をリリースする。
 両A面扱いであるがメインタイトル曲は、本キャンペーンの短冊CDのサイズである8cmから着想されたと思しき松永による作詞と、音楽プロデューサーでソングライターの佐々木喫茶(ささき きっさ)が作編曲した書き下ろしの新曲である。
 作家や詩人の肩書を持つ松永の歌詞の世界は、エスプリが効いた言葉の選び方やダブルミーニングの使い方もプロフェッショナルな仕事で、佐々木による1980年代中期のYAMAHA DX7などのアタックの強いFM音源系シンセサイザー・ベースやブルースハープを模したリード・シンセのリフ等々、懐かしくも新しいエレクトロポップ・サウンドにマッチしている。主役である松永のボーカルもBPMが変化しまくるこの曲でピッチや表現力など申し分なく、正にこの短冊CDキャンペーンのアンセム(Anthem)として相応しい完成度なのだ。


 両A面のカップリングは、井上陽水がソングライティングして沢田研二(以降:ジュリー)に提供した「背中まで45分」(1983年)のカバーである。ジュリーにとっては38枚目のシングルで、同曲のシングル・ヴァージョンの編曲を担当したのは、嘗てりりィのバイバイ・セッション・バンドやナイアガラ・レーベルのセッションにも参加していたベーシストの吉田建で、彼が率いるエキゾティクスがジュリーのバックバンドだった時期(1981年~1984年)でもあった。当時のニューウェイヴ・サウンドとの親和性が高い時期でも知られ、ジュリーとエキゾティクス、それを許容したプロデューサー加瀬邦彦(元ザ・ワイルドワンズのリーダー)の先見性の高さは、音楽界の最前線を生き抜いてきた一流の嗅覚と言えよう。
 ここでのカバー・ヴァージョンの編曲と演奏及びプログラミングは、アーバンギャルドのサポート・キーボーディストも務めるシンセサイザー奏者の杉山圭一で、陽水の独特な歌詞世界に流れているデカダンスでアンニュイなイメージを巧みに演出している。オリジナルの編曲はシングルVer:吉田健、アルバム『MIS CAST』収録Ver:白井良明(ムーンライダーズ)と各人の異なるセンスによって制作されていたが、杉山は更に個性的なサウンドを追求している。それはエキゾチックなミッドテンポのポリリズムやフィル・マンザネラ(Phil Manzanera)に通じるギター・サウンド、空間の隙間を活かしたミックスで施したサウンドで、ロキシー・ミュージック(Roxy Music)の最終作『Avalon』(1982年)を彷彿とさせて、実に素晴らしいカバーになったと一聴して魅了されてしまった。
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 なお松永天馬が率いるアーバンギャルドは、彼らが主宰する恒例のミュージック・フェスティバル「鬱フェス」を9月に開催するので、興味を持った読者は是非参加してほしい。
 同フェスにはバンドの二枚看板である松永と浜崎容子を中心に交流を持つ、神聖かまってちゃんや大槻ケンヂなど個性的な著名アーティストやバンドが多くゲスト出演し、弊サイトでもお馴染みの才女シンガー・ソングライターのフレネシの出演も決定している。
関連記事
浜崎容子/『フィルムノワール』>記事はこちら
★フレネシ記事一覧>記事はこちら  


アーバンギャルドpresents
 鬱フェス 2026

◎日時:2026年9月21日(月・祝)
開場 14:00 / 開演:14:30~

◎会場:CLUB CITTA’(神奈川県):アクセスはこちら

◎出演者
アーバンギャルド

◎ゲスト出演者
神聖かまってちゃん
大槻ケンヂ(オーケンギャルド)
挫・人間
色々な十字架
東京メルヘン倶楽部
フレネシ
水中、それは苦しい
赤いくらげ
絵恋ちゃん
古山菜の花
カラコルムの山々
AIR-CON BOOM BOOM ONESAN

◎イープラス先行チケット予約:こちらをクリック


(テキスト:ウチタカヒデ

2026年7月1日水曜日

イエスハッピー!/吉田哲人『I Saw The Light』吉田哲人インタビュー

”アイドル業界屈指の名士作のエールソング”

 2人組アイドルグループのイエスハッピー!が、デビュー15周年となるアニバーサリー・イヤーの第一弾として、作編曲家でシンガー・ソングライターの吉田哲人の書き下ろしの新曲を短冊CDとして7月7日にリリース(NARISU RECORDS/NRSD-3171)する。

 本作はイエスハッピー!と吉田哲人の連名で両A面でのリリースとなり、それぞれのボーカル・ヴァージョンが収録されている。
 吉田の作編曲にイエスハッピー!の2名が作詞したこの友愛に満ちた曲は、イントロのソフトロック風コーラスから高揚感のあるポップスで、各パートの随所に吉田らしいエッセンスがちりばめられていて完成度が高く聴き飽きない。吉田は全体のプログラミングに各種キーボード、ベース(リッケン4003s)を生演奏している他、ブラス・アレンジも担当している。ゲストとしてアコースティック・ピアノの演奏と多彩なストリングス・アレンジは、吉田の盟友であるユメトコスメの長谷泰宏が参加している。
 また坂村健次によるジャケットの両面のデザインは、嘗て小沢健二とスチャダラパーのコラボレーションでヒットした『今夜はブギー・バック』(1994年)のそれをオマージュしていて、マニア心をくすぐった。


イエスハッピー!
(左からこころ、さやか

 イエスハッピー!のプロフィールに触れるが、彼女達はさやかとこころの女性2名で結成されたアイドルグループである。共に島根県松江市出身で、中学、高校の同級生だったが、ハロー!プロジェクト・ファンという共通の趣味を知ってから親しくなったという。高校卒業後アイドルを目指していたこころは、数々のオーディションを受け、関西最大都市の大阪にも足を運んでおり、大学進学で同地に移住していたさやかの住まいに通って最終的に同居するようになる。2008年頃にはイエスハッピー!の前進となるユニットを2人で組み、ショッピングモールや地域のイベントスペースなどフリーステージを中心に、アイドルソングやアニソンをカバーしてパフォーマンス活動をしていた。
 その後さやかの就活がきっかけで、芸能事務所アップフロント関西支社と接点を得て、同社が経営するハロー!プロジェクトのオフィシャル・ショップ大阪心斎橋店に揃って勤務し、2011年にはイエスハッピー!として同事務所に所属して正式にグループ活動を開始した。
 2016年には同事務所を退社し、フリーを経て独立事務所 ”ミケネコカンパニー” を設立し現在に至る。彼女達はこれまでに4枚のアルバムと2枚のミニアルバム、シングルは6枚リリースしており、関西を拠点に日本全国で精力的にライブ活動を繰り広げてファン達を魅了している。


吉田哲人

 続いて吉田哲人だが、98年にThe Orangersとしてデビュー後、様々なコンピレーションへの楽曲提供やリミキサーとして参加し、2001年には小西康陽氏が主宰するReadymade Entertainment所属のマニピュレーターとして多くのプロダクションに関わっていく。鈴木亜美やきゃりーぱみゅぱみゅといったメジャー・アイドルから、竹達彩奈やNegicco、チームしゃちほこ、私立恵比寿中学、WHY@DOLL(ホワイドール)など新鋭の若手アイドルの楽曲に関わり、彼女達の熱心なファンの間でもよく知られた存在なのだ。2023年11月22日には、シンガー・ソングライターとして記念すべきファースト・ソロアルバム『The Summing Up』と『The World Won’t Listen』をリリースして高い評価を得ていた。翌2024年7月7日には芸大時代の先輩で、サウンドクリエイターとして知られる田中友直とのエレクトロニック・デュオ”BABY JOHNSONZ”として、『BABY JOHNSONZ e.p.』を短冊CDでリリースしてテクノ・ファンに注目されていた。
 弊サイトでは、なりすレコード代表の平澤直孝氏(ムーンライダーズ関係コンピレーションアルバムのコーディネートでも知られる)の紹介により、2023年9月から1年に渡り『わたくしのオフコース』と題した連載コラムを寄稿して読者にも好評だった。

関連記事
★吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー前編>記事はこちら
★吉田哲人:『The Summing Up』『The World Won’t Listen』リリース・インタビュー後編>記事はこちら
★わたくしのオフコース -1->記事はこちら

 ここからはそんな吉田へのインタビューと、本作『I Saw The Light』の曲作りやレコーディング中のイメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りする。


特別インタビュー★ゲスト~吉田哲人 
”人生いろいろありますが、
それでも前を向いて生きてゆくのだいう
決意の曲(歌詞)になっている”

●今回は久しぶりのリリースでおめでとうございます。
  まずはこれまで2年程の期間の活動状況を聞かせて下さい。
   2023年11月のソロアルバム『The Summing Up』と『The World Won’t Listen』の2枚同時リリースから、翌年7月の田中友直氏とのユニット”BABY JOHNSONZ”のシングル・リリースと多忙な時期を経て、実に2年振りとなりますよね? 


吉田哲人(以下吉田):ありがとうございます。
実は、いくつかを除いて仕事を断っていた状況でした。

BABY JOHNSONZのシングル発売後もアルバム制作を進めていたのですが、その年の暮れ、田中友直さんにしばらく楽曲制作が出来なさそうであることを伝えて以来、作業が止まっている状況です。

『BABY JOHNSONZ e.p.』

というのも、ウチさんや僕のXをフォローしてくださっている方はご存知かもしれませんが、数年前に音楽出版契約のトラブルに見舞われまして、相手の不誠実な対応に我慢の限界に達してしまって半ば引退したような状態になってしまいました。あとで情報は正しく修正されたものの、ショックのあまり、楽曲提供を決めた僕が悪いのか?とまで思い詰めてしまい、その頃のXの投稿はネガティヴになりがちでした。まあ、色々と自分自身のリリースが続いたことで燃え尽き症候群のようになっていたのかもしれませんが、とにかくいろいろと重なってしまって、もう音楽制作はウンザリだ!と。

そうは言っても音楽を捨てることはできずに、アウトプットできないならインプットするいい機会かなと、楽理の勉強を始めたり、新たにベースを買ってみたりと、悲嘆に暮れて過ごすよりもできるだけ前向きにと努力していた日々でした。そんな中、唯一聴いて(聴けて)いたのは幼少期から聞いていたThe Beatles(及びソロ)でした。 


 ●なるほど、本作に至るまで紆余曲折あったのですね。
今回2人組女性アイドルグループ、イエスハッピー!(以降イエハピ)さんとコラボレーションすることになったのは、どういう経緯だったんでしょうか? 
彼女達は今年デビュー15周年ということで、これまでにも楽曲提供など交流などはあったのでしょうか? 


吉田:今回の楽曲は先ほどの「いくつか」にあたるのですが、以前から依頼を受けていたので、自分のメンタルはどうあれ、引き受けていたからには約束をきちんと果たさなければと。ただ、実際作ってみたら楽しくて、いい曲が出来たことで自信も回復したので、イエハピさんには感謝しかないですね。

僕が初めてイエハピを見たのは、2019年に大阪の味園ユニバースで開催された「Mezzo Forte in 味園」だったかな、2回目は横須賀の短冊CDフェス。そこで楽曲依頼をされました。その後も東京でのイエハピのイベントに行ったり、僕のリリース・イベントにも出演してもらったりと交流が続き、今回、デビュー15周年という記念すべきタイミングで改めて声をかけてもらったという流れです。

イエスハッピー!
(左からさやか、こころ

イエハピさんからの熱心なオファーによって、吉田さんの音楽活動再開にも繋がったということで安心しました。
では本作『I Saw The Light』のテーマ、コンセプトを教えて下さい。


吉田:イエハピさんからは「友情。辞めていった仲間にエールを送るような。」というテーマと聞きました。歌詞については何度かやり取りしながら、ほんの少しだけ僕も手伝い、タイトルも僕が決めました。 

僕へのリファレンスとして、WHY@DOLL(ほわどる)に提供した「ケ・セラ・セラ」「ふたりで生きてゆければ」を挙げてくれました。不思議なもので、上記の2曲は発売当時、正直ほわどるファンの方からの反応がちょっと薄いように感じていましたが、その後、別のアイドルの方から上記の2曲が好きだと言っていただけたことも裏付けとなり、それらのエッセンスを含みつつ、イエハピさんやそのファンの方、また、イエハピさんのアイドル仲間の方にも気に入ってもらえるような曲を目指しました。 


●本作のソングライティングやアレンジのアイディア、レコーディング時のエピソードなどはありますか? 


吉田:自身を見つめ直していた時期の依頼だったため、それまでの僕の楽曲制作とは違う考え方で、歌謡曲のフォーマットは守りつつも自分のアイディアに忠実に、転調してもそのまま走り切り(今までは部分転調くらいにとどめ、歌いやすい/作詞し易い曲になるようにしていた)、勢いのまま曲を完成させました。あと、今までは頭の中にある音(アイディア)を全部一曲に入れて音色の多い作品になりがちでしたが、今回はデモからボーカル・レコーディングまで諸事情で9ヶ月ほど空いたことで距離をとって楽曲を見つめ直し、不必要なものを削ぎ落として、必要最低限の音数で仕上げられました。 

今回の僕のヴォーカルは、デモ用のガイド・ヴォーカルそのまま使っています。歌い直した方がいいと思う箇所やタイミングを修正した方がいいと思う箇所もないわけではないのですが、歌詞が完成してすぐ録音した勢いが真空パックされていて、そこがとても気に入ったのでそのまま採用しました。仮に、もう一回歌い直してきっちり完成させればピッチやタイミングの精度は上がるかもしれませんが、結果、平坦な表現になりそうなので避けたのもありますね。 

レコーディング時のエピソードと言えば、4月下旬に行ったボーカル・レコーディングのときに、「この曲、めっちゃ気に入っているからいつか僕もセルフ・カヴァー出していい?」と話したら、「いつでも大丈夫です!何なら先に出していただいても大丈夫です!」と言われたので「いやいや、先に出すのはさすがに仁義に反するよ。どんなに僕が早く出すとしても、その場合は同時リリースだよ。」と話したこともあり、レコーディング終了後、どういうアプローチがあるかをぼんやり考えていたところに短冊CDの日のことを思い出し、イエハピさんとなりすレコードに連絡を取って急いで諸々作業し完成させました。

それと、先ほど話したウンザリしていた時期にRickenbacker 4003s(ベース)を買ったが、今回は音数少ないアレンジに仕上げるため、普段なら入れていたであろうギターを入れない代わりにそのベースを弾きました。ベースのレコーディングは短冊CDを出すと決めてから録音し、それで完成となりました。


●本作のソングライティングやアレンジのイメージ作りで聴いていた楽曲のプレイリストをお願いします。

『I Saw The Light』吉田哲人プレイリスト 

吉田:今回のプレイリストはビートルズ関連が大半な上、明確に影響を受けた/参考にしたという曲が見当たらないのですけれども、これらを昇華して今回の曲ができたのだとざっくり捉えてもらえれば、というリストになってます。別の言い方をすれば、僕は4歳(ジョン・レノンが亡くなる年の夏休み)からビートルズを聴いており、それらが血肉となっているので、今回の曲を自己分析してみたら、この辺りの影響が出ているのだろうと思われる曲が中心のリスト、とも言えます。

オリジナル・ミックスよりも、ここ近年のリ・ミックスの方がアレンジが聴きやすいのでそちらを積極的に選んでいます。下記の発売年はオリジナル発売(シングル曲はオリジナル・シングル発売時)年に準じています。 加えて、ビートルズを解説するなんて大胆なことはさすがにできないので、とりとめのない話を少々。

1.Hello, Goodbye - 2015 Mix / The Beatles 
 (『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
ポールの手ぐせみたいなコード進行の曲。音楽的な基礎ができる前の幼少期にビートルズをインストールしてしまったので、自分がつくるコード進行に影響がない訳がない。

2.What Is Life / George Harrison(『All Things Must Pass』/ 1970年)
曲もアレンジもいいし、あと歌詞も。

3.Instant Karma! (We All Shine On) - Ultimate Mix / John Lennon
 (『Gimme Some Truth』/ 1970年(2020年))
レコーディングから発売までの過程/コンセプトを考えるとミスタッチを直す時間はなかったと思うがそれも含めて全てカッコいい。どれを良しとするかの、美意識の問題。

4.Jet / Paul McCartney & Wings(『Band On The Run』/ 1973年)
Rickenbacker 4003sを買って最初に練習した曲。

5.Helter Skelter - 2018 Mix / The Beatles(『The Beatles』/ 1968年)
ジョンのベースってカッコいいですよね。確か使っているのはFender Bass VIなのでちょっとニュアンスは違うけど、僕もこの曲くらいの勢いでリッケンバッカーを弾いてみた。

6.Happiness Is A Warm Gun - 2018 Mix / The Beatles
 (『The Beatles』/ 1968年)
コード(楽曲)デザインというものは結局、作った本人が良しとすればそれで良しな訳で。戻らずに展開しっぱなしのこの曲の構造は素晴らしすぎる、と改めて。

7.One Love In My Lifetime - Single Version / Diana Ross
 (『Diana Ross』/ 1976年)
DJする時によくかける曲。ユメトコスメ長谷くんにストリングス・アレンジをお願いする際に頭の中で鳴ってる(=参考にして欲しい)曲として伝えました。

8.Remember - Ultimate Mix / John Lennon(『Plastic Ono Band 』/ 1970年)
ジョンのピアノってカッコいいですよね(既視感)。アレンジで必要な事は何かを教えてくれる曲。

9.I Am The Walrus - 2023 Mix / The Beatles 
 (『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
大人になるまで他人がいう変わったコード進行(この曲のみならずビートルズは多いのですが)の曲と気がつかなかった。

10.Baby You're A Rich Man / The Beatles 
 (『Yellow Submarine Songtrack』/ 1967年(1990年)
今回プレイリストを作って思ったのですが、普段ギターを中心にして聴いていない様子ですね…。

11.Sexy Sadie - 2018 Mix / The Beatles(『The Beatles』/ 1968年)
ポールのピアノってカッコいいですよね(既視感)。遠くで聞こえるオルガンは僕もよくやる手法で今回も当然。

12.Penny Lane - Stereo Mix 2017 / The Beatles
 (『The Beatles 1967 - 1970』/ 1967年)
展開してもしれっと元のキーに戻してみたり、新たに旅立ってみたり。
展開しても何とかキーを戻すのは作曲の醍醐味。

13.For No One - 2022 Mix / The Beatles(『Revolver』/ 1966年)
アレンジをする際、割とハープシコードを使うのですがそれはビートルズの影響が大きいと思います。

14.Gimme Some Truth - Ultimate Mix / John Lennon
 (『Imagine』/ 1971年
この曲、歌詞も重要であるが、ハープシコード、もしくはクラビネットのようなキーボードがうっすら使われており、それがめっちゃ効果的。”真実が欲しい”ですね本当に。

15.I Saw The Light / Todd Rundgren(『Something / Anything?』/ 1972年)
イエハピさんから届いた歌詞を読んだ際、世界観の象徴と思ったものが二つあるのですが、それを表すのにぴったりのタイトルでした。

(収録曲が同一アルバムのジャケットは共通で1枚のみ掲載)


●では最後に本作『I Saw The Light』のピーアールをお願いします。


吉田:イエスハッピー!さんの15周年を記念する楽曲が作れたことを光栄に思っております。人のために曲を作るのは天職であるなと改めて感じることができました。
ストリングス・アレンジをしてくれたユメトコスメ長谷くん曰く「一連の、吉田さんが一筆書きで書いたような曲」であるようですし、イエハピさんからのオファーにあったのもありますが、僕が、僕の曲をリファレンスに今作るとどうなるか、どんな癖があるのか、成長しているのか、否か。それらがよく表れた曲になっていると思います。僕にも金太郎飴ができたのだとすれば、それは喜ばしいことですし、それを分かってもらえるくらい聴いてくれる方がいれば、それは本当に嬉しいことです。

人生いろいろありますが、それでも前を向いて生きてゆくのだという決意の曲(歌詞)になっていると思います。奇しくも、僕は実生活でその決意が必要だったタイミングでこの曲を作りましたので思い入れはひとしおですし、(いつ出るのかは未定ですが)自身の次のアルバムで試してみたかったアイディアのデュエット・ヴァージョン制作もこのCDで実現しています。気に入っていただけたら幸いです。みんなでイエスハッピー!さんの15周年をお祝いしましょうよ! 聴いてね。


イエスハッピー! / 吉田哲人『I Saw The Light』
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吉田哲人プロフィール
作編曲家/SSW。 48歳にして初のアルバム『The Summing Up』アーカイブ集『The World Won’t Listen』を同時発売した遅咲きボーイ。BABY JOHNSONZのメンバーとしても活動。1999年にP-Vineより発売されたコンピ『テクノ歌謡』選曲家チーム8-bitsの1号でもある。作家としての代表作『チームしゃちほこ / いいくらし』『WHY@DOLL / 菫アイオライト』『Sputrip / 光の惑星』『WAY WAVE / SUMMER BREEZE』 等。
INSTAGRAM : @tetsutoyoshida

イエスハッピー!オフィシャルHP:https://yeshappy.jp/
イエスハッピー!X:https://x.com/UFK_YesHappy


(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ