2025年11月26日水曜日

長谷川カオナシ:『お面の向こうは伽藍堂』インタビュー★ゲスト~フレネシ

“クリープの末っ子・ファンタジスタが
独自の世界を開花させた
記念すべきファースト・ソロアルバム” 

 ロックバンド ”クリープハイプ”のベーシスト、長谷川カオナシが初のソロアルバム『お面の向こうは伽藍堂』(おめんのむこうはがらんどう/ユニバーサルミュージック・UMCK-1810)を11月26日にリリースした。

 小説家としても著名な尾崎世界観を中心としたロックバンドとして知られるクリープハイプ(以降クリープ/2001年結成)だが、メインコンポーザーの尾崎以外に、長谷川も自らソングライティングしてボーカルを取った楽曲をアルバム毎に1曲のペースで提供してきたので、クリープにおけるジョージ・ハリスン的立ち位置のメンバーと言えるだろう。
 1987年9月生まれの長谷川は、2009年からクリープにべーシストとして加入し、2012年に『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビューした際のメンバーでもある。べース以外にヴァイオリンやヴィオラ、ピアノなど鍵盤楽器もプレイするなど、マルチ・ミュージシャンとしても才能を発揮している。

長谷川カオナシ

 ファースト・ソロアルバムとなった本作では、ジャンルやキャリアを超えたゲスト・アレンジャーを迎えていて、十代から”ヤング101”後期メンバーとして業界で活動していた、伝説のシンガー・ソングライター(以降SSW)の谷山浩子と、長年谷山の音楽プロデューサーとして知られている石井AQ(いしいエーキュー)を筆頭に、CM音楽家として多くの作品を手掛けてきたjoe daisque、『ニコニコ動画』の音楽で知られるsimoyuki(しもゆき)が参加している。
 そして先月の無果汁団『ナサリー』の対談レビュー等、弊サイトでもお馴染みの鬼才SSWのフレネシも1曲にアレンジで参加しており、彼女にとっても本格的な音楽活動再開のきっかけとなった。
 レコーディングに参加したゲスト・ミュージシャンも多彩で、ヒトリエのドラマーのゆーまお、KEYTALKのリーダーでギタリストの小野武正 、Official 髭男 dismのベーシスト兼サックス奏者の楢﨑誠、Nanakambaのドラマーの矢尾拓也など、長谷川が共に音楽シーンを作り上げてきたバンドマン達が参加している。またクリープからは尾崎世界観がコーラス、小川幸慈がギター、小泉拓がドラムでそれぞれ1曲に参加しているのでファンにとっても嬉しい。

 ここでは本作で筆者が気になった収録曲の解説と、アレンジャーとして参加したフレネシへの特別ミニ・インタビューを紹介する。
  収録された全12曲は全て長谷川のソングライティングで、外部アレンジャーが参加した4曲以外は、長谷川がイニシアティブを取ってセッションに参加したミュージシャン達とヘッドアレンジで詰めたと思われる。「刹那の夏」においては全楽器を長谷川が一人多重レコーディングで完成させていて、マルチ・ミュージシャン振りを発揮している。

 
『お面の向こうは伽藍堂』全曲トレーラー 

 冒頭の「ねんねんころり」はワルツを基調にして変拍子のパートを持ち、英国トラッド~プログレ・ミュージックの匂いがする。独特な歌詞の世界は長谷川の個性をよく現わしており、シンプルなアレンジと楽器編成で、長谷川自身はべースとアコースティック・ピアノをプレイし、ギターとドラムは元JUGONZのチバソウタと入交盾(イリマジリジュン)が各担当し巧みな演奏を聴かせてくれる。ボーカリストとしての長谷川は、歌い上げるタイプではなく、アルバム全体的に感情を抑制したフラットなピッチと声量で、1970年代の欧米SSW系で聴けるようなストーリーテラー・スタイルに近いものだ。
 一転してプログラミングされたトラックをバックした「恋する千羽鶴」は、simoyukiがアレンジした四つ打ちキックのチープなテクノ・サウンドに、憂さ晴らし的な歌詞ながら人生応援歌と解釈できるのが痛快である。ハイプなコーラスで長谷川の関係者8名が参加して盛り上げている。

 10月29日に先行配信された「ハエ記念日」は、先月前半にプレスキット音源を初見で聴いて、マイク・オールドフィールド風のイントロや久保田早紀の「異邦人」(1979年)に通じるバース・パートの中近東風和声とテンポ感覚に興味を惹いた。この曲は谷山浩子と石井AQが共同アレンジしており、プログラミングされたオブリガードの楽器音色は「異邦人」でも使用され、トルコ(ペルシャ)発祥とされる打弦楽器のハンマー・ダルシマー(映画『犬神家の一族』のテーマ曲「愛のバラード」で有名)やアコーディオンなど現在のポップスとは隔世したサウンド作りをしていて、『Istanbul mambo』(1977年)期のムーンライダーズやあがた森魚に通じる。長谷川はべースとヴィオラ、谷山はアコースティック・ピアノ、石井は全てのプログラミング、ドラムには元X-RAYのメンバーで、バンド解散後はセッション・ドラマーとして活動していた高橋ロジャー和久が参加している。
  一早く9月23日に先行配信されたリードトラックの「金木犀」は、本作中最もキャッチャーなサビのリフレインを持った、長谷川の代表曲となる曲だ。King Harvestの「Dancing in the Moonlight」(1970年)を彷彿とさせるローファイで空間狭い16節のイントロ部から劇的に転回していく楽曲とアレンジ、不毛の恋愛を綴った歌詞などポップスとして完成度が高く、筆者もファースト・インプレッションでベストトラックに挙げた。セッションに参加したミュージシャンは本作中最も多く、長谷川はこの曲でもべースとヴィオラをプレイし、アレンジとプログラミングはjoe daisque、ギターは前出のチバソウタ、キーボードはSSWの? Meytél(メーテル)、ドラムにはヒトリエのゆーまお、コーラスにはSSWの星野菜名子が参加している。キュートなコーラスが特徴的な星野は本作5曲目「あなたはきっと」ではコーラス以外にキーボードもプレイしている。

 フレネシがアレンジとプログラミングで参加した「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」はシアトリカルな世界観とポルカ風サウンドで、コーラスには尾崎世界観が参加している。本作中重要曲であるが、この後のテキスト・インタビューでフレネシ本人が詳しく解説しているので、そちらを読んで頂きたい。
  牧歌的ながら哀愁を感じさせる歌詞を持つ「ウサギとオオカミ」は、クラリネットとワウをかましたギターのイントロからその不思議な世界に引き込まれる。メジャー・キーからサビでマイナーに転調してシリアスになる感じなど日本人好みだ。長谷川はべース、ギターはクリープの小川幸慈、サックスとクラリネットは馬場レイジ、アコースティック・ピアノはモリモトマイ、ドラムは八月の微睡みのミナカワがプレイしている。
  本作ラストの「馬の骨に候」は、ノイジーな倍音が鳴り響くギターリフから始まり、まるでセルフポートレートのようなアイロニー溢れる歌詞が印象的だ。間奏のピアノ・ソロには「金木犀」など収録曲のフレーズを忍ばせこませるなど、本作の大団円として相応しい。長谷川はべースとピアノ、ドラムはクリープの小泉拓、ギターはTHE RODEOSの坂本陽平が参加している。

 最後に本作の総評として、弦楽器やピアノを習得しているなどクラシック音楽の素養を持っていそうなファンタジスタが、尾崎世界観という天才肌の文学系ミュージシャン率いるロックバンドに最年少で加入して16年、独自の世界を開花させた記念すべきファースト・ソロアルバムに仕上がっている。


特別インタビュー★ゲスト~フレネシ

●今回フレネシさんにアレンジのオファーがあった経緯と、「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」の曲を聴いたファースト・インプレッションを聴かせて下さい。

◎フレネシ:青天の霹靂でした。カオナシさんとはこれまで交流がなかったもので、どうして私にオファーをくださったのか分からず、本当に驚きました。
そして、素材をいただいた際は「随分とトゲトゲとした言葉の乗った曲だなあ…これを私が…?上手にアレンジ、できるかなあ?」と正直なところ、不安もありました。
そもそも、私は11年も休眠していたわけで。もはやミュージシャンと自称するのはおこがましいような状況でありまして。その上、アレンジ単体のお仕事はこれが初めて。さらに困ったことに、いただいた素材はポップなロック調にすでにアレンジされていて、その時点ですでに私の引き出しにはないテイストだったのです。

ご本人からは、私のアレンジで歌ってみたいという長年の夢があったと伺いました。私の楽曲の「スプロウル」(『キュプラ』収録 2009年)がお好きだそうで、「GO ROPEWAY」(『ドルフィノ』収録 2013年)くらいのトラック数でどうだろうか…とご提案いただきました。
これらは、本件のオリジナルとは曲調が近くなかったので、トラック数は参考とするにしても、直接のリファレンスとするよりは、一旦真っ新な状態から自分なりに再構築するのがいいだろうと思いました。
行間に潜むトゲトゲの裏の真意を探り、自分の引き出しとカオナシさんの世界観にフィットしそうな共通項のテーマを掲げ、リファレンスを集めてみることにしました。


 ●「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」のアレンジにおけるアイデアを可能な範囲で教えて下さい。

◎フレネシ:タイトルを拝見しての第一印象は、ボリス・ヴィアン『お前らの墓につばを吐いてやる』のようなタイトルだなあと。
どこかつかみどころのないカオナシさんのキャラクターは、シャンソン歌手であり、トランぺッターであり、俳優であり、作家であり…と、さまざまな顔を持つ(おまけにアメリカ人と偽って執筆)ヴィアンのようでもあるなあと思いました。



まず最初にテーマを考えました。詞を読み込むと、舞台はインターネットで、生贄を欲しては誰かの失態を餌に正義を振りかざす善意のオーディエンスたちが背後に見えました。
続いて、なぜか韓国人作家・シュークリーム氏の『全ての人が美しい世界』という漫画に出てくる、ピエロとバレリーナの格好をしている2人の主人公の絵が浮かんで…あと、これは単なる勘違いなんですが、カオナシさんの「火まつり」(クリープハイプ『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』収録 2012年)という曲の「地平線を『探す』」を「サーカス」と聴き間違えて、それらをきっかけに「サーカス」をテーマとすることにしました。



で、次にサーカスの世界にフィットする楽曲をリストアップしました。まずは何と言ってもユリウス・フチークの「剣士の入場」。サーカスと聞いて誰もが思い浮かべる曲ではないだろうかと思います。

Einzug der Gladiatoren


そして、レトロフレンチな見世物小屋テイストがまさに私っぽいと思い、ジャディス・オルセンのチューバ・ベースを要素として組み込みました。大学時代に初めて作った音源がこの人のサウンドと雰囲気が似ていると言われ、後追いで好きになった90s仏アーティストです。

 Petit amant frimeur / Jadice Holsen


カオナシさんはベーシストでありながらヴァイオリンやヴィオラも弾く方で、そんな立ち位置がネオロカバンドのファビュラス・プードルズのボビー・ヴァレンティノっぽいと思い…ブルーグラス的な裏打ちとフィドルのプレイは「The Man Who Invented Jazz」からの引用です。

The Man Who Invented Jazz / Bobby Valentino


それから、マーチ要素はミッチ・ミラー楽団の「テキサスの黄色い薔薇」を参考にしました。

テキサスの黄色い薔薇 / ミッチ・ミラー楽団


ブリッジの落としどころでの私の笑い声は、ロスト・グリンゴスの「バーゲルド・アモーレ」にヒントを得ました。

Bargeld Amore(1983)/ Lost Gringos 

ラストサビとキラキラしたピアノのエンディングのストーリーは市川春子『宝石の国』(※漫画です)を参考にしました。自分対自分以外の激戦、そして浄化後の穏やかな時間、そんな情景を音で表現してみました…とはいえ、漫画をリファレンスに上げるってちょっと何言ってるか分からないかもしれないですね。



そして、ラストのもじょもじょ何か言ってる風の部分は、les escrocs「Qu'est-ce qu'on ferait pas」のイントロをリファレンスとして提案しました。20代の前半にどハマりした仏バンド・トリオで。余談ですが、当時はこの曲が好きすぎて、着メロにイントロ部分を8トラックで打ち込むなどしていました。

Qu'est-ce qu'on ferait pas / les escrocs



●最後に本作『お面の向こうは伽藍堂』の総評をお願いします。

◎フレネシ:あどけなさと禍々しさという相反する成分が混在する、一聴するとポップだけど奥行きのある童謡集。
清涼感のあるボーカルは、顕微鏡で観察するとおそらく針状結晶なんだろうと思います。
つまり、かわいく見えて、実は殺傷能力が高いってことですね。そうした二面性に、何か自分の音楽性との共通点を感じずにはいられませんでした。


フレネシ・プロフィール
-唯一無二のウィスパーボイスに、かわいさと潔さが同居する-
海外の音楽ファンから「渋谷系のビョーク」とも称される、フレネシ。2009年6月に乙女音楽研究社からリリースされた『キュプラ』は、HMV渋谷店のインディーチャートで1位を獲得し「ネオ渋谷系」の代表作として各所で話題を呼んだ名盤。この秋、満を持してLP盤(国内流通分は完売)が発売となる。
 2015年より活動休止中であるものの、2020年にストリーミング配信が開始されたことで再び注目を集め、海外のSNSでも人気が拡大。クリープハイプのベーシスト、長谷川カオナシのソロアルバムにアレンジャーとして参加し、今秋ついに活動再開の機運が高まりつつある。
★フレネシofficial site:https://frenesifrenesi.com/
◎ 「ネシ子が会う」長谷川カオナシ (第十九回):https://frenesifrenesi.com/column/381/
◎最新配信シングル「除霊しないで










(設問作成、本編テキスト:ウチタカヒデ













2025年11月16日日曜日

The Bookmarcs:『BLOOM』


"ブクマ・サウンドのパレットに新色が加わった。
この第二章を心より歓迎したい。"

 The Bookmarcs(ブックマークス)が、前作『BOOKMARC SEASON』から4年振りとなる新作で、フォース・アルバムの『BLOOM』(FLY HIGH RECORDS/VSCF-1781)を11月26日にリリースする。

 作編曲家やプロデューサー、ギタリストとして活動する洞澤徹と、the Sweet Onions(スウィート・オニオンズ,以下オニオンズ)やソロ・アーティストとして活動する近藤健太郎が、2011年にタッグを組んだこの男性2人のユニットThe Bookmarcs(以下ブクマ)は、これまでに3枚のアルバムをリリースしており、本作は前作『BOOKMARC SEASON』(VSCF-1775/FRCD-070)から4年のインターバルで、同アルバムとセカンドの『BOOKMARC MELODY』(VSCF-1769/FRCD-061)に比べてややスロー・ぺースとなった。
 それというのもこの間にブクマで作編曲とミュージシャンのアサインなどサウンド・プロデュースを担当する洞澤は、女性シンガー・ソングライター(以下SSW)青野りえのシングル「Never Can Say Goodbye(2021年10月)とサード・アルバム『TOKYO magic』(2023年11月)の作編曲とプロデュース、それと同様に男性SSWのKARIMAのファースト・アルバム『Nostalgic hour』(2022年10月)の半数の曲とその後複数の配信シングルのサウンド・プロデュースを手掛けていた。更にYouTube でリラクゼーション・ミュージック・チャンネル「natural sonic」(登録者数9 万以上)を主宰して、アコースティックギターやウクレレの演奏を発表し多忙していた。
 作詞とボーカル、コーラス(アレンジ含む)を担当する近藤も前出のKARIMA『Nostalgic hour』の共同プロデュース、オニオンズの高口大輔や女性SSW小林しのとのユニットSnow Sheepの23年越しのファースト・アルバム『WHITE ALBUM』(2023年3月)、そしてソロとしての記念すべきファースト・アルバム『Strange Village』を今年3月にリリースしたばかりと、別プロジェクトの活動が目まぐるしく充実していたのが、ブクマの制作ペースに影響していたのは言うまでもない。
 またラジオ・パーソナリティとしても、横浜市のコミュニティ放送局マリンFMで彼らの冠番組『The Bookmarcs Radio Marine Café』、静岡県のFMラジオ局 K-MIX(静岡エフエム放送)の『ようこそ夢街名曲堂へ!』の準レギュラーをそれぞれ務めるなど、その活動は多岐に渡っている。

The Bookmarcs
左から洞澤徹、近藤健太郎

 本作は2022年から今年2025年8月までに配信でリリースしていたシングル4曲と、新録の7曲からなら合計11曲を収録している。ゲスト・ミュージシャンとして、1995年Sony Recordsからメジャー・デビューしたSwinging Popsicle(スウィンギング・ポプシクル)の美音子 Fujishimaがフューチャーリング・ボーカルで参加しているのをはじめ、コーラスで和製オーガニック・ソウル女性シンガーのAloha Ichimura、これまでのブクマのレコーディングではお馴染みのドラマーの足立浩、べーシストの北村規夫、ジャズ・ピアニストの佐藤真也といった手練なミュージシャン達も参加してバックアップしているのが頼もしい。 
 マスタリングは今月1日に紹介したばかりの小林しの『Winter Letters』同様に、microstarの佐藤清喜が手掛け、ジャケットやインナースリーヴのデザイン、アートワークは近藤の『Strange Village』で共同プロデュースを務めた及川雅仁、フォトグラフは尾崎康元がそれぞれ担当している。


The Bookmarcs 4th Album『BLOOM』Trailer

 ここでは筆者による収録曲の詳細解説と、洞澤と近藤が本作の曲作りやレコーディング中、イメージ作りで聴いていたプレイリストをお送りするので聴きながら読んで欲しい。 
 
 冒頭の「青いループ」は、2トラックのアコースティックギターのアルペジオとリフ、キーボードのフレーズのイントロから導かれて始まるギターポップ系不毛のラブソングで、近藤による歌唱と韻を踏むサビの歌詞が耳に残る。リズムセクションは洞澤の各種ギター、足立のドラムと北村のべースによる生演奏に洞澤によるプログラミングされた上物が乗る。この上物のストリングス・アレンジもシンプルながら曲を演出している。
 続く「Follow The Rainbow」は今年8月に配信リリースされた最新の先行シングルで、山下達郎の某曲にも通じるサマー・アンセム感漂うシティポップだ。近藤の爽やかなボーカルに洞澤のエレキギターのリフが絡むなど聴き応えがある。コーラスのトップではAloha Ichimuraが特徴的な声を聴かせるのも嬉しい。
 一転して陰影のあるスローナンバーの「花びら」は、洞澤の作曲能力と近藤の作詞家としてのセンスが見事に調和したソングライティングだ。佐藤のよる表現力豊かなジャズテイストのアコースティック・ピアノ、洞澤によるエレキシタールのオブリガードも効果的だ。

 アコースティックギターのアルペジオとそれに呼応するべースのイントロに導かれ、サビから始まる4曲目の「Hello, Bluebird」はポール・マッカートニーの匂いがする。近藤の持ち味でもあるが、洞澤の作曲であり、ヴァースでは「真夜中のドア〜Stay With Me」(松原みき/1979年)のオマージュ元として知られる、Carole Bayer Sagerの「It's The Falling In Love」(1978年)に通じる洗練されたAOR風に変貌し、ビートルズ風(ジョン・レノン寄り)のブリッジを挟んで、またサビに戻るという凝った構成で感心させられる。
 続く「水色」は近藤の作詞、洞澤と近藤による作曲なので、ソングライティング的には近藤のソロに近いテイストがあるミドルテンポのバラードだ。前曲同様に洞澤の各種ギターに足立と北村のリズム隊による演奏は、近藤のレイジーなボーカルをバックアップする。洞澤による巧みなアコースティックギター・ソロや近藤自身による美しい一人多重コーラスが聴きどころだ。

美音子 Fujishima

 「誰もが夢を」は、ゲスト・ボーカルに美音子 Fujishimaをフューチャーリングしてデュエットで歌われるボサノバ・ポップだ。近藤によるフランス語をちりばめた歌詞からイメージするのは、クロード・ルルーシュ監督が手掛けた映画であり、洞澤によるガットギターの刻み、左チャンネルのウーリッツァー系エレピや彼方で聴こえる深くリバーヴが効いたアコースティック・ピアノのフレーズ、フルートのオブリガード、近藤とFujishimaによる間奏のスキャットなど、映画音楽家フランシス・レイをオマージュしている。日曜の昼下がりに聴きたい好ナンバーである。

 本作後半には先行配信曲が多く収録されており、「Maybe」は2024 年8 月の作品でブクマの曲としては珍しく全編マイナーキーの曲である。特徴的なリフから発展して生まれたこのファンキーなサウンドに、佐藤によるビリー・プレストン風のブルース・フィールなピアノが乗り、非常に玄人好みでもある。ブラック・ミュージックを聴かない読者に分かり易く例えると、刑事ドラマで主人公が容疑者を捜索するシーンの挿入歌風と言えばいいだろうか。
 同じく「Looking For The Light」は2023 年3 月、「街のレヴュー」は2022 年12 月に先行配信されており、前者のヴァースは古くはビートルズでジョンが主に書いた「No Reply」(『Beatles for Sale』収録1964年)やSteely Danの「Only a Fool Would Say That」(『Can't Buy a Thrill』収録1972年)に通じるメロディが印象的で、洞澤による各種ギターとプログラミングされた音数少ないバックトラックが、近藤のジェントルなボーカルを引き立てる。
 後者はイントロから筆者の好みで、ブラジリアン・フュージョン・バンドAzymuthの「Fly over the Horizon」(『Light As A Feather』収録Ver 1979年)に通じるアープ・オデッセイ系アナログ・シンセのポルタメントが効いたフレーズから引き込まれてしまう。歌詞のディテールから横浜関内にあるレンガ作りのカフェ”馬車道十番館”を舞台にしたと思しきラブソングで、近辺のロケーションが織り込まれており完成度も高い。サウンド的には前出のアナログ・シンセや北村のエレキベースのアクセント、シンセタムのフィルによって、横浜のナイト・シーンが目に浮かぶ演出で脱帽してしまう。


 曲順は前後するが、8曲目の「悲しみのウィークエンド」は再び作曲に近藤が加わったワルツのトーチソングで、メジャーキーで風通しが良いサウンドと、タイトルや失恋を綴った歌詞の世界とのギャップが面白い。北村のべースに足立はブラシを使ったドラムのリズム隊、洞澤はアコースティックギターの他マンドリンもプレイし器用なところを聴かせてくれる。
 本作ラストの「Bloom Again」にも近藤が作曲にクレジットされていて、「悲しみのウィークエンド」と同様の編成でプレイされる静かなバラードの小曲だ。この曲ではAloha Ichimuraが再びコーラスで参加し、その柔らかい美声で近藤の歌声に寄り添っている。近藤のソロ作にも近い世界観なので、『Strange Village』で彼を知った音楽ファンにもお勧めである。

 本作の総評として、これまでの3作品には無かった作曲面で近藤が3曲も参加したことで、The Bookmarcsの第二章が始まったと考えていいだろう。オニオンズやシンガー・ソングライターとして実績がある近藤が洞澤の作曲に協力したことで、今までには無かったブクマ・サウンドのパレットに新色が加わったのだ。この第二章を心より歓迎したい。


The Bookmarcs『BLOOM』プレイリスト
 
 
洞澤徹
 「BLOOM」アルバム制作期間中に創作のモチベーションを
保つためによく聴いた曲(特にアレンジに煮詰まった時)をセレクトしました。
アレンジの参考になった曲、作曲の着想になった曲もあります。
ほとんどが今年発表された楽曲です。

▪️Love Ride(Alternative Version)/(『Fighter For Love』/ 2025年) 
▪️In It To Win It / Matt Johnson,Triple H Horns(『Warrior Princess』/ 2025年)
▪️Simple Imagination / Young Gun Silver Fox
(『Ticket To Shangri-La』/ 2022年)
▪️Cycle deux - partie 2. / Hippie Hourrah
(『Il y eut un rythme』/ 2025年)
▪️Swoon / Fickle Friends (『Fickle Friends』/ 2025年)
▪️Love You Out Of Your Mind / Byrne & Barnes
(『An Eye for an Eye』/ 1982年)
▪️Oyo / Origami.(Single『oyo』/ 2025年)
▪️Never Givin’You Up / Pascal Bedoire
 (Single『Never Givin’You Up』/ 2025年)
▪️Sweet / Mörk(『Still Dreamin’』/ 2024年) 
▪️Je reviens / Gilles Rivard(『En couleurs』/ 1981年)


近藤健太郎
静謐で繊細、味わい深く円熟した歌声とサウンド。
それぞれに耳を傾けていると、しばし心は軽くなるのです。 
過去の名曲から現代の柔らかなポップスまで、
アルバム制作中に寄り添ってくれた魅力あふれる楽曲達です。

▪️Dating Me Ain't Hard / Whyte(Single『Dating Me Ain't Hard』 / 2025年)
▪️All My Candles / Men I Trust(『Equus Asinus』/ 2025年)
▪️Make It with You / Bread(『On the Waters』/ 1970年)
▪️Let Me Be The One / Paul Williams
 (『Just An Old Fashioned Love Song』/ 1971年) 
▪️Who Do You Think You Are / Bo Donaldson & The Heywoods 
(『Bo Donaldson And The Heywoods』/ 1974年)



(テキスト:ウチタカヒデ

2025年11月1日土曜日

小林しの:『Winter Letters』

 昨年2月発表のセカンド・アルバム『The Wind Carries Scents Of Flowers』(*blue-very label*/ Blvd-043)が好評のシンガー・ソングライターの小林しのが、4曲入りの7インチのクリスマス・シングル(EP)『Winter Letters』(Blvd-055)を11月1日”レコードの日”にリリースした。
 丁度1年前に『The Wind・・・』に参加した、Small Gardenの小園兼一郎とのコラボレーションで、7インチEP『Mijn Nijntje(“私のナインチェ”)』(blvd-051)を発表しており、この季節の風物詩となっていて、彼女のファンには嬉しいリリースとなった。
小林しの

 まずは小林のプロフィールに触れるが、1999年に彼女を中心にHarmony Hatchを結成し、空気公団やMaybelleを輩出したCoa Recordsから2000年にデビューする。同バンドが2002年に解散後、ソロのシンガー·ソングライターとして、ファーストアルバム『Looking for a key』と前出のセカンド『The Wind Carries Scents Of Flowers』の2枚のアルバム、アナログ7インチ·シングルは『Havfruen nat』、コラボレーションでは彼女が所属するphilia recordsを主宰するthe Sweet Onionsの近藤健太郎、高口大輔との3人組ユニット”Snow Sheep(スノー·シープ)”で『WHITE ALBUM』、前出の『Mijn Nijntje』をそれぞれ発表し、都内を中心に定期的なライヴ活動、様々なバンドのコーラス·サポート等精力的に活動している。

 本作『Winter Letters』について解説しよう。ジャケットなどアートワーク全般とファンシーなイラストレーションは、リリース元レーベルではお馴染みのFumika Arasawaが担当している。またマスタリングを担当したのは、先月後半弊サイトで紹介したばかりの無果汁団『ナサリー』を手掛けたmicrostarの佐藤清喜で、マスタリング・エンジニアとしてジャンルレスに多くのアーティストから信頼されている。 
 続いて肝心の収録曲について解説しょう。 
 A面冒頭のリード曲「blue mint Christmas」は小林がソングライティングして、『The Wind・・・』では2曲に参加した、北海道在住でワンマン·ユニットのalvysinger(アルビーシンガー)を主宰する小野剛志がアレンジを手掛けている。同アルバム収録で小野が手掛けた「風は花の香りを運ぶ」に通じる爽やかなソフトロック~ギターポップ系サウンドは、小林のメルヘンチックな歌詞とその歌唱を引き立てる。この曲では元Johnny Deeや101 Dalmatiansなど伝説のバンドに所属し、現在Thee Windless Gatesで活動するギタリストの下田剛も参加し、特徴的なリッケンバッカーの響きを聴かせてくれる。
 続く「トナカイの夜」は、FMまつもとのラジオ番組『Hikory Sound Excursion』のクリスマス企画で結成され、小林も参加したユニット”タンタンルドルフ”のオリジナルで、番組ナビゲーターの久納ヒサシのソングライティングとアレンジによる、バラード系のクリスマス・ソングだ。同番組では2023、24年のクリスマス特集でオンエアされており、今回が初音源化となる。バックトラックの演奏とプログラミングは久納が担当し、小林とデザイナーのArasawaによるダブル・ボーカルで歌われ、インディーレーベル”chocolate & lemonade”主宰のBobbyがジングルベルでゲスト参加している。

   
小林しの (Shino Kobayashi) "Winter Letters" teaser 

 B面冒頭の「午後にはシュトーレン」は、小林の作詞に近藤健太郎が曲をつけるという、Snow Sheep組のコラボレーションで、アレンジは近藤と今年3月にリリースされた、彼のソロアルバム『Strange Village』で共同プロデュースを務めた及川雅仁と2人で担当している。曲調は近藤の「She Is Mine」に通じる風通しの良いソフトロックで、クリスマス・シーズンの午後のティーパーティーの風景を綴った歌詞と愛らしい小林の歌唱が印象に残る。近藤はアコースティックギターとピアノ、鍵盤類、及川はエレキべースやエレキギターからグロッケン、メロディカ、ボンゴやウインド・チャイムなどパーカッション類までプレイして貢献している。
 続く本作ラストの「wheat ana rice」は、小林のソングライティングに及川がアレンジを担当した2分弱のスロー・ワルツで、全ての演奏とプログラミングを及川が手掛けている。タイトルは小林が飼っていた(実家で?)2頭の愛犬の名前らしく、その想い出を綴った歌詞と無垢な歌唱が美しく、心に響く。コーダで響く及川によるパイプオルガンの演出も効果的だ。

 なお本作も数量限定(200枚)の7インチEPなので、筆者の詳細レビューを読んで興味を持った音楽ファンは、リリース元レーベルのオンラインショップ等で入手しよう。

*blue-very label* オンラインショップ :http://blue-very.com/?pid=187645587


(テキスト:ウチタカヒデ