サリー久保田と高浪慶太郎による拘りのポップ・グループ、Wink Music Service(ウインクミュージック・サービス/以降WMS)が、7インチ・シリーズの第6弾『Little China Girl / かたことの恋』(VIVID SOUND/VSEP866)を12月24日にリリースする。なおタイトル曲はあの伊藤銀次の書き下ろしなのだ。
ここでは筆者による本作の詳細解説をする。タイトル曲の「Little China Girl」は前出の通り、あの伊藤銀次が書き下ろした新曲で、WMSサブメンバーのマイクロスター飯泉裕子が作詞してラブソングに仕上げている。
この曲における伊藤のコンポーズ・スタイルは、1982年9月リリースのソロ・サードアルバム『Sugar Boy Blues』収録の「Dear Yesterday」に通じていて、イントロのあとサビから始まり、その切ないメロディが強く耳に残るのだ。飯泉の歌詞もティーンエイジャーの不毛の恋愛を綴って伊藤の曲にマッチさせており、まだ幼さが残る心愛のボーカルとのギャップも新鮮に聴かせてしまう。
カップリングの「かたことの恋」は、2002年に高浪慶太郎がソングライティングとアレンジを担当し提供した、TVアニメ『ちょびっツ』のエンディングテーマのセルフカバーだ。オリジナルでは同アニメでヒロインの”ちぃ”の声を演じた声優女優の田中理恵の歌唱で、「ビートでジャンプ(Up,Up and Away)」(The 5th Dimension / 1967年)などをオマージュしたサウンドが、ピチカートファイブやソフトロック・マニアには知られていた。
本作のカバー・ヴァージョンは、オリジナルのエッセンスを少々残しつつ、これまでに岡田がWMSで披露してきたサウンド・バリエーションを総動員して、モザイク的にコラージュした大胆でマニアックなものだ。聴きものはミッシェル・ルグラン風ヨーロピアン・ジャズ・パートでのサリーと原によるタイトな演奏をバックに、縦横無尽に繰り出されるスキャット、ストリングスやホーンセクション、各種SEの融合だろう。SEの中にはマニア心をくすぐるネタもいくつか聴けて、例えばジェームス・ブラウンの70年代楽曲でよく聴けた、ワウペダルをかましたエレキギターにモジュレーションを極端に効かせたあの音だったり、最新作『ナサリー』が傑作の無果汁団ショック太郎が、blue marble時代に「街を歩くソルジャー」(『ヴァレリー』収録/2010年)でオマージュした、ビートルズの「I Am The Walrus」(1967年)やトッド・ラングレンの『A Wizard, a True Star』(1973年)に通じる、”音楽のロバート・ラウシェンバーグ”状態で脱帽してしまう。
続く「Gloom/親密さについて」は先行配信されたファーストシングルで、前曲同様のパーソナリティによるソングライティングとアレンジだが、一転してメロウなグルーヴでネオシティポップ以降に出てきたバンドのサウンドらしい。Lampの「街は雨降り」(『そよ風アパートメント201』収録/2003年)を彷彿とさせるが、エレピが刻むボサノヴァとソウルを融合させたリズム感覚は、チック・コリアの「What Game Shall We Play Today」(『Return to Forever』収録/1972年)にまで遡るだろう。編成的に特筆すべきは川上がコーラスに加わって、市原がエレキギターをプレイしている点だ。
A White Heron/白い鷺/cambelle
筆者が本作中ファースト・インプレッションで惹かれたのが、3曲目の「A White Heron/白い鷺」である。ローラ・二ーロ風コード進行のイントロのピアノから耳に残り、歌詞と曲が高次元で溶け合ったその世界観にはノスタルジーを超えたサムシングが潜んでおり、熊谷のソングライターとしての能力や歌詞の世界を表現するソフトなボーカルには感心するばかりだ。その熊谷はべースの他、アコースティックギターとポルタメントを効かせたヴァイオリンまでプレイしている。川上による間奏のアナログシンセ・ソロや川島のエレキギターのリフ、歌詞に呼応する山本の巧みなドラミングも曲を構築する重要なエレメントとなって、この曲の完成度を高めている。初期オフコースの匂いもして、弊サイトで同バンドのコラムを連載していた音楽家の吉田哲人にも勧めたいし、筆者の本年度年間ベストソング候補に入る一曲である。
本作中盤6曲目の「Dream in Bossa /しずかなふたり」は、熊谷の詞に川上が作曲して、熊谷とデュエットでボーカルを取るボサノヴァ・ポップだ。スティーヴィー・ワンダーの「You Are the Sunshine of My Life」(1973年)に通じるイントロから、2人の異なる声域のボーカルがブレンドすることで相乗効果をもたすクールなボサ・ラブソングである。川上はエレピの他、シンセサイザー・べースもプレイしており、ガットギターは片野、ドラムに山本、パーカッションは筋野がそれぞれ担当している。中澤はこの曲ではフルートをプレイし、マルチ木管奏者として本作に貢献している。
終盤9曲目の「Sleep Warm/微睡の午后」は、熊谷作のラテン・フィールがあるドラムレスの美しいスローバラードで、ビーチ・ボーイズをこよなく愛する弊サイト読者なら初見でオマージュ元のいくつかのエレメントが分かる筈だ。「Caroline, No」をべースに、間奏のテルミン風ソロは「I JustWasn't Made For These Times」(共に『Pet Sounds』収録/1966年)からだろう。それ以外にもシュガー・ベイブの山下達郎作「過ぎ去りし日々"60's Dream"」(『SONGS』収録/1975年)経由で、The Cyrkleの「The Visit (She Was Here)」(『Neon』収録/1967年)やOhio Knoxの「Pound Or My Dog Dad For Robert Downey (A Prince)」(『Ohio Knox』収録/1971年)のバース部など温故知新派の真髄であるが、何より重要なのはこの曲自体が本当に良い曲だということだ。熊谷はべースとキーボード、川上は各種鍵盤でチェンバロ(ハープシコード)、テルミンをシミュレートしたシンセサイザーも担当しているではないだろうか。ゲストの川島はアコースティックギター、筋野はボンゴとクラベスをプレイしている。