昨年セカンド・アルバム『日本海夕日ライン』を弊サイトで紹介した女性4人組アイドル・グループ、RYUTist(りゅーてぃすと)が、8月1日にサード・アルバム『柳都芸妓(りゅうとげいぎ)』をリリースした。
前作同様に所謂アイドル・アルバムとは一線を画しており、音楽通をも唸らせるソングライティングとサウンドは健在で、筆者も音源を入手してから常に聴き込んでいる程だ。前作以上にギター・ポップやソフトロックの要素が高いので大いにより多くの音楽通にお勧めしたい。まずRYUTistのプロフィールであるが、詳しくは前作のレビューを参照して頂くとして、現メンバーは五十嵐夢羽、宇野友恵、佐藤乃々子、横山実郁の4名から構成されている。
グループ名の由来と本作のタイトルにもなっている「柳都」とは、かつて堀がはりめぐらされた新潟市の別称である。その堀端に植えられた柳の下を芸妓達が通るという、古町ならではの古風で美しい風景を舞台としたコンセプト・アルバムといえばいいだろう。
本作で楽曲提供したミュージシャンは、前作からの参加者も多く、今年2月にフォース・アルバムをリリースしたThe Pen Friend Clubの平川雄一をはじめ、so niceの鎌倉克行、カンケこと柏崎三十郎、鈴木恵TRIOやEXTENSION58の鈴木恵、職業作家の永井ルイやKOJI obaこと大場康司のクレジットが確認出来る。
また新たに婦人倶楽部(佐渡ヶ島の謎の主婦グループ)のプロデュースや「カメラ=万年筆」としての活動でも知られるムッシュレモンこと佐藤望、新潟のビッグバンドTHE MANDUMSのバルカン坂爪が参加しているのも興味深い。 以上の楽曲提供者達が、自身のリリース作品と等しいクオリティーをキープしてRYUTistのアルバムを表現の場として切磋琢磨している姿勢は高い評価に値するのである。
ではアルバム収録曲を解説していこう。
冒頭の「柳の都」は永井ルイのソングライティングとアレンジによる、4人のスキャットをフューチャーしたソフトロック系の小曲。60年代後半のイタリアン映画のサントラをも彷彿させて筆者好みである。全ての演奏とコーラス・アレンジも永井が一人で担当している。
続く「夢見る花小路」は本作のリード・トラックとして、新たに参加した佐藤望がソングライティングとアレンジを手掛けている。
曲の構成とアレンジ共に完成度が非常に高く、ヴァース1のコード進行はThe Groopの「The Jet Song (When The Weekend’s Over)」辺りに通じる、期待感を増長させる導入部として効果的だ。全てのパートに無駄はなく、間奏のストリングス・アレンジ(シンセ)も含めよく計算されていると思う。
近年では元シンバルズ~TWEEDEESの沖井礼二の作風にも近いのではないだろうか。ドラムは井上拓己、ベースは相川翔悟、ギターには君島大空が参加し、その他キーボードとプログラミングを佐藤が担当している。
また本作全体を通してだが、RYUTist4人の歌唱力やハーモニーは前作より磨かれており、きちんとディレクションされているのが一聴して分かるので聴き比べて欲しい。
「想い出はプロローグ」は鎌倉克行の作曲でリズム・アレンジはシティポップ系グループ“カンバス”の小川タカシ、ホーン・アレンジは鈴木恵がそれぞれ担当している。so nice鎌倉の作曲とはいえ、サウンドは所謂80年代英国ギター・ポップのフィールが強く、4管のホーン隊が入ることでファンカラティーナの匂いもする。リズム・セクションはベースの菱川浩太郎以外全て小川なのでカンバス組という訳だ。
ギター・アルペジオのイントロではじまる、鈴木恵の作曲、アレンジによる「サンディー」でもギター・ポップ・フィールは維持されつつ、曲調には60年代のブリル・ビルディング系のマナーを感じる。ミュート・トランペットのオブリやギター・ソロのトーンも効果的だ。
本作中最も異色なのが、「古町ブギウギ通り」だろう。ソングライティングとアレンジはバルカン坂爪が担当し、彼が所属するTHE MANDUMSが演奏している。しかしジャンプ・ブルース・バンドのサウンドをも許容するRYUTistのプロダクションには恐れ入った。
バルカン坂爪はもう一曲「涙のイエスタデイ」も提供しているが、こちらはフィリーソウルが入った80年代シティポップのサウンドで、EPOが歌っていてもおかしくない。何よりこの多幸感は替えが効かないね。
「NEO古町小唄」はカンケこと柏崎三十郎の作曲、アレンジで、前作同様 ノベルティ・タイプの曲で攻めている。ここでも彼が敬愛する大瀧詠一の作曲、プロデュースした「アンアン小唄」(山田邦子Ver)がオマージュされていて微笑ましい。
WebVANDAではお馴染みの平川雄一のソングライティングによる「わたしのこみち」は、本誌読者は聴かずにはいられないと思う。アレンジは平川とThe Pen Friend Club名義で演奏にもメンバーがほぼ参加している。Gary Lewis And The Playboysの「Count Me In」を彷彿とさせる曲調にお得意のビーチ・ボーイズ風コーラスが乗るという贅沢なサウンドだ。
構成も凝っていて、リズムが抜けるコーラス・パートで平川によるマンドリンは10ccの「Don't Hang Up」を思わせる。ドラムの祥雲貴行のプレイもベストじゃないかな。
続く「恋してマーマレード」は永井ルイのソングライティングとアレンジで、お馴染みのモータウン三連リズムで飛ばし行く。イントロにホールトーン・スケール、ストリングス・アレンジ(シンセ)にはマックス・スタイナーの「A Summer Place」の匂いがして、単なるダンス・ミュージックとは一線を画す。
ラストの「口笛吹いて」 は大場康司の作曲とアレンジだが、冒頭の「柳の都」とのブックエンドを意識したスキャットと、フルートのリフに寄り添うコーラスが美しいイントロで始まる。基本的にこの曲もダンス・ミュージックではあるが、RYUTist4人のハーモニーによって普遍的なポップスに昇華されているのが感動的だ。
最後に繰り返しになるが、本作『柳都芸妓』は数多あるアイドル・アルバムとは一線を画しており、本誌読者をはじめとする音楽通をも唸らせるソングライティングとサウンドを誇っているので、興味を持ったポップス・ファンは是非入手して聴いて欲しい。
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