2014年1月6日月曜日

Lamp:『ゆめ』(ポリスター/UVCA-3019)

 
 新作毎に拘りのサウンド・クオリティーを誇っていたLampが、『東京ユウトピア通信』(11年)以来3年振りとなるニュー・アルバム『ゆめ』を2月5日にリリースする。 
 『そよ風アパートメント201』(03年)でアルバム・デビューして11年目に入った彼らは、通算7作目の本作で新たなステージに立ったといえよう。 音源を入手して1ヶ月程聴き込んでの感想は、『ランプ幻想』(08年)から顕著であった、ブラジリアン・ミナス・サウンドの複雑なリズム・アプローチを全面に打ち出した曲が見当たらず、曲を構成するエッセンスとしてそれが見事に消化されていることだ。
 またアルバム全体を通したテイストとしては、初期の『恋人へ』(04年)や『木洩陽通りにて』(05年)で展開していた普遍的なポップスをより高度且つ複雑にアレンジングした曲が多いということである。 
 ファースト・アルバムの宣材資料に推薦コメントを寄せる程、彼らの作るメロディそのものの素晴らしさを早くから理解していた筆者としては喜ばしい展開だった。
  結論的に言うと、幅広いポップス・ファンにアピール出来る完成度の高いアルバムに仕上がっているので、多くの人に聴いて欲しいと願うばかりである。 
 前作『東京ユウトピア通信』のリリース・ライヴという晴れ舞台の当日に、東日本大震災という甚大な災害によってライヴの延期を余儀なくされ、筆者もまた音楽を聴ける状況で耳にしない日々が続いていたのだが、それを救ってくれたのが他ならぬこのアルバムであった。


   

 荒んだ心に響き寄り添って癒やしてくれた、その素晴らしさを改めて教えてくれたのが彼ら3名の音楽だったと痛感したのだ。
 これ以上Lampの魅力を表す言葉はないだろう。 ポピュラー・ミュージックとは、多くの大衆に届き、心に響いてこそ、その役目をまっとうするのである。だからこそ彼らの音楽により多くの人に触れて欲しいのだ。 

 では本作『ゆめ』について紹介していこう。前作からの変化として大きなトピックは、長年所属していたレーベルのMotel Bleuを離れ独立して活動することになったことだろう。
 リーダーの染谷大陽がレコーディングのコーディネーション等自ら責任を背負ったことで、モチベーションの度合いも変わってきたのではないだろうか。それがいい方向に作用していれば幸いである。
 また新たにレコーディング・セッションに参加したキーマンとして、アレンジャー兼ベーシストの北園みなみは欠かせない存在といえる。若干23歳ながらネットの音楽通の間では注目されるクリエイターである。
 筆者は偶々昨年末、音楽関係者の忘年会の席にてシンガー・ソングライターの才女フレネシ(昨今では連続テレビ小説『あまちゃん』主演女優の能年玲奈がファンと公言している)に、その存在を知らされ音源を聴かせてもらったが、70年代ブルーアイドソウル~AORサウンドの巧みな解釈に舌を巻き、遅れてきた冨田ラボではないかと思った。後その才能が正当に評価されることを願っている。
 ゲスト・ヴォーカルでシンガー・ソングライターの新川忠の参加も重要である。03年に『sweet hereafter』でアルバム・デビューし、同年には湯川潮音の『うたのかたち』に楽曲を提供している。現在のところ『Christy』(05年)が最新アルバムである。
 印象的なジャケットにも触れよう。はっぴいえんどのファースト・アルバム(70年・通称ゆでめん)のデザインや漫画『赤色エレジー』(70年)を手掛け、一般的にはロッテのキャンディー『小梅』のキャラクター「小梅ちゃん」のイラストレーションで知られる画家・イラストレーターの林静一によるイラストが採用されている。
 繊細なタッチで描写された何気ないワンシーンはLampのサウンドに通じるものがあり、アルバムを聴きながらじっくり眺めることをお勧めする。

 次に主な収録曲について解説しよう。
 まず本作におけるソングライティングの比率だが、染谷と榊原香保里(作詞担当で以降も同様)の共作が4曲、染谷の単独作1曲、永井祐介の単独作が3曲、永井と榊原の共作が2曲と、これまで以上にバンド内シンガー・ソングライターというべき永井の活躍が目立っている。
 冒頭を飾るのはその永井作の「シンフォニー」で、北園によるストリングス・アレンジはグリッサンドとポルタメントを効果的に使っており、導入部としてはこれ以上無いインパクトを持っている。 また永井自らCP-80やフェンダー・ローズ等複数のエレピをプレイし構築したキーボード・サウンドも聴き逃せない。
 洗練されたシティ・ポップ・サウンドは、デイヴィッド・フォスターやマイケル・オマーティアンが手掛けた諸作を好むAORファンにもアピールする完成度が高いものだ。



 続く染谷と榊原作の「A都市の秋」でも北園のストリングスとホーン・アレンジはサウンドを大きく演出している。特にビックバンド風のホーンとストリングスがスリリングに交差するコントラスは聴き応えがある。
 またこの曲ではコーラス・アレンジも北園が手掛けており、うまくサウンドに溶け込んでいる。自らは歌わない染谷が作るメロディ・ラインは、非常に複雑でヴォーカルの二人を泣かせているのだろうと毎回察しているが、この曲でも凄まじく上下する。それもまたLampの魅力であるが、この曲で染谷はプレイに参加していないというスティーリー・ダン状態が面白い。
 3曲目の永井と榊原作によるジャズ・テイストの甘いセレナーデの「ため息の行方」は、スタンダードの域に入る普遍的な響きを持っている。北園がストリングス&ホーン・アレンジ(この曲では間奏からコーダ迄のパートを担当。その他は永井自身がアレンジしている)を担当した3曲の中でも白眉の出来で、木管と弦が漂うオケのトップでヴィブラフォンとローランドのアナログ・シンセを使い分けてアクセントにしているセンスも素晴らしい。
 ここで榊原とデュエットしているのはゲストの新川で、永井はコーラスとキーボード類のプレイに徹している。また北園はウッドベースの他、燻し銀のギター・ソロやハープシコードまでプレイし八面六臂の活躍を見せる。 とにかく榊原と新川のスウィートなヴォーカルとそれをバックアップするコーラスは完璧で、アルバム中もっともリピートしてしまった。
 染谷作の「二人のいた風景」も気に入っている1曲であるが、技巧的なメロディ・ラインを作る一方でこういった普遍的な曲をさらっと書けるのはさすがである。前アルバムでの「君とぼくとのさよならに」もそうであったが、アルバムの中盤以降にこういった隠れた名曲を配置しているのが聴く方としては嬉しいのだ。この曲ではフュージョン寄りのブルーアイドソウル風の長いイントロがエリック・タッグを彷彿させて好きにならずにいられない。シンセのリフがデチューンで解決してソプラノ・サックス・ソロに繋がるという見事な展開だ。
 ラストは染谷と榊原作の「さち子」で、既にライヴでは披露されていた染谷の自信作で、彼曰く「これ以上の曲は、今後僕には作れないと思う。その一言に尽きます。執念と偶然で生まれた曲。」と言わしめた曲である。

   

 一聴するとその儚い世界観に気付かない音楽ファンもいると思うが、ひと夏の記憶を散文詩で綴った歌詞が三拍子を基調とした変拍子のリズムで歌われており、それ耳にすると言葉には言い表せないたまらない気持ちになる。
 解説になっていないかも知れないが、人生にはそういう時期は一度きりしかない。もう戻ることの出来ない青春とはそういうものなのだ。
最後に繰り返すが、本作『ゆめ』は今年2014年のベスト・アルバムに入る作品であることを保証するので、是非入手して聴いて欲しい。
(ウチタカヒデ)


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